第九話改 3年の時を経て。
上級学校国軍科の入学試験から3年後、この世界の成人年齢である15歳となった私は騎士の1つ下になる衛兵という形でフォルティッシムス王国軍に入り、王都より遠くカデーレ伯爵領の領都カウウスで衛兵の仕事に努めていた。
配属は南門の第四南門部隊。
衛兵だから衛兵用魔導軽軍鎧を着られる、なんて事は無く衛兵用魔導軽軍鎧は高価なので新人になど割り当てられる事は無いだけでなく上官用として使われるのが常であり、まぁ多分着る事は無く多くの衛兵は簡素な鎧と兜、粗悪な剣だけであとは衛兵の詰所に置かれている長槍と盾が使えれば儲けもの。
そして国軍であり、軍属となった以上、上官の命令にはほぼ絶対。
ほぼ、というのはパワハラなんてのは日常茶飯事だけどセクハラだけは許されないのが国軍で間違ってもムラムラした、とかで女性に襲い掛かりでもすれば死罪は間逃れない程には厳しくこれは古くからの慣習らしいけど、それ以外の慣習はどちらかと言えば悪習しか存在しない。
その最たるものが勤務日数と勤務内容である。
衛兵は全ての街と村に存在していて、騎士とは違いその街、村の自衛の為に務める軍属の事を指すのだけどその勤務日程は全てが1つの街や村の総隊長が決定する事になっている。
例えば村であれば、基本1~2部隊が常駐する。
そして部隊の中で入れ替え制等で休日を取る事になっている為で言い換えるとこれが正解、という勤務日程は存在しないのです。
それだけの裁量権限がある、とも言えるのは街や村によって実情が違う事が最たる理由で適宜最適化して、勤務と休日を程よく取り、開いた時間は身体を鍛え、有事に備えよという事からだそうです。
で、私のいる領都カウウスは伯爵領なので規模も大きく全部で12の衛兵部隊が駐留しているのですが街は基本4つの門が存在するのがこの世界では一般的。
南門が一般門と呼ばれる門で平民、商人が通行し東門と西門が貴族専用の貴族門で、そのまま貴族街と呼ばれる貴族の住宅街に直結している。
そして北門は軍門、と呼ばれ国軍や領軍が利用する門がある。
内訳は最も忙しい南門に4部隊、東と西に3部隊、北に2部隊の合計12部隊となるのだけど、まぁここに悪習中の悪習があった。
北門は軍隊が通らない限り閉じっぱなしなので2部隊が担当し、1勤1休。
つまり1部隊づつ交代で勤務と休みを取り街の中の巡回を一切担当しない事になっている。
これは北門が有事の際以外開かない為、その門のメンテナンスと監視が主な仕事である事から、仕事自体が比較的簡単な為で勤務中、大体の衛兵は身体を鍛える事に殆どが従事している。
そして東門と西門は2勤1休で各門と貴族街の巡回を担当。
但し貴族街は同じ貴族街を2つの部隊が巡回する事になるのでこちらも比較的楽で、御貴族様ばかりな為まず有事になる事が無いし、門を通るのは王侯貴族に限られる為、比較的暇な場所。
1日目は門、2日目は巡回をして1日休みと北門よりかは休みが少ないけど、まぁ北門は裏ではロートル門とも呼ばれ衛兵としてながーく務めた方々が務める場所なので……。
そして一番忙しい南門は4部隊も居る癖に実は勤務形態が部隊毎に違うのです。
第一から第三までは基本2勤2休、但しこの3部隊は南門から繋がる平民街の巡回があり、そこには大抵スラムすら存在する事が多い為、こういう勤務形態で1日が巡回、1日が衛兵詰所での有事に備えての待機と言う名の身体を鍛える時間に当て、2日休むのです。
さて、お気づきだろうか。
南門は一般の方々が出入りする門だというのに4部隊中3部隊が門番をしないのです。
つまり残った第四南門部隊と呼ばれる所はこの門番をする部隊で完全な専属部隊となっているのです。
そして勤務形態は基本6勤1休。
それも部隊内で休日を回す為、新人には休みなんてものは無く私は見事に7勤に割り当てられているのです。
これは部隊の勤務形態を全ての部隊の長である総隊長が決めそれが部隊に降りてきた際、部隊長がそれを割り当てる為で同じ第四部隊でも6勤1休出来る人と、7勤の人と分けられていて新人は大体否応なく7勤になるのです。
そして軍属なので上官の命令にはほぼ絶対。
休みに文句を言おうものなら何を言われるか解ったものでは無いと……。
抜け出す方法は3つ。
1つ、衛兵を辞める。
1つ、毎年衛兵だけが受けられる騎士昇格試験を受け合格し騎士となる。
1つ、長年勤め上げ、別の部隊配属を期待する。
これだけです。
何しろ1段階上となる騎士、魔導騎士は実際もっと過酷で王都の防衛、そして国内の巡回に国境の防衛等が任務であり実は休みなんてものは基本ありません。
例え王都に伝わった所で「魔導騎士に休みが無いのに衛兵が休みだ!?」と怒られるのが関の山。
但し実際には自由時間がしっかりあるし、時間交代制なのでまだこの南門の第四部隊配属の新人よりかはマシです。
そんな衛兵で居る理由は当然年に1度の騎士昇格試験。
これに合格すると、騎士に昇格出来るのですがまぁなんとも難しい話になるというか……これ、推薦制なんです。
上官、私の場合は第四南門部隊の部隊長、部隊長補佐かその上の上官となる総隊長、副隊長。
この4名のうち1名の推薦を受けられれば挑めるのです。
まぁ例年、殆どは東門か西門と貴族に覚えがよい貴族子弟が受けるもので、稀に南門でも巡回担当の第一から第三までの衛兵が推薦を貰えるかどうか程度。
最悪、試験自体を受けられない可能性もあるのですがそれでも可能性は0ではないのです。
他にも王侯貴族の推薦であったりでも受けられるので必ずしも上官に限定はされないのですが平民の灰銀鼠族の私に推薦をくれるような知り合いは……居ないね。
「おら!カナオぉ!さっさと捌け!」
「はい、次の方~……。」
「何だその気の抜けた返事は!軍人の返事は「イエッサー!」か
「イエスマム!」の2択だ!」
男上官か女上官かの違いだけでほぼ1択じゃないか……。
「さーいえっさー!はい、次の方~……。」
私はとりあえず1年、衛兵を頑張る事にはしているのです。