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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第五章 世界的季節の恒例行事編
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第八十五話改 クルクス島の戦い その2

『ぬうううう!』


 かなり苦戦してるね、アラカンド少尉。

 元々近接戦闘が主体で【カタフラクトスPDB】を選択しているけど、私は【ステルラ】と遠距離戦闘が本来の得手だし機動性を重視している分、距離が詰めにくい。


 そこに来ての【拡散ディフュージオ攻撃アッグレシオー】による拡散魔法が次々と飛んでくる事でさらに詰めにくくなる。


 まぁもう少し予算があれば【カタフラクトスPDB】の全面装甲を強化して、耐えられる仕様にすべきだから威力自体は落としているけど、それでも真っ向から【拡散攻撃】を食らうと【浮揚機構・改】の推進力が下がり、ますます前に距離を詰められない。


 今のアラカンド少尉と私の差は腕の差というより魔導鎧そのものの差、という方が正しいけどだからといって総隊長の座を譲るほどじゃない。


 問題は【浮揚機構・改】の使い方だ。

 【カタフラクトスPDB】の全面装甲には魔法を受け付けないオリハルコンの装甲板がつけてあるから推進力が殺されるのは操縦者からの供給魔力を増やしてその分加速させる必要があり、そのバランスがアラカンド少尉は悪すぎる。


 第三世代機は第二世代となる新式よりもっと細やかな魔力放出バランスが行えるからそれが出来ない以上、前へと距離を詰める事は出来ない。

 魔導鎧に慣れてない、の方が合っているかもしれないけど挑んできておいてそれはただの言い訳だ。


『諦めたら?今のあんたじゃその【カタフラクトスPDB】を使いこなせてないから無理だよ。』

『無理かどうかを決めるのは貴様ではない!この私だ!!』

『そりゃそうだ、だけど相手の魔導鎧も含めて実力差が測れないほどじゃないだろう?素直に負けを認めて来年挑む方が得策だと思うけど?』

『はっ!それはないな!』

『そっか……負けを認めるならこの位で勘弁するつもりだったけどそこまでなら仕方ないね……【ドヴェルグ・(ドワーフの)シーカ(短剣)】!』


 私は脚部の収納から次々と【ドヴェルグ・シーカ】を出し、そのまま魔導銃口の一部の使用を停止。


『【シーカ・サルトー(短剣の舞)】!』

 そして停止した魔導銃口から魔力を糸状にし、シーカ(短剣)へと繋いで【ステルラ】の近くを飛ばして攻撃する戦闘方法!


 どこぞの漏斗(ファンネル)程万能ではなく、糸状の魔力同士がぶつかると途切れてしまうので、ぶつからないようにする必要性がある。


 さらに遠くになればなるほど糸状の魔力が細くなるので思った程機体から離れた位置まではシーカ(短剣)を移動させられないという欠点はあるし、所詮は魔力で繋いで浮いているだけのシーカ(短剣)でしかないので非力。


『だけどさらに【身体強化(エンハンスドボディ)】MAX!【八臂はっぴ】!毘沙門の名の下、左手に持ちし銀の鼠に羅刹なる鬼神を纏わす!【速疾鬼そくしつき】!さらに両手に【独鈷杵どっこしょ】!』


 【ステルラ】の背面魔導銃口から風属性魔法を一気に噴き出しアラカンド少尉の【カタフラクトスPDB】へと一気に距離を詰める!


『【精神強化エンハンスドメンタル】!【金剛拳】乱れ打ち!』


 【ステルラ】の速度を高めに高めた上で、【金剛拳】で打撃の重さを出して胴を中心に叩き込み短剣シーカはあくまでその補助に徹して手足の関節部を狙う!


 打突をしながら8本の短剣シーカを操るのに【精神強化エンハンスドメンタル】は必須だ!


 こうして私と【ステルラ】は決して近接戦闘が出来ないとは言わない。

 だけど不得手なのは間違いない。

 【金剛拳】等に威力を頼り、あとは機体速度を生かして叩き込み手数で補って圧倒させる必要があるから。


 決して【ステルラ】は万能とは言い難い。

 【カタフラクトスPDB】等と比べれば耐久性は非常に低い。

 同じレベルでの争い、なんて感じにお互いノーガードで殴り合うなんて事をすれば耐久度の問題で【ステルラ】は負ける。


 だけどアラカンド少尉がそれで勝ったとして納得しないなら相手の土俵で戦い、叩き潰して納得させるしかない!!だから【金剛拳】で威力があると思わせ短剣シーカは最も弱い関節部を狙う!それも物理的な破損は今の【カタフラクトスPDB】には効かない。


 関節部の強化が既に終わっているからだ、だから変わりに私の魔力を短剣シーカ経由で【カタフラクトスPDB】へと流し込む為に関節へと差し込み一気に魔力を流し込む!


