第九十八話改 ぶらり鹵獲の旅 その3
「一体どうなっている!」
「それはこちらの台詞だ!貴様がこの戦争勝てると言うから乗ったが、この様はなんなのだ!!」
「貴様も勝てると同意したでは無いか!」
カナオとアシュリンがデシデリウム帝国内で暴れている事等を帝都ヴォルデシデリウムにある軍本部で次々と報告を受けている実質的な軍のトップ。
陸軍大将デルドロックと空軍大将ハバナードはその内容に驚くよりも先にその責任の擦り付け合いに終始していた。
帝国軍のトップは皇帝であるデシデリウム二十七世であり元帥の座についているものの、名ばかりのものだ。
何しろ皇帝はまだ10歳と成人していない子供であり先代デシデリウム二十六世の崩御から僅かに3年、7歳にして皇帝となったものであり、その皇帝も母であり先代皇后であるマイヤラーの傀儡でしかなかった。
皇后マイヤラーもあまり政に明るくなく美の追求に余念がなく贅の限りを尽くせればそれで良いと国政に関心が無く実質軍による独裁状態である。
先代デシデリウム二十六世まではフォルティッシムス王国とは不可侵条約を結んでいたが、それは魔導技術や軍の規模等を鑑みた結果、フォルティッシムス王国とやりあうのは得策ではないとした上でのものだった。
但し昔からインテル王国と接する血が砂漠地帯であり、かつインテル王国も泥炭湿地帯という作物がほぼ育たない場所でフォルティッシムス王国の泥炭地を奪い取る事と同時にインテル王国の泥炭湿地帯から水を抜き、泥炭地へと変えそれを国土とする事を積年の目標としていた事であった。
そして帝国に第三世代機を入手する販路を開いた人物がおり、それによって魔導技術にこれまで追いつけていなかった帝国がフォルティッシムス王国を超える時が来た。
これが彼等2人にフォルティッシムス王国へと戦争を仕掛ける事を決断させたという背景があった。
それが蓋を開けてみれば、現状攻め入ってはいるものの状況としては停滞状態。
それはフォルティッシムス王国のディジト相手であれば第三世代機そのものは有用ではあったからこそ最初は押す事が出来た。
しかしフォルティッシムス王国からも第三世代機と思しき魔導鎧が出てきた事で停滞へと陥っていた。
それがドルーの【フォルティス・S・リベロ】たった1機の投入で停滞したのだった。
何しろ2人は知らない事ではあるが、世界に3機しか存在しない空を飛ぶ魔導鎧によって、本来優位とされる魔導飛空艇が次々と落とされてしまった事で空輸能力が下がり、兵站の供給に影響が出た事に対し、陸軍大将デルドロックは空軍の責任を問い、空軍大将ハバナードはたった1機の魔導鎧に多くの陸軍に属する第三世代機が壊され、鹵獲されている事実から空軍の責任を問う事態になっていた。
それもインテル王国とフォルティッシムス王国を先んじてぶつけさせた筈であり、その情報を全く知らない訳では無かったものの、自分達よりも劣るインテル王国の運用方法等に問題があるとし、さらには古くから用意していたインテル王国の泥炭湿地帯から水を抜く為の機構を利用し、水を抜いた後に火をつけ、フォルティッシムス王国側が容易に帝国側へと攻めてこられないようにと幾重にも対策をした筈、が帝国内にフォルティッシムス王国が侵入。
魔導飛空艇等の侵入は特に警戒していた筈が砦等から多くの兵站を奪われるだけでなく、砦が消える。
それも一夜にして複数の砦や兵站の集積所が消えていった事で帝国の兵站にも影響が出た事もそれを助けていた。
「せいぜい来るのはフォルティッシムスのディジトなのは予定通りだ!だがあの空飛ぶ魔導鎧1機でこれほどまでに追い詰められるだなど、誰が予想だにするというのだ!」
「空は貴様等の領分であろうが!」
「魔導鎧が飛んでくるのであれば、魔導鎧は陸軍の領分であろう!それを空軍に押し付けるというのか!?」
「当たり前であろうが!貴様等空軍の足が遅い為に地上からたとえ魔導銃であっても撃とうとすれば貴様等が邪魔だと前線から苦情が来ておるわ!」
「はっ!敵味方入り混じる戦場であるのは当然であろうが!それよりも功を焦り、砦等に貼りついている魔導鎧の所為で空爆が行えないと来ておるわ!それだけではない!国内の砦の防衛は陸軍の領分であろう!それがこうも容易く集積所も含めて兵站を奪われるなど陸軍が原因であろう!それによって空軍も被害を受けておるのだ!兵站無くして戦いなど出来る訳が無かろうが!」
