第八十三話改 討伐!厄災級魔物 その6
第一〇一騎士隊が【冬将軍】と交錯した事で【冬将軍】の足が止まり、その周囲を【浮揚機構・改】で海上を動き回る、私達との本格的な戦闘が始まった。
今回のメインはドルー准将の【S・リベロ】とハイネル大尉の【カストディアンPDB】とアラカンド少尉の【カタフラクトスPDB】が持つ火蜥蜴鉱石を配した【カロル】系の武器だ。
【冬将軍】が氷属性と中々特殊な属性で雷属性が使えるのは一番良いのだけど、海上で使えば殆どの魔導鎧に悪影響が出る為に、それに次ぐ火属性や熱そのものが最も有効だからだ。
『おらおらおらおらおらぁ!』
ドルー准将の持つ二丁の二式魔導拳銃【サラマンドラ・アニマ】は火属性特化の魔導銃で、これにも火蜥蜴鉱石が使われている。
そして特筆すべきはこの【サラマンドラ・アニマ】の銃口から火を噴き出し、空をも飛べる事だ。
但し私の【ステルラ】と違い、空中で停止する事が出来ないのが難点、だった筈なんだけどなぁ……。
『くっ……なんて細やかな魔力操作。まさか銃口を下に向けて空中で停止するとは……。』
これで実戦投入初日、ぶっつけ本番なのだからどれだけの技量もさることながら、戦いながらの調整能力の高さが窺える。
【冬将軍】の身長は魔導鎧の3倍近くあるので空中から魔法を撃ち、そして素早く空を移動出来るというのはかなり有利に働いていて、ドルー准将は【冬将軍】を中心にグルグルと回るように片手で撃ち、もう片手で空中での姿勢制御を同時に行いつつ、撃った手で横移動をしたり時には高さを急に変えたりと【冬将軍】に捕まらないようにしつつ足元を攻める第一・第二大隊の攻撃を入れやすくさせるように的役を一手に引き受けていた。
『おおおおおおおおお!!』
そしてそこにアラカンド少尉やハイネル大尉のカロル武器の攻撃が入り、それを中隊長以下がサポートするようにセキュリスやクロスボウによるサギッタでの攻撃を叩き込むといった連携が取れている。
空をドルー准将が制している以上、ここに私が入る余地がない。
『つまり三番槍までが私の唯一の活躍の場……。』
『何か総隊長がケチ臭い事言ってるぞ?』
『ここは実力主義じゃ無かったのか?』
『ぬぐぐぐぐぅ!正論だけど今言ったやつ覚えたからな!私のノートに名前を書いて、未来永劫祟ったるかんね!』
『心の狭い総隊長だ……。』
『これで胸が無かったらと思うとゾッとするぜ?』
『胸の大きさは関係ないよね!?男共が勝手に女の価値を胸で測るな!』
『『『『『そうだそうだー!』』』』』
ガラ准尉以外が反応する辺り【乳袋】の闇は深い……。
『そろそろ立って回るのも疲れるだろう!俺が跪く事を許してやるぞ!!』
アラカンド少尉の【カタフラクトスPDB】が手に持つ2つの斧を1つに合わせる事で【カロル・セキュリス】が【カロル・ラブリュス】へと姿を変える!
『おおおおおおおおお!【パワースラッシュ】!』
本来は生身で行う武器防具を経由したスキルと呼ばれるこの世界独自の身体技能の発動。
新式たる第二世代機と第三世代機で自らの動きを魔導鎧へと伝達させ、頭の中に思い描いている動きをそのまま再現させる事で可能となる、魔導鎧の物理攻撃を更に高める一撃によって【冬将軍】の足を大きく抉るように焼き斬り、そのまま振り抜いた!
『【ラップスラッシュ】!!』
さらにそのままもう1回、魔導鎧を回転させての追撃!
『【ロールスラッシュ】!!!』
さらにそのまま今度は魔導鎧を独楽のように回転させての連続攻撃!だけどそれだと移動速度が一気に落ちて捕まるっ!?
