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大丈夫?〇〇通の攻略本だよ

「好きです! 付き合ってください」


「ぜひとも女子バスケットボールクラブに!」


「お姉さまと呼ばせてください!」


「ぜひともソフトボール部に来てください! 世界を共に掴みとりましょう!」


「何も言わずに踏んで欲しい……」


「我々はマチュピチュ遺跡に存在している未確認生物の観測隊を結成しようと考えている、ぜひとも君にも加わってもらい一緒に夢を叶えよう!」


 エマに夢を見る者は多い。


 放課後で校舎内で少しでも立ち止まればこのようなスカウトが殺到するありさまである。


 もうしばらくしたら、納まってくれるのだろうがこんなものである。


 最初のうちは笑顔で対応をしてみたものの、だんだんめんどくさくなってきて無表情で睨むといった行動に切り替えていった。


 そのような対応に切り替えていったところ、勧誘は強い心臓の持ち主と一部の特殊性癖の持ち主に限られるようになった。


 エマは同じタイミングで立ち上がった樹里とアイコンタクトを取ると、外へと歩きだす。そぞろに付いてくるが、廊下に出て角を曲がった瞬間にダッシュする。


 2階から3階へと走り抜けて背中を捕らえられないほど遠くへと行く。


 3階の用務室の窓から飛び出して、縁にぶらさがり、そこから落ちて2階で一度止まり1階で着地する。


「ひっ!」


 着地したすぐ近くにいた小柄な女子が悲鳴を上げたが、悲鳴を上げそうな唇に指をあてて「し」と黙るように促した。


 女子は少し顔を赤らめて俯いて黙った。


 そのまま翻って下駄箱までダッシュして、靴を履き替えてそのまま全力疾走で集合場所へと向かう。


 集合場所は学校から駅に反対方向に少し向かった児童公園だった。


 児童公園には、樹里、恵、香澄がすでに揃っていた。


「待たせたな」


「思ったより早かったね」


 樹里が言う。


「てか普通に、お前らに興味ないんだって言えば良いんじゃないの?」


 恵が言った。


「それなりに、嫌いって伝えてるんだけどなんか変態だけ残ってさぁ」


「逆効果の方に出たか。とりあえず、スタバに行きますか」


「……ごめん、ここに来るまで言い出せなかったけど先週のイベントで予想外にお金使っちゃってお金ないので、スタバとかそんなハイソなところ行けない!」


 香澄が両手を合わせて全員に詫びた。


「ここは私に任せてみんなは先に行って!」


 ここで決死の覚悟で犠牲になるものの決め台詞だった。


「いや、香澄が来ないと始まんないのよ」


 とエマが言った。


 集まった面々のうち、樹里は数学と物理が得意な以外の教科が赤点ギリギリ、恵は英語得意な以外は平均より低く赤点より少しマシなればレベル、これに関してはエマは英語と文系科目はそこそこだが、理系が毎回苦しい。


 全体的に高い得点を取ることがで出来るのが香澄である。学年順位は3位で1位を取ることもある。ただし、数学と英語の成績に関してはそれぞれの方が上回っている。


「う、それは確かに……」


 勢い勇んでいってみた香澄だったが、むしろ犠牲を払ってでも生存させる存在だったことを思い知らされるのだった。


「んじゃうち来るか?」


 と、エマが提案した。


「え? 良いの。てか宗弥さん大丈夫なの?」


 樹里が聞いた。


「知らないけど大丈夫なんじゃないの? 昼間は仕事しているはずだし」


「宗弥さんって?」


 香澄が聞く。


「ああ、エマちゃんの保護者みたいなお兄さん。うちの道場にも通ってくれてるんだよ」


「へぇ」


 と、恵は肩眉を上げて反応をした。肉食獣を思わせる嗜虐的な笑みだった。


 かくして、エマの住んでいる場所へと移動を始めるのだった。







「あれ、いたのかよ宗弥」


「おかえりー、というか友達も一緒?」


 1LDKの奥の部屋で作業していた宗弥がエマたちがやってくると顔を出した。


「おじゃましまーす」


「JKが4人……。いったい何が」


「試験前だし勉強会しようって話になって、宗弥が出かけてると思ったからみんな誘ったんだけど」


「試験的にテレワークが導入されて、週に一回はテレワークの日を設けて良いことになったのよ。それで今日がその日だった訳で、ついさっきまでオンラインミーティングやっていたところだよ」


「悪いな、どうしよう?」


「仕事自体はあと一時間ぐらいで終わるけど、あれだったらちょっと外出てようか? パソコンあればどこでも出来るような仕事だし」


「いーえ大丈夫ですー、私たちは静かに勉強していますんでー」


 恵がエマの後ろから満面の笑顔で出てきて言った。


「そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらうよ。奥の部屋の扉は閉じておくよ」


「はい」


 そう言うと、宗弥は奥の部屋へと引っ込んで行った。


「おい、どういうつもりだよ恵」


 宗弥に聞こえないようにヒソヒソした声でエマは言った。


「ええ、宗弥さんが気になって、もうしばらくしたらお仕事終わるんでしょ?」


 恵は楽しそうで、香澄も少しわくわくしている気がした。樹里に関しては道場で顔を合わせているのもあって「何が楽しみなんだろう」って顔をしていた。


 家に4人が上がりこみ、リビングにあるローテブルを囲むように座るとそれぞれ教科書を広げて勉強を始めた。


 今日やるのは古文だった。香澄以外の全員が文法すら怪しく次回のテストでは赤点がほぼ予想されておりとりあえず基礎はさておき点数を取れるようにやっていこうというのが今日の狙いだった。


