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異世界ちょうどいい

 御山高校というのは宗弥が住んでいる地域にある、合格平均偏差値60ぐらいのちょっとした進学校だ。男女共学のごく普通の高校である。なんとなく宗弥が通っていた高校を思い出すような気がしていた。


 学校というのは門から建物までが遠く守りに適しており、許可されたものでなければ入るということに関して大変なためらいを抱く城塞みたいなもんだなと校門の前に立ち思うのであった。


「い、行くぞ……!」


「クッソ挙動不審で気持ち悪いけど大丈夫なのかよ?」


「大丈夫だ……。問題ない……」


 凛とした顔で答えたつもりであったが、その実青ざめており冷や汗が止まらない。


 エマの留学先がなんやかんやあって離散したまたま通学圏内にあった宗弥が後見人となり一緒に暮らしながら学校生活を送る手伝いをするという設定だ。役割は純粋に保護者なのだが、性犯罪者予備軍として見られないかとか、いざという時のアドリブのパターンが想定しきれずに想定外の質問が来た場合の対応方法が恐らく硬直になってしまう可能性が高い。何か一つでも不審点があれば、あらゆる偽装ははげ落ちるだろう。異世界パワーによる文書偽造も終わる可能性がある。


「なんかゴチャゴチャ考えてるだろうけど、多分大丈夫だよ。そこまであの女神は無能じゃない」


「……そうなら良いんだけどな」


 守衛さんに話しかけてそのまま案内されるままんに応接室に通される。


 ソファーに腰かけているとしばらくして、若い女性が入って来た。恐らく先生であろう。


「初めまして~、1年C組、谷山さんが転入するクラスの担任の神田です。よろしくお願いします」


「保護者の伊達です。よろしくお願いします」


「どうぞおかけ下さい」


 一度立ち上がったが促されてソファーに座った。


 それから明日以降の過ごし方について説明を受けた。朝礼が何時からで何時までに来ないと遅刻扱いになるということや、初日に関しては一度この応接室まで一度来て欲しいという話。明日以降のカリキュラム、時間割についての説明。連絡方法の共有。以前の学校より、成績や素行についての報告は聞いているが(偽造情報)実際に実力テストは一度受けて欲しいということ。


 そして給食は無く、校内の自販機か昼にやってくる業者から買うか、多くの人はお弁当を持参しているという。


「……お弁当……ですか……なるほど?」


「伊達さんは、お弁当を作られないのですか?」


「まあ、最近までは男の一人暮らしだったもんで、割と自分自身の生活にも気を使えない状況であったと言いましょうか……お恥ずかしい話で……」


「ところでなぜ伊達さんのところに谷山さんは暮らすことになったのでしょうか? 見たところお若く見えますし、ご家庭の事情もあるかとは思いますが……」


 お、来たぞ。


 向こうとしても突っ込みたくないけど、突っ込まないとならない熱いポイントが。


「外的な状況としては、当初谷山さんの親戚筋である家族をホストファミリーを頼ってこちらに来る予定だったのですが、突然一家離散のような危機になってしまいまして、他にもいろいろ手段はあったかと思うのですが谷山さんのお父様に学生時代に大変お世話になりましてエマさんとはその頃から面識がありました。ホストファミリーを探してもなかなか見つからないということもあり、割と突然だったのですが恩もありますのでお話を受けることになりました」


「なるほどですね……。私自身もお話の概要自体はうかがっておりますが、伊達さん私とそんなに年変わらないですよね?」


「まあ、多分そうですね」


 神田という女教師は恐らく宗弥より2~3歳ぐらい若いぐらいだ。


「この年になって思うことですけど、案外この年って子供からみたら大人に見えますけど私らって結局子供じゃないですか? それなりに長い期間一緒にいることになると思いますがいろいろ大丈夫ですか?」


 この神田という教師思った以上にぶっこんでくる。ここから先はお前の本音で話せよという強い気概を感じる。


「大丈夫じゃないですか……たぶん?」


「多分?」


 嫌なところにボールが落ちた気配を感じ取った。神田の目が見開くのが分かった。


「多分じゃねーだろ。大丈夫だって自信もって答えろ宗弥」


 宗弥と神田が同時にエマを見た。


 エマは不遜に腕を組んでソファーにもたれかかっていた。え、お前が保護者なの?


