第六話 美少女とイケメン、そして陰キャ。……僕だけ違和感ありません??
初めて"感想"を頂き、皆様のお声やブックマークが励みになると再認識しました。
いつもありがとうございます。今日も頑張ります。
全ては順調にいっていたはずだった。
美少女と二人きりでのお出かけの約束をして、最高の休日を過ごすという予定。
それは、元の世界の僕では決して解除されることなど有り得なかった実績だった。
しかし世界は変わり、僕にとっての運命が変わる日―――だがしかし、この実績が解除されることはなかった。
「ごめん、遅れて……って、あれ、あの、陽太くん、その人は……?」
――誤算、ですか?
「あぁ、どうも初めまして。僕は燕尾 司。ただのバイト先の先輩、ってところかな。……君は?」
「あ、どうも……初めまして、あっ、陽太くんと同じ学部の……大学のと、友達、の藍原 唯です」
「えっと……ご、ごめん藍原さん! ……実はさっき先輩と会ってたら、藍原さんと会ってみたいって……」
「あっ全然大丈夫だよ! 気にしないで!」
――そうですね。
それは、藍原さんの私服姿がとても可愛らしく、思わず鼻血が出そうになったこと……じゃなくて。
思ったよりも藍原さんが、一人増えたことに対してあまり気にしていないこと。
そして――。
「え、燕尾さんって、珍しい名前ですよね!? あんま見ないっていうか……! 何て言うかすごいですね!」
「……あぁ、まぁ確かに。藍原さんもあんまり聞かないけどね」
藍原さんが僕以上に燕尾先輩に興味があるということでしょうか――。
……僕は、この世界で驕っていたのだ。
女性が男性を好きになりやすい世界とは言っても、一人の興味ある男性がいればしばらく目移りすることはないのだと思っていた。
だが、よくよく考えれば分かるはずだったんだ……!
そもそも元の世界の住人であるこの僕がハーレムを望んでいたように!!!!
当然、この世界の藍原さんにも、そう思う感情があっても不思議ではない!!!と!!!!!
ふとしたイケメンに靡いてしまうこともあると!!!!!!!!!!!!!!!!!
えーーん……。
イケメンに藍原さんが取られちゃうよ~! 助けて誰かえもん~……。
……ただ、少しだけ気がかりというには些かわかりやすすぎる程に、燕尾先輩が藍原さんに当たりが強いような気もする。
先のカラオケの件でもそうだったけど、女の子に対して強気なんだよな……イケメンだし、何か過去に嫌なことでもあったんだろうか。
っつってもオイ!!!! イケメンは何してもいい訳じゃねぇかんな!!!???
「え、っと、陽太くん、この後どうしよっか……?」
おっと。
今この空間で僕に話を振りますか?
まぁそうでしょうとも。この中で共通の知り合いは僕だけなのですから。
……しかし考えてみてはくれないだろうか?
ここに集うは、美少女! イケメン!! そして、陰キャですよ?
いやいや、さすがに格の差で風邪引くわ。
とはいえ、この状況を作り出してしまった僕にこれは責任がある。
したがって……。
「……そう、ですね~……先輩が良ければ、職場のズボンを買いに行きたいんですけど、いいですか?」
ま、無難な提案でしょう。
そもそもこれが出かける理由だったからね。
「……そうか、それなら問題ないよ。―――(……というか、職場の事なら僕を誘ってくれれば……)―――」
ん?
なんか今小声で言ってたな?
うーむ……こういうのってさ、本当は聞こえない感じが正しいんだろうけどさ?
いや、めちゃくちゃ聞こえちゃったんだけど……。
まぁ確かに職場のことで相談するのはわかるが、何が悲しくてこの世界で男二人でショッピングモールに行くのじゃ?? 絶対に嫌なのじゃ。
だから僕は、あえて。そう、”あえて”ここを聞かなかったフリをすることにした。
「よかったです! じゃ、じゃあ藍原さん、行きましょうか!」
……もしかしたらアニメとか漫画の人も聞こえてるけど聞こえてないフリしてんのかもな……。
◆
「えっと、とりあえずお昼もまだ食べてないので一旦ご飯、とか、どう……ですか?」
僕は集合場所である駅から少しショッピングモールに向かい始めたころ、そう提案した。
正直、カラオケでカロリーを消費したというのもあるが、実際に藍原さんと会えたという安堵感で急にお腹が空いてきて本当に限界なんだ……。
ただ、ここで重要な問題が一つある。
……それは。
「いいですね! どこに行きたいですか?」
「うん、そうしようか。行きたいところはあるかい?」
「あ、えっと、その……」
そう、ご飯の場所決めだ。
……って、なんか人任せ多くないか?? いや提案者が僕だからいいケド……。
しかし……これが仮に藍原さんと二人きりであるのならば、お洒落なカフェとか行っちゃって??
良い雰囲気になっちゃったりして、とかできたのだが、、今ここには顔が良い男―――燕尾先輩がいる。
それはつまりどういうことか。
簡単に言えば、イケメンと美少女がカフェに居たらどう考えても僕が邪魔者みたいになるんだOK?