 魔導鎧に搭載されている補助用魔石はあくまで補助だ。

 そして操縦者の魔力を主体にし、補助魔力はそれより小さい出力で補う事で2つの魔力があっても共存出来るように魔導鎧の魔導陣は描かれている。


 だけどもし補助魔力が主体である操縦者の魔力より強く、多く流れ込んでしまうとどうなるか……答えは強い方を主体だと誤認し、それが本来の魔導鎧を動かす為の魔力と勘違いする。

 補正機能もあるけど、それが働くよりも先に一気に流し込んでしまえば僅かな時間ながらも機体はまともに制御が効かなくなる。


『おおおおおおおおおおお!!』

『なっ!?【カタフラクトスPDB】が動かぬ!!』

『降参しないあんたが悪い!ちょっとばかり悪いけどその【カタフラクトスPDB】!壊させてもらうよ!!』


 今のアラカンド少尉に対して必要なのは圧倒と納得させる状況、相手の得手とする分野で倒す事しか無いだろう。

 だから不得手であってもこの選択をするけどこれは単なる博打でしかない!補正されるより先に叩きのめす!補正されれば捕まって負ける可能性もある大博打!所詮、装甲がオリハルコン板であっても【金剛拳】の本質は魔力に依存しない!ここからは私の拳の高めた強度と【ステルラ】の強度を合わせたものと【カタフラクトスPDB】の強度の勝負!


 に、見せかけた最も弱い部分である関節と装甲版の繋ぎ目を狙う、偽りとも言える威力による詐欺でしかない圧倒的火力によって納得させる真っ向勝負を偽装したインチキ近接戦闘!


 隊長機がいくら【ロリカ・ムスクラタ】という一枚式の板金鎧、プレートアーマー仕様だとしても繋ぎ目は少なからずあるのだから!!


『動け!【カタフラクトスPDB】!!』

『させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 【独鈷杵どっこしょ】の1枚刃をその隙間に刺し込んで装甲版を浮かせ、引き剥がすように【金剛拳】を叩き込む!


『ぐぉぉぉぉ!?』

『まだまだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』


 装甲版が歪み、剥がれても手を止めない!アラカンド少尉あんたが降参するか!【カタフラクトスPDB】の補正機能が働くのが先か!時間との勝負なんだから!!


『そこまで!』


 アシュリンさんの声が聞こえるけど私はここで手を止めなかった。

 これは周囲が止めた所でどうにかなるとは思えないからだ。

 アラカンド少尉が負けを認めなければ止めるには値しない。


『おおおおおおおおおおお!!』

『総隊長!お辞めください!もう勝負はついています!』


『嫌だね!アラカンド少尉が負けを認めたら止めてあげるよ!』

『アラカンド少尉!負けを認めなさい!!』

『誰が降参などするものか!』

『負けていないと思い挑むのは勝手ですが隊を率いる者として退くべき所で退けない等、隊を殺しかねない思想です!すぐに降参しなさい!!』

『うっ、五月蠅い五月蠅い五月蠅い!それがどうした!こんなもの【カタフラクトスPDB】さえ動けば!』

『よりによって責任転嫁ですか!?【カタフラクトスPDB】が動かないのは壊れているからではなく総隊長がそうしているからです!!』


 カナオの【金剛拳】がどんどんと加速を始めると共に【カタフラクトスPDB】の外装板が飛び、中の骨格が見え始めてきた……。


『アラカンド少尉!』


 アシュリンの声が再度魔導無線から聞こえた時、操縦者を守る最後の1枚である胸部装甲板が吹き飛んだ。


 そしてアラカンド少尉の目前には【独鈷杵どっこしょ】の刃が突きつけられていた。


『さぁ!これで負けを認めないのであればもうあんたを殺す以外に無いんだけど!?』


 よかったぁ……補正機能が働く前に全部壊しきったよ……。


『さぁ、死ぬか負けを認めてこれからは私をカナオ様と呼ぶか……どっちが良い!!』

『総隊長……最後のはちょっと……。』


 いやだって、ずっと貴様だのお前だの女だのって呼ぶからさ……ここでせめて他の呼び方させたいんだよね?


 程なくしてくぐもった声を出していたアラカンド少尉が負けを認めたものの……。




「嬢ちゃん、こりゃやりすぎだ。骨格も全部駄目になってるぞ?」


 追いついてきたヤマさんに言われるもそんな事は百も承知だ……。

「全部アラカンド少尉が負けを認めないのが悪い。私は悪くない、修理費用を請求するならアラカンド少尉に。」


「なっ!?ふざけるな!」

「ふざけちゃいないよ、負けを認めないあんたが悪い。減給でもなんでも受けて修理費用捻出するんだね。それまでこれを貸してあげるから……。」


 私が用意したのは旧式。

 それもかなりの年代物で国軍科のものに近い兵器庫にあったもので、一応は動く……。


「俺が何故こんなものに乗らなければならぬ!」

「そりゃ素直に負けを認めないからこうなったんであって【カタフラクトスPDB】なんて贅沢過ぎたんだよ。つかあんた、大隊長じゃなくてもう隊員からやり直してきたら?アシュリンさんのいう事も最もだよ?」


「何だと!?」

「あんたが引き際を間違えれば、それに巻き込まれるのは隊員だよ。その判断がまともに出来ないのであれば大隊長なんて無理、隊員として1からやり直した方が隊の為って気がするけどね。」

「俺の隊の隊員にそんな者は一人としていない!」

「あっそ、そりゃみんなそういうだろうけどさ……やっぱあんた向いてないよ。ヨボ爺にいって、ちょっと考えてもらうよ。」


 出来ればもっと早く退いてほしかったけどその判断が出来ないのは……隊員を殺しかねない。

 軍属である以上、退けない戦いってのはあるかもしれない。


 だけどこれは退ける戦いだった。

 それが解らない以上、アラカンド少尉は当面総隊長権限で謹慎してもらう事にした。

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