エピローグ 長い休暇
「何難しい顔してんの? 便秘?」
恵がエマのシャープペンで指して言った。
放課後、近所のファミレスで勉強会が開かれたが、エマは何となく身が入らずに考え事をしていたらそんなことを便秘を疑われた。
「そんな難しい顔してたか?」
エマが答える。
確かに眉間の辺りにストレスを感じるので、軽くもみほぐしていく。
「また、宗弥さんのこと考えていたんですか?」
香澄が聞いた。
「不本意ながらそう。でも、なんか本当に分からなくなっていて……」
「というかそもそもどんな関係なの?」
と、樹里が聞いた。
エマは、30秒程度どう話したら良いんだろうということを思案しながら、まあ話しても良いだろう聞き入れられなかったり面白話になるならそれはそれで良いやと思って切り出した。
「実はあたしは、異世界からやって来た人間なんだ」
一様に豆鉄砲を食らったような顔をした。
何か突っ込みの言葉を必死で三人が探している様子だったが、欲しいのはそういう反応ではない。
「別に、面白い話するわけじゃないから信じないなら別に信じなくても良いんだけど、宗弥とあたしの話ってまずその前提から入らないと喋れないんだ……」
といったところで沈黙が発生した。恵と香澄が俯く中で、樹里だけはじっとエマの事を見ていた。
「話してくれよ。実はエマについて色々インターネットで調べてみたんだけど、何処にも記録が無いんだよ。柔術はほとんど経験値だとしても、その打撃のスキルとレスリングのスキルは世界中のどの大会にも記録が無い。何か一子相伝のすごい武術をやっていてなんてのはあるのかも知れないけど、人と競わずにプロの格闘家を圧倒できるような女子高生なんてのは存在しないんだよ……」
「ソーなの?」
香澄が恐る恐る聞いた。
「本当だよ。美緒も気になってたからいろんなつてを探してみたけど、結局みつからなかったから良く分からない武術仮説というのが一番強くなったんだけどね。異世界人ということなら、それはそれとして私は納得できる」
「マジかー……」
恵は天を仰いだ。
「オーケー、準備が出来たみたいだから順番に話していこうか」
それからエマは異世界での自分の出自と宗弥との話をした。
本名はエマ・バレーで、ドラゴンスレイヤーの騎士団の家元で一番の実力者。精神的な未熟さを指摘されて家を追い出されて冒険者になり、宗弥と出会う。
宗弥と様々な強敵を倒し、宗弥と一度別れるが再開するときは敵味方となっており、宗弥を倒し世界に平穏をもたらした。
宗弥が現世から選ばれた勇者であるのなら、エマは元居た世界から選ばれた勇者なのである。
「……それでまあ、魔王(宗弥)討伐ボーナスみたいなので、元の世界に帰るかこっちに来るか選ぶことが出来て、それで、こっちに来たんだよね……」
「え、何で?」
恵が聞いた。
「あいつ、ほっとくと死にそうなんだよね、最初に倒したファブニールの時も死にかけてたし、最後も自分が死ねば全部解決するなんて考えで戦いを終わらせようとしてたぐらいだから……なんか、心配で……」
「ええ↑そんな、破滅願望が!!!!! 推せる…………!」
「お前は座ってろ」
「はい……」
突然香澄が立ち上がったが、恵がすぐに座らせた。
「納得の強さ……。あ、柔術じゃ負けないからね」
「樹里、待っとけすぐにぶち抜いてやる」
エマと樹里の間に稲妻が迸った。
「はいはい、それでなんで20歳ぐらい老けるぐらい考え込むんだよ言ってみろ」
恵は促した。
「あいつ、ずっとこのままで良いって言った後に何も決めずに全部後回しにするって言ってた」
恵と、香澄が一斉に頭を抱えた。樹里は理解できていないようだった。
「やはり雄としての能力に関しては低いということは否めないですね……」
「あの人は……」
「え、それって他人と他人が家族であるってことだから……」
樹里がしゃべりかけたところで、恵が口をふさいだ。
「黙ってろ天才、今良いところなんだ」
「?」
樹里は首を傾げた。
「心配してきてやったのにってのも、もうおこがましいけど、なーんかあいつはあいつで楽しそうにやってるし……言い寄ってくる女はいるし、何だよって思ってたけど、ずっとこのままが良いって結婚てことか?」
「ああ、……言っちゃった。面白かったのに」
「面白いことは無いだろ」
恵が残念がっていた。
「宗弥さんのことは好きなの?」
「そういう感じでは無いんだよな。あいつがピンチならあたしが絶対に駆けつけるし、あたしのピンチにはあいつは絶対に駆けつけてくれる。そんな感じだと思うよ」
「それは……恋愛すっとばして結婚しているのよ……」
香澄が頭を抱えてうずくまってしまった。
「結婚かーーーーーーー……………」
エマは気のない返事をしてしばらく空中に視線を彷徨わせた。
全員の視線がエマに集中していくことを感じながら、パズルのように散らばった宗弥との思い出をかき集めて一つの絵を作ろうとして何も分からなくなったので考えることをやめた。
「今のままで良いか。考えても何にも分かんねぇや」
エマを見守っていた三人がずっこけた。
「やっぱり君らお似合いだと思うよ……」
呆れと関心が混じった声で恵が呟くように言った。




