第九十二話改 開戦の狼煙
とある深夜、フォルティッシムス王国の王都テッラ・レグヌムの軍本部に聞き慣れない木を槌で叩く、カン!カン!という音が響き渡る。
すぐに追うようにラッパによる軽快な音がし、全ての隊宿舎に設置されているベルが鳴りだし
そして軍本部全てを照らす灯りの魔道具が一斉に動き始めた。
「っ!……緊急報!?」
私はすぐに寝床から飛び起きて軍服を着て会議室へと向かうと、次々と第一〇一騎士隊の隊員達が集まり最初の報から3分とかからず全員が集合した。
すぐに隊宿舎に設置されている魔導無線を開き、軍本部からの通達を待つ……。
それも流されてくるのは現状何が起きているか、とそれから順次指定された隊が出動となる。
最後のベルの音はその指示が下る隊宿舎だけが鳴るので第一〇一騎士隊はこれから緊急任務に出る事が決まっている。
魔導無線は別の騎士隊に対してのものも流れるけど聞き逃さずに聞くと状況がある程度判明し、すぐに地図を机に開いて、その内容を駒のようなもので示し戦況等を示していく事になるのだけど……。
これは戦争の開戦だ、それも相手は不可侵条約を結んでいるデシデリウム帝国。
現状はインテル王国全土が燃えていてデシデリウム帝国はインテル王国及びフォルティッシムス王国に対し開戦を宣言した事、それと同時に既にフォルティッシムス王国とインテル王国の国境地帯に大量の魔導飛空艇が現れ、各砦や辺境地に対して爆撃及び魔導鎧による侵攻が始まっているという内容が伝えられた。
「けどインテル王国全土が燃えてるって、泥炭は確かに燃えるけど水がある限りは……。」
「恐らく砂漠側に抜いたのでしょう、水が無くなれば火を付ければ容易に燃えるのですから。」
「だけど抜くのには時間が掛かる筈だよ?」
「前もって徐々に抜いていたのかは解りませんがともかく開戦した事に間違いはありません。」
既にインテル王国には魔導無線が繋がらなくなっている事。
恐らく王都が抑えられたのではないか、との事だった。
しかも空軍の緊急発進報である違うラッパの音がした為、これから空軍の先行隊が移動を始める事になる。
そしてまずディジトに対して空軍の保有する魔導飛空艇への搭乗連絡があった。
次にデュプレと来るのが通例とされているけどディジトの直後に第一〇一騎士隊への連絡が入った。
しかし内容が酷い……ディジトに下った任務はインテル王国との国境に接するハルキナ地区の砦周辺への応援。
だけど私達に下った任務は……インテル王国の王都ビゲルへの降下とインテル王国王都の応援。
つまりインテル王国に対する援軍としての出動。
それも既にデシデリウム帝国はフォルティッシムス王国内に入っていて、かつインテル王国の王都が陥落しているかも
しれない、という所にいかせるとか普通では無い。
「この報を垂れ流してるのはどこのどいつだ!私達に死ねってか!」
そもそも国土全体が燃えているって言ってるのにそこにいくまでには少なくともハルキナ地域に居るであろうデシデリウム帝国の魔導飛空艇群を抜ける必要性がある。
さらにインテル王国内にデシデリウム帝国が潜んでいる可能性だって十分にある。
さらにふざけた話か、ディジトは大型の魔導飛空艇で移動するので魔導鎧を出した状態でいけるけど私達はなんと中型の魔導飛空艇で行けという話。
「これ魔導軽鎧を纏って行くしか無いですね……。」
「そうなるね。」
一応第三世代は魔導軽鎧を着たままでも乗り込めるし第二世代たる新式にとってはパイロットスーツ代わりになる鎧だ。
「大分無茶な事言ってくれるね……総員出るよ!」
普段魔導鎧で活動する事を念頭にしている分、魔導軽鎧は用意はしてあるけど訓練でしか使っていない。
だけどこれは実は全員分が既に第三世代の【フォルティス・ケントゥルム】にしてある。
ハンガーに移動すると、ヤマさん達が既に発進準備をしていて、私は魔導鎧全機を【収納袋】へと入れそのまま魔導軽鎧を着ていき、任務報が出てから4分。
隊専用の中型魔導飛空艇で王都から発進した。
『ぬぐぐぐぐぐぐぅ!やっぱりこれ慣れないんだけど!?』
『緊急時だ、つべこべぬかすな。』
超音速仕様の亜鉛化窒素の噴出で移動していく中、途中で完全にディジトが乗る大型魔導飛空艇すら追い越し、完全に単体でインテル王国へと向かう非常に危険な任務が始まろうとしていた。
「どうするよ嬢ちゃん。」
「どうする?」
「国境のデシデリウムの連中だよ。」
「あー……魔導飛空艇かぁ。」
ディジトを追い越しているので真っ先に到着するのは私達位しか居ない。
一応国内巡回をしている空軍にも要請が出ていたので向かっては居るだろうけど、何分大型だから移動速度はそこまで速くも無く、恐らく私達が一番乗りだ。
「このままの速度で避けて通るにしちゃ危険過ぎるぜ?」
「魔導無線開いてハルキナ集積地とハルキナ砦の現状確認!内容によっては一旦ハルキナに降りてドルー准将を置いて残りはインテル王国の王都へいくよ!」
「おいおい、俺だけ単騎かよ……。」
「燃えてるっていうんだから火属性が得手のドルー准将じゃ火消しも出来ないでしょ?それに拾式魔石補助機構【マギ・デケム】を積んでるから稼働時間は長いし、飛行機構もある。アシュリンさんは水が得手だから、王都の方に欲しいし私が居なかったら魔導鎧が運べないじゃん……。」
かといって第一第二大隊を置いていく訳にもいかない。
特に第一第二大隊の魔導鎧には飛行機構が無いし魔石の搭載量も少ないから、稼働時間が短いし場合によっては魔導軽鎧だけで動かなければならなくなる。
「駄目です、ハルキナも返答が無くなったそうです。」
「そっか……ならドルー准将と私が飛び降りて散らすからその間に落とされないように踏ん張れる?」
「密集具合にもよるが5分持たせられれば良い方だぜ?」
「それで良い!」
「おいおい、俺はまだ行くとは言ってねぇぜ?」
「そこはほら、補佐なんだからさ。覚悟決めてくれないと。」
渋々ながらもドルー准将も了承し私達は中型魔導飛空艇から魔導軽鎧のまま飛び降りた。
落下傘は無し、代わりに使うのは第三世代魔導軽鎧に搭載している【浮揚機構・改】を噴出させ、落下速度を抑える方法!
それも落下位置は一旦ハルキナ砦を越えてルイナ砦との間にはへルート川!これで最悪落下しても地面に落ちるよりはマシ!
どんな理由でデシデリウム帝国が開戦したかは知らないけど……。
「さぁ、ここが稼ぎ時!しっかり貢献して部隊予算を勝ち取ろうでは無いか!」
私の頭にあるのは常日頃からこれである。