それに、僕がバイト先以外でカフェに行ったのは今朝が初めてだし、正直同じ場所にもう一回行くのはなんか恥ずかしいし、違うカフェに行ったらそこでなにかやらかしてしまう可能性も否定できない。
ただでさえ今朝の注文の時も時間がかかったんだぞ!!!
働いてるカフェだとサイズがスモール、ミディアム、ビッグなのに!!!!
なーにがショート、トール、グランデじゃ!?
てっきり作ってくれる人の名前かと思って、グランデ頼んだ男の気持ちがわかるのかよ!!
どう考えてもグランデさんが作るのが一番美味しそうだろうが!!!!!
……とまぁそれは置いておいて、だ。
かといって無難にファミレスやファストフード店に入ろうものなら、女性に対して全く好意がないですみたいに捉われることを僕は知っている。
あくまでネットの知識ではあるが、藍原さんルートが断たれる可能性が一ミクロンでもあるのならば避けなければいけない。
くそう……ここで燕尾先輩とか藍原さんでもいいからファストフード店に行こうとか言ってくれないかな……!
ううむ、悩ましいところだが……うん、仕方ない……!!!
「あ~、じゃあカフ―――」
「おや? あんなところにマクルドナドがあるじゃないか。あそこでいいんじゃないか?」
「―――めっちゃいいと思うっす!!!!! さっすが先輩わかってますね~!!!」
オイオイマジ? やるじゃんたまには!!!!
くぁ~! お金の消費も少ないしサイコー!
と思ったけど、大事なことを聞くの忘れてたな。
「あの、藍原さんは大丈夫? あそこで……」
燕尾さんはまだしも、こんな美少女がハンバーガーを食べる姿は想像できないけど、大丈夫なんだろうか?
なんかこう、美少女への偏見かもだけど、ファストフード店に行かないイメージあるんだよね。
……いや、別にファストフード店にいる人でも可愛い人はいると思うんだけど、あの、その……童貞の想像です……ハイ。
「っあ、あぁ! うん、大丈夫だよ! 私も好きだから!」
おぉ、意外。
てっきり勝手にカフェ派だと思ってたな~……って……いや、忘れてたけどそういえばこの認識も逆の世界基準になってるんだっけか。
カフェが男性利用が多いとなると……ファストフード店は女性が行きやすいのかもしれないな。
なーんだ、悩むことなかったじゃん!!
さっ、気を取り直して美味しいものでも食べていきますかー!!
……ふと思ったけど、カフェじゃなくても陰キャの僕が邪魔者なのは変わらないんじゃ―――うん、考えるのはやめよう。バーガーバーガーっと。
◆
ご飯を無事に終えた僕ら一行は、ついに、目的地である少しお洒落な洋服店にたどり着いた。
ふむ、どうでもいいことだけど、僕はこういう場所を洋服店と呼んでいるが、ちゃんとした人らは何て読んでいるんだろうか。
ファッションセンター? 衣服売り場? まぁどうでもいいんだけど、どうでもいいことって気になるよね。
「陽太くんはアパレルショップとか初めて?」
おぉ、読者に優しい藍原さん。
オイ読者ってなんだ? まぁいいか!
「ま、まぁ何度か……? 行ったことあるけど、ここはわかんないな~! 藍原さんは知ってるの?」
うん、何度か近所の服……アパレルショップの店の前は通ったことあるよ。
店前販売もしてたし実質あれは行ったことある判定でいいよね。嘘はついてないし、まぁいいか!
「う、うん! もちろん! このお店は結構前からできてるみたいで、元々は定食屋だったんだって!」
いや、藍原さん、いくらお店に詳しいとは言っても詳しすぎない?
それ服関係ないよね? 深すぎる知識過ぎて逆に浅くない??
でも可愛いから、まぁいいか!