 1時間ほど経った辺りで宗弥が部屋から出て来た。


「こっちは仕事終わりました。静かにしてくれていて助かりました。自分のコーヒーを淹れようと思っているんですが、お飲みなりますか……?」


 宗弥が恐る恐る聞いた。


「助かるわ、ミルク多めで」


「じゃあ、私はお砂糖も多めで」


 エマと樹里がノータイムで顔を上げずに答えた。


「では、私はブラックで!」


「わたしもそれで……いや、少しミルクを入れてください」


 恵と香澄が追従する。


「……オーケー、思ったより注文が多かったけど大丈夫だ。やってみよう」


 そう宗弥は台所に行きコーヒーの準備をしていく。


「ねぇねぇ、宗弥さんって結構かっこいい方じゃない?」


 恵が唐突に色めき立って話を振って来た。


「そうかぁ?」


 エマが疑問を呈する。


「確かに、新任の先生みたいな感じでやってきたら女子の人気出そうですね」


 香澄は同意した。


「私はそうは思わないけど、美緒ちゃんはかっこいい方って言ってたね。そういえば道場通うようになってちょっと顔色良くなってきたし肩幅も広くなった気はする」


「それはそうなのか?」


 エマは宗弥の印象について思い返す。


 背はそれなりに高い方だが、常に疲れていて、体調の悪そうな顔をしており、猫背で、瘦せている。確かに最近の宗弥はということを思い返せば、まともな労働環境を手に入れて体調が良くなり道場に週5回程度通っていることで、猫背が良くなって肩幅も広くなっていた。思い返せば樹里の指摘はもっともだった。


「それは……そうだったわ」


「でしょ?」


「それはそれとして、そういう魅力は全然感じないのだが」


「そう? あたしは、優しそうで割と好みな感じで80点って感じかな。這いつくばらせて靴を嘗めさせたいね!」


 恵は、忌憚のない宗弥評を述べた。


「恵ははまたそういうこと言って、良くないと思うよ。田辺くんにもそういう酷い事しているんじゃないの?」


「ショーゴの事は別に良いのよ」


「ショーゴってあのサッカー部のショーゴ? 付き合ってんだ」


 エマの頭に転校初日にサッカーに誘ってくれたショーゴが思い浮かんだ。今となっては1年生で絶対的なエースストライカーになったらしい。


「そう……。あたしのことはどうでも良いのよ……。香澄はどう思っているの?」


 恵は照れながら、答えて香澄に話題を振った。


「私は……90点かな。別に私が付き合うことに興味は無いんだけど、圧倒的な総受け力を感じますねぇ……」


「分かる!」


「分かるんだ……」


 香澄の意見に恵が同意した。


「そういう樹里は?」


「んー、別に興味が無いからあれなんだけど美緒ちゃんがかっこいいって言ってたし、普通に良いんじゃない? 70点」


 割と無関心そうに樹里は答えた。


「軒並み評価が高いのが納得がいかない」


「じゃあ、エマはどう思ってる訳?」


「40点。ありえない。婿に迎えるには貧弱すぎる。いつもヘラヘラして男らしさの欠片も持っていない」


「それが良さだと思うんですが……」


 香澄が反論した。パラメーターは同じだが、判定するポイントの違いによる意見の食い違いであった。


「ゲームのクロスレビューかい? 褒められてもなんだか複雑な気持ちになるね……」


 宗弥がコーヒーをマグカップに淹れて運んでくる。


 それぞれの前にオーダー通り的確に置いていく。


「そんなことは無いですよ。宗弥さんは素敵でエマがちょっとうらやましいって話をしていただけですよ」


 恵がにこやかに笑って言った。外向きの対大人用の振る舞いのようだった。


「おじさんのメンタルに悪いからあんまりおじさんで遊ばないでくれると嬉しいな」


 やんわりと恵の害意を悟ったのか、宗弥がにこやかに警告した。


「ところで、エマ明日はちょっと用事があって外に出かけてくるから、昼は適当になんか買って食べてくれ」


「あい、分かった。用事って何?」


「なんか、買い物に付き合って欲しいんだってさ。良く分からないんだけど」


「ふぅん。まあ、良いさ」


「それってーー」


 と恵が言いかけたところで香澄が口をふさいだ。


「後でラインするから」


 と、香澄が言った。樹里も何かを察したようだったが、宗弥とエマは何も気が付かずにただ勉強会はそれなりの成果を持って進んでいったのだった。

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