女子高生の匂いのする香水を使ったら
世の中にはおかしな商品がジョークとして資本主義の商品棚を埋め尽くしている。
恋愛と資本主義と同じくらい、退屈・娯楽と資本主義なのだ。モテるためと、面白いやつと思われてるために思春期の男子は立派に小さな財布の紐をゆるめる。
ということで、近くの大きな雑貨屋で、女子高生の匂いのする香水を買ってきった。不味そうな新商品のお菓子の味を試すようなものだ。雑貨屋のコスプレ衣装を買わなかっただけ俺は正常だ。バニーガールやミニスカサンタコスやナース服なんて、ジョークというよりもはやムッツリと判断されかねない。
しかし。
だがしかし。
オモシロ香水はセーフだ。
まさか、匂いフェチの変態扱いされるわけはないだろう。たしかにニーソやストッキングや女子の汗の匂いに神秘的な憧憬を浮かべるときはあるが、それはただの未知への冒険心であって、別にその匂いが好きとかいう嗜好ではない……はずだ。
さて、俺は、女子高生の匂いを身にまとい、いや女子高生の匂いって具体的になんだよと思いたくもなるが。
ラクトンというピーチやココナッツ系の甘いに香りなのかもしれないが、そこまでクンカクンカしたことはないので、ただのネット知識。
「他の女の匂いがする」
幼馴染が俺の襟首をつかんで、いや掴み上げてヤンデレ系少女のような瞳で俺を見つめてきた。
「わたしが使ってる柑橘系のじゃないニオイ。いったい、どこでこんなにつけてきたのかな」
襟首からネクタイへ手が伸びて、ぐっと首元を締め上げられる。
い、息ができない。
「こ、ごほっ。これ、これの匂い」
俺はなんとかかろうじて腕を動かして、スクールバックから女子高生の匂いのする香水を出した。
幼馴染は手を離して、それを受け取ってしげしげと見つめる。
「わたしの匂いは女子高生の匂いじゃないと」
あっ、ヤメレ。香水を指で潰そうとしないで。まだ遊び足りてない。もっと、俺はこれを男友達とかにふりかけて、スメルハラスメントする予定なんだ。
俺と同じようにカノジョに疑いの目をかけられて修羅場するところを見たいんだ。
「いや唯一無二の匂いです。こんな紛い物の香水とは比べものにならないぐらいいい匂いがします。だから、体育のあとに嗅ぎに行きます」
「それはキモいから。無理」
幼馴染は蔑んだ目をしてくれながら、香水を手放してくれた。
よし。カノジョの手から香水がかえってきた。助かった。俺の女子高生の匂いバラマキ戦法はまだ始まったばかりだ。
「世の女子のマーキング戦略をバグらせてやる」
「女子の匂いって髪の匂いだと思うけどね」
「俺はそこまで長髪にできんのですよ」
「男も切らなきゃ伸びるでしょ」
「女がムキムキにならないし、男が育乳しても大きくならないように限度があるんだ」
「でも、わたし電柱ぐらいなら振り回せるよ」
それはあなたがおかしいんです。現実世界では拳で道路は陥没させちゃダメなんです。アニメ漫画的表現なんです。爆発しても次のページではピンピンしているのです。
「それで、その匂いをつけて、わたしに締め上げられたいだけじゃなくて、どうしたいの」
「俺をM男みたいに言うんじゃない。無駄な抵抗をやめているだけだ。まぁ、そうだな。まずは、俺は童貞を卒業したアピールをして遊ぼう。そのあとは、香水を振り撒きあるこう。今日中に使い切る」
「じゃあ、キスマークつけとくね」
幼馴染が俺の首に、グチャリとギャァアアアアアッッッ。
「信憑性が増したね」
「ありすぎて冗談って言葉が抜きになりそう」
ジョークはジョークと分かる人にしないとダメなんですよ。嘘は嘘だって見抜けるぐらいがちょうどいいんです。
これだとガチだと思われて、根掘り葉掘りされて、処女が恋愛豊富を演じるみたいな状況に陥るだろう。恋愛相談されたらどうするんだ。こんな特殊なカノジョを一般化して話せませんよ。
「おまえ、いい匂いするな」
あっ、うん。
男友達Aくん、僕にはBLの気質はないから。そんなイケメン面で、そんな言葉言わないで。
「なんか女子みてぇ」
あっ、ちょっ、ああ、僕の貞操が、やめて、後ろからハグするようにしながら顔を突っ込んでこないで。
「石鹸の匂いかな」
やめ、やめろっ。クラスの女子の視線がドッキドキだろうが。ここはBLゲーの世界じゃないんだ。
俺は、女子高生の匂いで男友達を誘っているわけじゃない。
「ほんとか」
「俺にもかがせて」
来るな。男友達BC。
やめろ。俺はお前たちにふぇろもんを撒き散らしてない。かぎにくるな。目の前の女子の匂いを嗅げ。俺の匂いを嗅ごうとするな。
あー、あーれーーーーーーーーーーー。
酷い目に遭った。
女子高生の匂い香水を吹きかけて、自家発電させて逃げてきたが。
全く香りとは恐ろしい。恋愛は体臭が大事と、恋愛のマニアックな本できくけど。
いかんな。クラスメイトにはすでに匂い効果が失われてしまった。タネのバレた手品は、することができない。
ここは後輩に、先輩という名の立場を利用してパワハランドだ。
「俺の匂いをかげえええええぇぇぇぇっっっっっ!!」
こうして俺はバランスをとった。
なぜ、こうもうまくいかないんだ。
もういいや。
職員室の先生の上着に吹きかけたあと、俺はこっそりと上着の内ポケットにプレゼントした。
先生、ご家庭で楽しい日々を。