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ガードリテンション

「これが……言っていたやつか……」


「隠していてすまなかった……」


 家に帰ってからエマに出せと言われて、デスクの中からDVDを取り出して一緒に見ることになった。この教則DVDとしては比較的古い部類に入るが、今でも販売され続けているベストセラーだった。


 見ている間に簡単に夕食を用意して、食べながらみて、終わったら帰りの途中に買って来たアイスを食べながら一緒にDVDを見ていた。


 しばらくの間何回か見ていたが、久しぶりに見返してみると新しい学びもあった。


「なるほどなー、美緒にそろそろ下覚えろって煩く言われてるから、参考になったわ。ちょっと借りていて良いか?」


「もちろん」


 といっても家にある訳だけど、エマが見たい時に見ることが出来るというのが大きいのだろう。


「最近どうよ、学校とか楽しい?」


「なんだ? いきなり」


「なんとなく聞きたいんだよ。こんな誰も知らないようなところにやってきてうまくやれてんのかなってちょっと思っちゃっただけだよ」


「んー、まあ上手くいってんじゃない? なんだかんだ友達は出来たし、勉強もそんなに苦しんでいる訳でもない。ただ、何してれば良いんだろみたいなことはずっと思っているよ」


「立身出世のために出てきたらとんでもない戦いに巻き込まれるんだもん。そりゃそうでしょう」


 エマは以前の世界にいたころ、名門竜騎士団の一家を半ば放逐されて冒険者となって冒険者ギルドの紹介者となっていた宗弥と組むことになって、それから大きな戦いを経て完成に至った。平和な世の中になって、ましては外敵もいないこんな世界では何したら良いんだと困惑するのはまあ真っ当な事だろう。


「でも、楽しいは楽しいよ。宗弥助けるまでも無かったのが肩透かしだったけど」


「すいませんね……」


「この世界が良かったのもあるけど、ちょっと視野が広がったのかな。すごいなって思うものは素直に認めて学ぶことが出来るようになった気がするよ」


「樹里ちゃんたちの事?」


「そうだよ……」


 そっぽを向いて、エマは俯いた。


 あれからしばらくして、この家は入り浸っても良い家という認識をされたのか(宗弥が舐められている)度々やってきては勉強会をしたり、駄弁ったりしている。


 それぞれに特徴があって、個性的な友達でエマはみんなを認めているしみんなもエマを正しく受け入れて認めている。


「お前はどうなんだよ。すっかり腑抜けちまって」


「腑抜けて生きて来たかったんだよ……ずっと……」


「腑抜けたかったってマジかよ」


「そうだよ。働き始めてから、割とずっと過酷だったというか、まさか異世界転生してももっと辛い仕事を与えられるとは思ってもみなかったし……。今、幸せ……本当に幸せ」


「それってあたしが居ても居なくても変わらなかったか……?」


 不安そうな目でエマはこちらを見て来た。


「そんな目で見るなよ。来てくれて助かったよ。君がいなかったら、もっとみじめったらしい暮らしだったはずだ。生きてはいてもこうじゃなかった、会社は多分ぎりぎり辞めているんだろうけどこんなにうまく行ってなかった。いつだって人生が回り始めるのは君に出会ってからだったんだよ……」


「ホントかよ」


「ホントだってば。疑うなよ。それでもこれからの事ってのは何となく考えないといけないんだよな。この生活はしばらくは続けられるんだけど、エマが元の世界に帰るって可能性もあるし、独立して別々に暮らしたりすることだってあるかもしれないし、ってことまで考えなきゃいけない。エマはどうしたいの?」


「どうしたいって、今はこれで良いけどさ……わかんねぇよ」


「僕もずっとこのままで良いのかなって思うんだけどね、どうあるべきなのかってことは全然分からないよ」


 ずっとこのまま、それはひょっとしたら結婚なのでは? という文言がF1カーのように頭を通り過ぎていった。エマは呆然としている様子だった。


「長い休みをもらったみたいな気持ちで今は全部先延ばしても良いんじゃないかなって思うんだけど、どう思います」


 そこまで言うとエマは少しあきれたように笑った。


「言うと思ったよ。分かったよ、あたしもしばらくは何にも考えないで何となく楽しくやってみる。どうあるべきなんてこと、今は確かに考えなくても良いのかもな」


「下覚えることぐらい?」


 下とは柔術のガードポジションの事である。


「そんなもんだな」


 長い戦いの果てに得たものが、この休日のような毎日なのだとしたらあの戦いも自分にとって無駄なんかじゃなかったんだなと受け入れることが出来そうだった。

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