『【斧技・紫電一閃】!』
ロールスラッシュで回転しまくっている所にスキルをタイミングよく割り込ませた事で回転から一転、一気に直線的に駆けるような一撃へと変わり、手で捕まえに来た【冬将軍】の股下をアラカンド少尉の【カタフラクトスPDB】が一気に駆け抜けていった。
『貴様のような図体がでかいだけの魔物に捕まる程、まだ私は落ちぶれてはおらぬわ!』
いや、落ちぶれてるって……第一〇一騎士隊は騎士隊の墓場か何かかね?
しかもここも連携、股下に逃げたアラカンド少将を【冬将軍】の手が追うように顔と視線が向いた所に中隊長以下が一斉に投げこんだのは【マギ・ピュロボルス】だ!
それも手榴弾に近いものなので、発動から時間で爆発するタイプなのだけど、綺麗に顔や腕、足裏の部分に全てが投げ込まれ、海中に沈む前に爆発!
海面が拉げるようになった事で海の上をまるで地に足をつけるようにしていた【冬将軍】がバランスを崩し、そのまま異様な体勢のまま倒れ込んだ!
『それでも海中に沈んだり、溺れたりはしないんだね……。』
ガングロ駄神に貰った知識でも全く解らない【冬将軍】が海の上を歩き、足裏以外がついても決して海に沈んでいかない謎の仕様……まぁ戦いやすいから良いけど。
『ってこれチャンスじゃない!?総員退避!』
すぐに【冬将軍】の周囲に居た隊員を一斉に避難させる!
『【勇魚】!』
凹んだ海の水が逆方向に隆起し始める!【勇魚】は鯨の事!そもそもは海の生物であり、岩が無くとも海水があれば出せる!倒れ込んだ【冬将軍】の腹に隆起した鯨型の海水が飛び上がる鯨のように【冬将軍】を今度は空へと招待する!
『【エクスデウスマキナ】稼働率上昇!』
同時に【ステルラ】が手に持っている二式魔導銃をもう1丁取り出し、さらにこの2丁を連結させる!
『連結式二式魔導銃【メテオ・コンフェル】!』
連結させる事によって1つの長い魔導銃へと変わった所で空へと跳ね上げられた【冬将軍】へと銃口を向ける!
『【魔力充電】!』
永久魔力機関【エクスデウスマキナ】の稼働率を上げ、増やした魔力を全て魔導銃へと流し込んでいく!
『収束!』
そして銃口を絞り込む事で魔法を出来る限り細くして威力を出来る限り上げる!
『あの女ぁ!最後の一撃を取るつもりだな!!』
『ふぁははは!一番槍も重要だけど、それ以上に重要なのはやはり一番首、二番首、三番首なのだよアラカンド少尉!そして魔物は一体、一番首のみ!そして私は最後の一撃をいただいて騎士隊の予算で私自身にご褒美をいただく!これぞ実力主義の醍醐味!』
あとは【解放】すればご褒美は私の手に!当然【買物袋】で買い物だよねぇ……何が良いかなぁ……。
『【アクアドラコニス・インペトゥス】!』
『はい?……………しまったぁぁぁぁぁぁ!!』
やられた!連結式二式魔導銃を持っているのは何も私だけじゃない!魔法が得手なアシュリンさんにも連結式二式魔導銃に近いものを持たせていたんだった!!
連結式二式魔導砲【アクアドラコニス・マグヌム】。
アシュリンさん用に魔創鉱石をあしらえた、銃ではなく砲!それは水龍の如く水属性魔法が襲い掛かりその口が開き【冬将軍】へと齧りつく!
『それ以上やったらあかぁぁぁぁぁぁん!!』
【冬将軍】が空へと舞い上がりつつも齧りつかれた事に抵抗するももう遅かった……………。
『【フランゴ】!』
アシュリンさんの言葉と共に、水龍の口が閉じ【冬将軍】を噛み切った……そのまま【冬将軍】が落下してくると共に、細やかな雪か氷粒のように飛び散りそしてまだ日が差す中、キラキラと輝くように消えていく。
素早く落下してきた【冬将軍】の魔石を除いて……………。
『わっ、私のご褒美がぁぁぁぁぁぁ!!』
第一〇一騎士隊は実力主義……一番槍だろうと、二番槍だろうと、三番槍だろうと、そして最後の一撃だろうと実力次第、隊員同士邪魔さえしなければなんでもあり。
そして最後の最後にアシュリンさんが持っていった、ただそれだけの事だった……。




