ハーレムをやる主人公の器は無い。
概ね同日同刻。
「はい、お世話になっております。お久しぶりです社長。その後ご挨拶など出来ずにすいません。会社移ったってよくわかりましたね……え、怖すぎですよ。今日時間あるんでこのあと伺ってもよろしいですか? はい、ではよろしくお願いします」
宗弥はそういって電話を切って、立ち上がる。
スケジュールに面談予定を入れて、椅子に掛けてあったジャケットを手に取り羽織る。
「面談が入ったので出かけてくる。そのままお客さん先回って直帰します」
「分かりました」
事務所に残っていた若手が返事をして、そのまま西原の後ろを通って会社を出ていく。
エレベーターホールで同じく会社を出ようとしていた理人と鉢合わせた。
「お疲れ」
「……」
理人は反応せずにエレベーターで下まで降りて行った。
一緒に会社を出て、駅までは一緒に歩いていくことになり理人は特に何かをしゃべることなく歩き続けていた。
「お前、西原のこと避けてるだろ」
しばらく歩いたころに理人は口を開いた。
「ええ、何でそんなこと思うんですか? うまくやっていると思いますよ」
「上司と部下としてはな」
「理人、知っているな。先週末にあったこと」
「結果は聞いていないけど、お前ら二人の態度を見ていればそこで何かが起こったかはわかる」
「理人は西原さんのことどのくらい知っているの?」
「前からちょくちょく相談は受けていたよ。なんやかんや創業したときに学生バイトとして入ってもらってるから長いし、小出しに好きアピールはしていたらしいけど気が付かれずに積極策に打って出ようというようなことは何となく分かっていたけど……。お前柔術にハマりすぎてひょっとして気が付けてなかった?」
「1㎜も。柔術ハマりすぎは否定できないけど……」
仕事中もいかに仕事をやっつけて定時で退社して、柔術道場に行くかということに最適化されている。そして昼休みは何もなければスマートフォンでテクニック動画やクラスを録画した動画ばかりを見ている。
「それで意を決してお前を誘い出したというところまでは聞いている」
「聞いてんのかー」
「そして、お前がさっき取ったアポもお前なら普通に電話とメールのやり取りに留めて金が動きそうなときだけ動くから普段ならお前は社内にいるはずだ。あとお前管理職だから、そんなフッ軽だと困る」
「ハビブッ!」
やはり理人はすべて見抜いていたようだった。
視線を合わせていないが理人の居る皮の皮膚がひりつくようだった。
「ちゃんと向き合ってやれよ。上司と部下の関係じゃなくて人と人としてな。まあ会社の女と付き合うのは良くないことだと思うけど、一応俺も当事者だし」
「返事が無責任すぎるんだよな。妻子持ちはさすがに格が違うぜ!」
「お前な!」
「分かってるよ」
理人は宗弥と別れた後で結婚して子を成していた。社長となってそれなりに地位も金もあるはずなのにどういう訳か尻に敷かれており、さっさと家に帰る。
接待ともなれば、毎回死にそうな顔をしながら妻に向けたプレゼン資料を作成している様子はたまに見かけることもあった。
「言いたいことは分かってるだろ。どんな結論を出すにしろ、ハッキリしろ。ハッキリしないってお前営業で一番嫌ってることじゃないか」
「それはそうなんだけど、それは仕事の話な。まともにこういうことやったことないから本当に良くわからないんだよな……」
先々代勇者のヨシュア君の気持ちが今になってわかるというか、悲しい気持ちになった。どうしていいか分からないうちにイベントだけが加速していく。洗濯機の中心にいる気分だ。
「人としてちゃんとやれよ。エマちゃんの為にも」
「フッた方がいいの?」
事実だけ羅列すれば、そうした方がいいには決まっていることは分かっている。
「人の心無いのかお前は。ちゃんと、向き合えって言ってんだよ」
「そうかよ……分かってはいるが」
と言ったところで、理人との会話は止まり駅で別れた。