「はっ!良く言う!貴様等空軍が集積地で魔導飛空艇すら奪われたと報告を受けておる!陸軍だけの責とするのは些か無理があるというもの!どちらにせよ陸軍の魔導銃で空飛ぶ魔導鎧など撃ち落とすなど到底無理な事!空軍こそが対応すべきで――。」
2人が言い争う中、扉がノックされ入ってきたのは帝国に第三世代機を持ち込んだ女性だった。
「おやおや、喧嘩はその辺にしておいていただかないといけませんよ?」
「貴様ぁ!我等に隠れて空飛ぶ魔導鎧とやらをフォルティッシムス王国へと流したな!」
「あれは我々のものではありません、フォルティッシムス王国で作られたものだそうです。今年の春先の騎士昇格試験とやらで1機お披露目されていたものとは別のもののようですが……。」
「なっ!?ならば貴様!それを何故黙っていた!!」
「黙っていたとは人聞きの悪い事を、たった1機の魔導鎧がそこまで有用だと誰も思いませんよ?それにいくら魔導鎧の質が良くとも、操縦者の技量まではこちらではご用意しきれませんので……。」
「貴様……我が帝国軍の練度が低いと申すか!」
「それ以外の要因がどこにあるのでしょうか。いくら1機の魔導鎧が優れていようと、それに準じるだけの魔導鎧が多くあれば連携でも何でも取れるもの。それも我等が提供している魔導鎧は旧式と新式の良い所取り。魔石が多く産出されるここ帝国であれば運用に問題は無いだろう、と提供いたしましたがそこからは各々の技量の問題で御座いましょう?それとも個人や集団の技量を無視して、魔導鎧の純粋な性能だけで戦いが決まるとでも思っていらっしゃる訳ではありませんよね?」
「くっ……それで何用だ!アビス!」
「ええ、流石に我等武器商人が魔導鎧を提供し負けましたでは寝覚めの悪い事、この上ないと思いまして……新たな商品をお持ちしました。」
「貴様ぁ……あれが最新式と言いながら小出しするつもりか!これだから商人のやり口は気に入らん!」
「いえ、新たな製品は魔導飛空艇ですので移動に時間が掛かりまして。それと少々扱いが難しいものが……ともかく1つは空をご覧ください。」
部屋の窓を開けると、空に何かがあるようには見えない……。
「どこにあるというのだ!?」
「そのままご覧になっていてください、直に見えますので。」
そのまま見続ける事2分、それは現れた。
空に浮かぶ雲を裂くように徐々に降下してくる巨大な魔導飛空艇らしき姿が見えてきた。
さらにそこから次々と小さな魔導飛空艇、と呼ぶには似付かわしくない姿をした空飛ぶ乗り物が続々と出てきてあっという間に帝都の空を埋め尽くした。
「なんだこれは……。」
「見た事も無い魔導飛空艇……いや、構造が全く違うでは無いか!」
「ええ、我等アビス武器商会のとっておきで御座います。それと陸軍用にはこちらを用意しております。」
今度は遠くを歩いてくる無数の巨大な姿、これも魔導鎧とはまた違う異質な姿をしていた。
「これは……。」
「これがあればいくらフォルティッシムス王国が空飛ぶ魔導鎧を保有していようと問題無いでしょう。既存の魔導鎧に比べ、大きさも3倍以上。さらには……。」
アビスと呼ばれた女の説明を受けた2人の顔にこれまでに無い笑顔が戻ってきた。
「それが事実なら、これでフォルティッシムスを……。」
「支払いはフォルティッシムスを潰してからで結構ですよ。何分、お値段は張りますので。戦後でしたら支払いも問題無いでしょうから。」
「……………。」
「……………。」
「本当に支払いは後で良いのだな?」
「ええ、商人たるもの信用が一番、嘘偽りなく戦後で構いませんよ?」
「ならば買おう。」
「空軍もだ……これだけの巨大な魔導飛空艇。フォルティッシムスには用意出来まい。」
その姿は圧巻で2人の大将は帝国の勝利を確信した。
超巨大な魔導飛空艇、そこから発進する不思議な形状の魔導飛空艇。
そして既存の魔導鎧を遥かに凌ぐ大きさの魔導鎧。
ただそれをとある人物に見られている事を知らずに……。
『……………わん……。』




