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スーパーな異世界人

 宗弥はアポイントを済ませ定時の三十分前に会社に帰り、適当に事務処理を済ませると個人ロッカーに突っ込んだ柔術着を取って道場へと向かった。


 クラスが始まる前に到着したが、すでに柔術着に着替えたエマがマットスペースの中央で圧倒的な「覇気」を放っていた。宗弥を見つけると覇気の矛先が宗弥へ向いたような気がしたが、クラスが始まる前に納まったのだった。


 美緒のクラスはいつも通り和やかに進み、エマは体格の合う樹里と打ち込みを行い、宗弥は近くにいた後藤さん(45歳、紫帯)に出て来た技について教わりながら打ち込みを行っていく。


 今日の技に関してはXガードの基本的な作り方と、スイープを数種類教わった。


 初めて聞く技なので後藤さんにデティールを教えてもらいながらなんとか、形にしてやっていく。


 自分の実践のどの局面で使うのだろうということをふんわり思い浮かべながら頭の片隅に置いておいた。


 後藤さんに「これってどんな時に使えるんですか?」と聞いてみたら、「こういうのは組み合わせだから、僕もこれはあんまり使わなかったりするんだよね。ただ、知っておけば受けたときに少なくとも初見の技ではなくなるから覚えておいて損はないと思うよ」と優しく教えてくれた。


 それからスパーリングが始まり、打ち込みで組んでいた後藤さんとそのまま一本目は組むことになった。


 白帯の自分からすれば紫帯なんていうのは、強いを通りこしてもはや理解が及ばないレベルに位置している殿上人のような人たちだった。


 しかし、自分から見てはるか高くにいるこの人たちを樹里やエマが引きちぎっている光景は割とよく

見ていたのだった。


 後藤さんは初心者にもやさしいので、自分が一本取った後は宗弥にも一本取らせるということを心掛けているようで基本的には宗弥の仕掛けに対してのリアクションをするようなスパーリングを行っている。


 技の仕掛けの段階を掛けさせはしてくれるのでとてもありがたい相手なのだが、取りに来るときはその形のミスを容赦なくぶっ壊して取りに来る。仕掛けはとりあえず出来るので終わった後に落ち込むというのが特徴だった。


「ありがとうございました」


 後藤さんとのスパーの5分が終わり3本取られた。


 ゆっくり動いているはずなのに何も反応することが出来ず自分の攻撃は大して通じずに死んでいく。辛いが充実した時間だった。


「おう、宗弥やろうぜ」


「エマ?!」


 後ろから声を掛けられ振り返ると、先ほどの覇気を放ったエマがそこに立っていた。


 スカウターなど無くても分かる。宗弥は触れ合った瞬間に死の定めにあることを確信した。


「やろうか……」


 数秒でタイマーが鳴り、心の準備が整うことは無くエマとのスパーリングが始まった。


 グータッチをしたのもつかの間、エマにレスリングで言うところのニータップでテイクダウンを食らいガードに入れようと思ったらエマはすでにサイドポジションにおり、そのまま腕を取ると腕十字を決めた。


 信じられない早業だった。


 タイマーを見るとちょうど十秒が経過したところだった。


 次はエマが下になったが、簡単に片襟片袖を取られて、前に煽られて膝をついたら即座に三角締めが飛んできて死んだ。


 ちょうど、4分30秒のあたりだった。


 こうも立て続けに極められては心がぽっきり折れてしまい、あとはダミー人形以下の存在になり下がりであらゆるポジションからあらゆる技を食らった。


 エマの吸収力はすさまじく、クラスで一回扱った程度の技でも簡単にものにしていて自分との才能の差に打ちのめされるばかりだった。


 タイマーが鳴った。


 ぼろ雑巾のようにされ、およそ20回程度一回のスパーリングで極められたのではないだろうか。


 クソでかい溜息をついて、マットのはじに置いておいた自分のボトルを飲んでいるとエマに美緒が話しかけていくのが見えた。


「エマちゃん、今のは良くなかったわよ」


「何が? あいつが弱すぎるだけじゃん」


 宗弥を指さしてエマが言った。


「それはそうだけど」


 それはそうだけど。


 それはそうだけど。


 それはそうだけど。


 美緒のさりげない返事が宗弥の頭の中で響き続け、宗弥を傷つけた。


「いくらなんでもやってるスパーリングが荒すぎる。自分のやりたいことを押し付けすぎている。相手が弱ければそんなことは当たり前に成立するでしょう。宗弥さんならなおさら」


 宗弥さんならなおさら。


 宗弥さんならなおさら。


 宗弥さんならなおさら。


 またしても、美緒のさりげない言葉が宗弥の頭の中で響き続け、宗弥を傷つけた。


 事実として宗弥は初試合を経験をして、歴がかなり短いわりにはよくやっているという話であるが実際このジムで最弱をひた走っているのだった。


 美緒曰く「1年ぐらいやったころに新しい人がくると良いね」と笑顔で言い放ったのだった。案外この人は言葉選びが素直過ぎで度々傷つくのだった。


「他の会員さんにも同じことするならしばらくスパーリング禁止にするよ。分かった?」


 かなり厳しい処置だった。


「分かってるよ……」


 エマは何か自分自身にもいらだっているような口ぶりだった。


 すると、樹里がつとととと、美緒の隣にやってきて「あのね」と言ってから耳打ちをした。


 美緒は興味深そうに樹里の耳打ちを聞き取ると、興味深そうに何度もうなずいた。やがてすべてを聞き終えてにこやかに笑った。よくない笑みだと宗弥は思った。


「エマちゃん、私と次の一本やりましょう」


「え、なんで?」


 今度は美緒がエマに耳打ちをし、エマから先ほどの覇気が立ち上っていくのが見られた。


「ふふ、やりましょうか」


 タイマーがもう一度鳴る。


 美緒が座りこみ、エマが上のポジションになる。 


 エマが美緒とのつかみ合いを超速の打撃の応酬をするかのように、取り交わし、


 少しでも体制が作れたとたんにエマがアタックを仕掛けていく。


 パスガードが出来たと思っていても美緒の体のどこかはエマの体に引っかかっており、簡単に戻される。


 エマがパスできる気配が無いまま、1分が経過し動きが徐々に早いが単調になっていった。


 美緒は一瞬の隙に、エマを捕らえるとあっという間に三角締めに閉じ込めてタップアウトを奪った。


 即座にリスタート、エマが上、美緒が下なのは変わらず。


 エマのパスガードのパターンを把握したのか美緒は早めにガードの中に入れて、ワンレッグガードから草刈りしてアキレス腱を極めていた。


 美緒が完全にペースを握るようになり、エマの攻撃に即座にカウンターを打ち次から次へと技を極めていた。


 エマが極められるたびに取り返そうとした結果動きが直線的になり、美緒はよりやりやすくなったいったようだった。


 結局5分間の間でエマは美緒に7回ギブアップしていた。


「スピードは間違いなくトップクラスだけど、慣れれば何とかなるわね。あとスパーが若い。分かったなら人に対してのやつあたりをやめましょう。私は見てますからね」


「はい……」


 と、珍しく元気なさげにエマは答えていた。


 その後は、普段の3分の1ぐらいの出力でスパーリングをしており、周りの人間が概ねびっくりしていた。尚そこまで出力が落ちると互角の樹里とやりあうと一方的に負け続けるのだった。

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