「えっと、燕尾先輩、別にズボンは黒かったらなんでもいいんですよね?」
「うん、まぁ汚れることはそうないんだけど、働いていると珈琲の香りがついたり、たまにこぼれてシミになったりするから、あんまり高くないものの方がいいかもね。まぁ、もし汚れたりしたら僕に言ってくれたらクリーニングに出しておくけどね」
……おぉ。
「……? なんか僕の顔についてるのかい……?」
「……いや、なんていうか、やっぱ僕は燕尾先輩みたいな人になりたいっすね……」
「――っえ!? また、急にどうしたんだい……」
いやほんとに。
顔が良いところは真似できるものじゃないけど、この人の気遣いとか、言葉遣いとか丁寧で良いんだよな……仕事の時じゃなくて日常でもこれが素で出るんだからそりゃ参考にしたいと本当に思えるね。
イケメンでたまにいろいろ邪魔されるから嫌いだけど、性格自体は良い人だし好きなんだよな。
「あ、それならおすすめのがあるから紹介するよ! えっと、確かあっちの―――」
と、僕が素直に感心していると、藍原さんが携帯を取り出しながら僕らを案内してくれた。
……これもまたどうでもいいことだけど、女の子の後ろを歩くと、何の匂いなのかわからないけどいい匂いがするんだよな。藍原さんなんて特に。
しかし恐ろしいことに、燕尾先輩に至っては男なのに良い匂いするのが不思議なんだよな。
あの人柔軟剤とか何使ってるんだろ、今度聞いてみようっと。
「えっと、確かここに……あっ、あった! これこれ~!」
少し歩いたのち、藍原さんがズボンがたくさん並べられている場所にて、一枚のズボンを僕らに見せてきた。
「これ生地が柔らかいけど、ちょっと厚みがあるから熱い珈琲がこぼれても火傷しないんだって――あ、しないんだよね! それに値段も……ほら! 三千円! 少し高いけど、どうかな?」
僕は藍原さんが手渡してきたズボンを手にし、その感触に驚いた。
えっ、藍原さんの手、ちっちゃ~! 柔らかすべ肌~!? ってそっちじゃないか……。
手渡すときに少しだけ手が触れて思わずそっちに意識を全集中させてしまったぜ。
僕に皮膚の呼吸が使えたら実質キスだったんだが……いや、まぁこれは男なら仕方のない反応だよな。うん。別に気持ち悪くないし。
しかし、普通にこの生地はすごいと思う。
手触りが良く、確かに感じる厚みは事故を防いでくれそうでもある。
それに。
ふむ、これが三千円だって??
「うん、これいいね! これにするよ! ありがとう!」
「え、本当に? 他の同じのもあるけどそれでいいの?」
「うん、どれも同じでしょ? じゃあ、僕はお会計してきますね!」
そう言い残して僕は足早にその場を一時離れた。
どれも同じ? バカも休み休み言え!!
なぜこんなにも決断が早いかって?
……もうわかってんだろ?
どう考えても、今僕が手にしているズボンと、他の商品は格が違う。
なぜなら、このズボンは、美少女である藍原さんによって選ばれ、そして、あろうことか、お手手まで触れた至高の一品だからだ!!!!!
これも気持ち悪いと思うか?
だがそれでも僕は一向に構わん!!!!!!!!!!!!!
誰が何と言おうが、この美少女が触れたプレミアズボンは僕のだ!!!!!!!!!!!!!!!!!
◆
「ありゃと~ござい~ぁした~」
さて。
これにて、任務完了。
最高のズボンを買い、時刻は未だ十五時前。
加えるなら、今日は土曜日。
帰るのには少し早すぎるとは思わんかね? ワトソン君。
無論、これが一人であるのならば速攻で家に帰ってゲームをするところだが、今日に限ってはそうでない。
一人の邪魔者はいるが、密かに計画していたものを実行するときが、ようやく来た―――!
幸い、僕は一人でレジに来ていたから、今は二人とは別行動だし、ここでバレずに夜ご飯の場所の予約を……ん?
いや待てよ?
もしかして今、あっちは二人きり、ってこと……?
イケメンと美少女が……? え、いや、え?
そりゃマズくね???????
脳内におじさんの声で"そりゃ悪手じゃろ"という声が響き渡った僕は、急ぎ藍原さんらの元へと戻った。
だが、事態はすでに、遅かったらしい―――。
「あっ、陽太くん! 買えたんだ、よかったね! じゃあ、えっと、その……私、この後実は予定があったから今日は先に帰るね?」
「あ~、僕もこの後予定があるんだ、次のバイトの時に見れるの楽しみにしてるよ」
そう言い残し、呆然と立ち尽くす僕を背中に、二人は同じ駅へと歩いて行き、あっという間に姿が見えなくなってしまう。
いやいや、待ってくれる???
展開早くねぇですか????
帰るの早くない???
名残惜しさ皆無でしたケド????
先ほどまで騒がしく聞こえていた店内のBGMは今や頭には全く入ってこず、しかしこんな時でも僕の頭はどうやら冷静らしい。
……そうか、これが"NTR"……いや、"BSS"というやつなんだろうな……。
BSS。
通称、"僕が 先に 好きだったのに"。
しかし悔やんでも仕方ない。起こってしまったことは受け入れよう……。
いやまぁ無理だがね??
全然強がっちゃいるけども……いや……普通に、ショックで……立ち直れないんだが……。
嗚呼。まさか藍原さんの触ったズボンを僕が手に入れている間に、燕尾先輩は藍原さん自身を手に入れていたとは……。
……これが、経験の差。ってやつ、ですかい……。
燕尾先輩……まさにその手出しの速度、燕の如し……ってかぁ~? ハハッ。おもしれ~男!
なるほど、この逆転世界とはいえ、得るのが一瞬であるのと同時に失うのも一瞬、というわけか……。
―――うん、家に帰ろう。
僕のような陰キャでは、まだ藍原さんは早かったんだきっと。
あぁ、あわよくば……貝になりたい……。
そして永遠に海底に………あぁ、悲しいなーーー。
【応援お願いします!】
「続きはどうなるんだろう?」
「面白かった!」
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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
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更新は"不定期"【AM1時】更新予定です!