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再会

「家賃十万……。十万かぁ…………」


 等とつぶやきながら、宗弥クロネコヤマトから送ってもらった段ボールに荷物を詰め込んでいく。


 引っ越し準備のために部屋の片づけをして、ゴミを捨てたところ大して荷物は残らなかった。仕事しかしていなかったんだなということをしみじみと思った。


「だから言ったじゃねーかよ。別にここで良いって、それに物件探している時も別にそんな気にしなくて良いのに宗弥がいろいろこだわるから、散々物件巡りした後で家賃上がったんだろ? 受け入れろよ」


「だって、僕は……無職だ。まだ、有給消化中だけど、僕は無職だ。転職活動をしなきゃいけないのに、僕は無職だ。ああ、それなのに家賃十万円とか言うおよそ今の家賃の1.5倍も高い家に引っ越しをしてお前の学費を払い、食費を払い……。なのに僕は無職だ」


「なら仕事探しにいけや。箱詰めならあたしがやっとくけど」


「いやだ、働きたくない! 心と体が疲れた僕の体はボロボロだ! 今は絶対に働きたくない!!」


 エマはそこまで聞くと、フンと鼻を鳴らし梱包作業を再開した。完全にあきれ果てたらしい。宗弥もあまり意味が無いことに気が付いて梱包作業を再開した。


 何はともあれ、稼ぐ必要がある。それなり以上に稼ぐ必要があるということだった。


 引っ越し先に関してはここからはそう離れてはいない1LDKの物件。


 それなりにそれぞれのプライバシーが担保され、年頃の女の子と暮らしていてもあまり意識をしなくても良い空間で、女の子もいるということであればそれなりにきれいなところで、2F以上でバストイレ別だの条件を重ねていった結果家賃がそれなり以上になってしまった。


 稼ぐ手段を改めて考えなければならないということはいつでも憂鬱だった。


 冒険者ギルドで紹介者を生業として軌道に乗せるまでも、まあ、大変だったし、魔王となったあと最初の仕事が資金集めのための商売だったが売れる商品はすぐに手に入ったが商圏を広げるのはしんどいものがあった。


 金を稼ぐということはとてもつらい事なのだ。


 今回の状態で考えるのであれば、収入レベルはこれまでよりももっと稼げるところにいかないといけないということなので普通に転職をするということを軸に考えたいが、独立をするということも計算が出来次第考えても良いのではないかとも思う。


「粗大ゴミ捨ててくんね」


「おう」


 と、エマが答える。


 解体して畳んだ棚をビニールひもでくくって脇に抱えて、扉を開けたところでインターフォンを押そうとしている男と目が合った。


「え、あ、久しぶり」


「久しぶり」


 インターフォンを押そうとしていた男は平均より少し背が低く、がっしりした体形の男で、意志の強そうな顔をしていて、昔の知り合いの高木理人だった。


「どうしたの?」


「どうしたのって、いやこっちの方の事業が軌道に乗って来たから声掛けに来たっていうか……」


「あー、そういやそんな話してたね」


 興味なさそうに宗弥が答えた。


 高木はそもそも宗弥がつい先週まで働いていた会社で、一緒にやってきた仲間だった。なんやかんやあって、独立し宗弥もそれについていく予定だったがどうにも残った会社の人たちを見捨てることが出来ず結果としてすべての負荷が宗弥に降り注ぎ宗弥一度死ぬ羽目になった。


 結局のところ高木が去った理由であり、宗弥も出たかった理由というのは宗弥の死によって一度は証明されてしまった。


「客か?」


 後ろで荷物の梱包を行っていたエマが顔を出す。


「まあ一応、いいやとりあえず上がって。明日引っ越しだからお茶も出せなくて悪いけど」


「あ、ああ、お邪魔します」


 おずおずという感じで高木は入って来た。


 高木はネイビーのパンツにTシャツを着てその上にジャケットを羽織っていて、靴はナイキのスニーカーだったけれども、時計はロレックスのダイヴァーウォッチを付けていた。


「そちらのお嬢さんは?」


「谷山エマだ」


「事情があって、しばらく一緒に暮らすことになったんだ。それでこの部屋ではいろんなことが厳しいから引っ越すの」


「……お前それはダメだって」


 高木にじっとりした目線で注意された。


「彼女はこっちに留学しにきているんだけど、ホストファミリーでごたごたがあってどういう訳か急遽僕んとこに来ることになってしまった一時的な処置ではあるんだが……」


「それ嘘だろ」


「ンン」


 秒速で設定を看過された。滑らかにしゃべったつもりでいたがそれなりに長い事一緒に過ごしてきただけの事はある。


「どんな事情があるかは分からないけど、独身の男とどう見ても未成年の女の子が一緒に暮らすってのは異常過ぎる。もしも身元がハッキリしているのならもとに戻すべきだし、そうでないならば公的な方法に頼るしかないと俺は思うんだけど」


「心配すんな、宗弥にそんなことをする度量はねぇよ」


「エマ!」


「それは認める」


「認めるんだ!!」


「認めるけどそういうことじゃないんだ。久しぶりに来て行きなり説教するのもあれなんだけどさ……」


「最初からクライマックス展開になるとはな……」


「宗弥……?」


 エマが不安そうにこっちを見ている。どうにも関係性や背景などで突破できるような状況でもなかった。これはちゃんと腹を据えて話さないといけないなという気がしてきた。


「ちゃんと話した方が良さそうだな。聞いたうえで判断しなよ」


「やっとその気になったか」


「まず、最初に言うけど、エマは外国人じゃなくて異世界人だ」


「いきなり飛ばして来やがったな」


 理人が眉を寄せて渋い顔になる。


「ラノベでよくある異世界転生ものってあるじゃない? あれをちょっとやって来ましてね、ちょうど一昨日ぐらいに交通事故で死んで異世界に行って世界救ったりして帰ってきたらどういう訳かこの娘がやって来ましてね」


「いくら何でも説明が頓狂すぎんだろ」


「いや、ホントなんだって宗弥は異世界人としてあっちの世界にやってきて、あたしたちと一緒に魔王を倒したり、魔王になったりしながらやってきたんだよ。で、アタシは魔王になった宗弥を倒してこの世界に来たんだ。戸籍とかいろいろなんかエロい女神に作ってもらったんだ」


「待て、いろんなことが追い付かない」


 高木は顔を覆って目のあたりを揉んでいた。社会的にいけないな何かだと思って突っ込んだら、より訳の分からないファンタジーに跳ねた。それは、仕方ないことだなと思いながら宗弥は眺めていた。 


「エマにこの世界での戸籍は無いし、後見人を出来るのは本当に僕しかいない。からこの件に関しては分かってほしい。よりお金がある状態なら、彼女を別のところに住まわせるって選択肢もあるけど今選べる現実的な話がちょっと広い家に引っ越すって事なんだ」


「分かった事情はなんとなく分かった。エマちゃんがなんかどこの国の人か分からないのもただならない感じなのも理解した。そういうことならもう少し詳しく話を聞かせてもらっても良いかな?」


「分かった。引っ越しの準備も大体終わったしこの粗大ゴミ捨てたら、近くのカラオケに行こうそこでいろいろ話すわ」


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