和解?
「エマ、帰りにごはん食べてに行かないか?」
「うっさいわ」
宗弥はクラス終わりにエマを追いかけて後ろから声をかけたがあっさりいなされた。
「駅前のファミレスで好きなだけ頼んで良い」
ピクリと反応するところがあった。
道場の帰りに外食をして家に帰るというのは珍しくなかったが、結局ファミレスが一番良いというのがお互いの認識だった。
普段は1品ずつ頼むというのが暗黙の了解であったが、食べ放題ということであれば話は別ということであるらしい。
「デザートも何品頼んでも良いんだぞ……」
宗弥はダメ押した。そう何回も使える手では無く浅ましい一手だが、一回目ならば筆誅する。そんな確信があった。
「本当か……?」
エマは睨みながらも嬉しさを隠しきれない顔をしながら振り返った。
「本当だとも」
チョロいと思いながら、笑いを堪えて答えた。
「分かった。そうしよう」
ところ変わって、イタリアン風のファミリーレストランへとやってくることになった。そう、具体的にはサイゼリアである。
エマは席に着くなり、オーダーシートに片っ端から食べたいものを書き込んでいった。小エビのサラダ、たまねぎのズッパ、青豆の温サラダ、エスカルゴ、アロスティチーニ、ソーセージのピザ、プリンとティラミス。そしてドリンクバー。シートとメニューを確認しながら、なるほど容赦がないと思った。
宗弥は宗弥でカルボナーラと生ハムとワインのデカンタを頼むことにした。
飲まなければ話すことも話せないと思ったからだった。
店員を呼びオーダーシートを回収してもらうと、エマがテーブルに肘をついて前のめりになって睨んできた。
「なんか話あるから呼んだんだろ? 料理が運ばれてくるまでの間なら聞いてやるよ」
「まあ、そうなんだけど持ち時間少なくない?」
「お前は酒を頼んだな。酒の力もやや借りつつと思っているようだがそうはさせないし、長い事聞いてやろうとも思わない。あと、あたしは未成年だからなそんなに夜にフラフラしている訳にはいかないのよ」
「なるほど……ここまで考えて入って来たということか」
「当然だろ」
長い事一緒に仕事をしてきた関係だったからか、なんとなくお互いのやることというのは阿吽の呼吸で分かっているような節がある。
それはエマにしても宗弥にしても思っていることだった。
「どうせ、話したい事ってあの女に告白されたことだろう?」
「そうだよ」
「別に、あたしはお前が誰と付き合あおうが知ったことじゃないし、なんか言う権利もない。ただ、ムカつくというはだけだ」
「ムカついてはいるのかよ……」
「当たり前だろ、心配してやってきたら勝手に誰かとイチャつき始めているし、なんかあたしが来たのもただのお節介でしかないんだけど、それはそれとして腹立つ」
「悪かったよ。でも、なんか今の自分って特になんにも目的が無くてね、自分の人生とか幸せって何なんだろうって考えても良いのかもなって思っていてさ……。なんか生きている心地がしないんだよ」
「そうなのか?」
「君とずっと一緒にやってた頃は、命の危険がずっとすぐ隣にいてひり付くような毎日だったからね。今はそんなことをしなくても生きていけるし、お金もそんなに悪くないだけ稼げている。だから、もっと自分自身とも向き合わないといけないんだなって気がしているんだ」
「ま、こんだけ平和ならそんなこと思っても仕方ないよな」
過労によって宗弥はこの世界で一度死ぬ羽目になってしまったが、結局異世界に転移したあとの方が仕事量は増えていて、その上で死にかけることは度々あった。
今となっては人道的な労働が与えられており、それなりに負荷はあるけれどもそんなに大変なこともない平凡な毎日だ。
「そんな訳で、西原さんと今度デートをしてみようと思うんだ」
「なんでそうなるんだよ」
「実は僕も良く分かって無いんだ。良くも悪くもぶつかって来てくれるなら、自分のことをもっと知ってほしいって思ったんですよ。だから行ってみようと思う」
エマは顔をしかめていたが、しばらくすると笑って、
「なんか、ムカついたけど宗弥らしいなって思ったよ。飲み物取ってくるわ」
どういう訳だか、エマは納得してくれたらしい。
それからはサイゼリア食べ放題が始まり、宗弥は酒を飲み始め今日のスパーリングの反省会をすることになったのだった。