「親父があれこれ考えている時に、宗弥が確かその辺に住んでるって聞いたから聞いてみたらっていったのはあたしなんだ。ちょっと前だけど、日本に来て数週間宗弥に世話になったことはあるしあたしがこの国で一番信頼しているのは宗弥なんだ。若いとかそういうのはあんまり関係ないと思うぜ?」


「それは、本当ですか?」


 神田は宗弥を見て聞いた。


「まあ、一応事実ではありますし彼女とはそれなり以上の信頼と因縁のどっちもあるとは思っているので」


 実際問題、この世界では無いものの貧乏すぎて数週間一緒に暮らしていた時期はあったし、たくさんの仕事を一緒にやった。自分が魔王になった時にはとどめを刺しに来てくれることを信じていた。


 確かに、宗弥とエマをつなぐものは強い信頼に他ならなかったということを、言葉に出してはっきりと自覚したのだった。


「……事情は概ね理解しました。教科書をお渡ししますので、こちらでお待ちください」

 神田が一度応接間を出て、教科書を取りに行く。出て行ってことを確認してようやく呼吸が出来るような気持がした。


 なんとか乗り切ったようだった。背中は冷や汗でびっちょりしており、汗が冷えて冷たくなった。


「だから言っただろ、自信持てって」


「マジでエマの言ったとおりだったわ」


 それから、教科書が渡されてエマの実力テストが別室で行われた。


 宗弥は応接間で適当に暇をつぶしてそれからテストの結果を聞いた。


 神田はシリアスな顔をしており、エマはあまりの手ごたえのなさから顔が青ざめていた。


「英語は文句なし、さすがにイギリスで暮らしていたことはあるし、国語も点数が高かくて歴史も平均点程度だったのですが、理系科目が壊滅的でして…………」


 返された点数!


 英語 98点

 国語 75点

 歴史 60点

 理科 4点 

 数学 1点


 選択問題はそれなりにあったはずだ。これは明確に途中で心が折れて回答をあきらめた人間の答えだろう。


「これらに関しては正直中学校、ひょっとしたら小学校で躓いている可能性があります。伊達さんの支援がある程度以上は必要になると思います……」


 あの女神、世間一般的な常識は授けたのだろう。なんなら、設定と矛盾が無いように外国語に無駄にステータスを振っている。


 異世界チートではなく、異世界ちょうどいい能力。


 だが、あの女神の想定していなかったことはこの物語は学校を舞台としておりこの世界における科学や数学という魔法に該当する知識を授けていなかったのだ。


 ちゃんとやれ! ガイダンス! と言いたいところだが、ある意味仕方ないなと思いつつその一方でそれなりに破綻のないように仕上げてくれたことには感謝をしつつ、まわりまわって自分の時には何にもしてくれなかったのになぁという複雑な気持ちになった。


「この感じ、多分算数から始めた方が早い気がします。帰りに算数ドリルを買って帰ります」


「おい、何言ってるかはわかるぞ。そんなに馬鹿じゃないぞ!」


 と、隣でエマがじたばたしたが授けられていないのであれば仕方がない。


「ご支援いただけるのであれば大変助かります。お話は以上になります。では明日からよろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 神田が立ち上がったので、宗弥も立ち上がり礼をした。


「では、谷山さんはまた明日からよろしく」


「エマでいいよ?」


「みんながあなたのことをそう呼ぶなら、私もそう呼びますね」


 と神田は笑うのだった。


 それから、家に帰る途中で算数のドリルと理科の教科書を買い、家に帰って猛烈に勉強を始めたのだった。宗弥体調が悪くなって、翌日昼まで寝た。起きたらエマは学校に行っていた。


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