第七十六話改 騎士さんの休日 と 序列の保留。
残る2人、第一大隊の隊長であるハイネル・プレブス大尉は現在の位置より第一〇一騎士隊の中で上を目指す事は無いと参加辞退。
第二大隊の隊長であるアラカンド・フォン・マクラガー少尉は私との魔導鎧による決着を希望。
その為、予算が出来次第と保留される事で現時点で序列は一応決まる形で第1回チキチキ序列入れ替え戦なるイベントは幕を下ろす事が決定し、私は総隊長のままで居られる事となり次の任までの間、各自待機の無い自由行動が認められた。
但し私とアシュリンさん、ドワーフ達、整備研究班以外だけでありそれ以外だけが自由行動。
私は宿舎に併設されている兵器庫たるハンガーに居た。
私達の仕事は第一〇一騎士隊の魔導鎧の強化及び【浮揚機構】の部品供給の為のスカート部の製造である。
何しろこれをしなければ第一〇一騎士隊の予算はジリ貧なのです。
しかしドワーフ達、ヤマさん達には作り方を教えた為、その速度はすさまじく上がり、供給速度がアップ。
少なくとも近衛全体に回し、さらにディジトへと供給を回す程には在庫に余裕が出てきたし、何より整備研究班だけでも作れるので、任務中でも数は増えていくとあれば予算獲得は最優先事項の1つである。
アシュリンさんがここに居るのはあくまで私の補佐として。
ドルー准将?面倒だからと多分どこぞで煙草でも吸っているだろう。
一応ハンガー内は禁煙だからね……ただアシュリンさんがウザい。
私の髪の毛に目を付けてきて、シャンプーとリンスを強奪。
そしてサラサラになった髪を見せつけながらのポージングばかりで補佐なんてしていないのである。
ちなみに女性だけで構成されているガラ准尉以下、第一中隊員も全員それを嗅ぎつけてきた。
今頃アモル准尉を始めとした小隊長四人は王都で同じような事をしているのかもしれない。
何しろ軍属は婚期が遅れる傾向にあるからだ。
早ければ15で騎士となり、そこから軍人として訓練や任務に没頭する事となるし軍人の年給たる給料もそう多い訳でもない。
流石に騎士で女性であってもその辺りを気にはするものの大抵騎士同士で結婚する事は少ない。
理由?大体の男性騎士は階級だので相手を見る上にいわゆる関白主義が多い。
それこそ言い方は悪いが、子供を産む為の存在程度に見ているような貴族出身者も少なくない上に結婚すれば軍を辞めさせられる事も良くあるとか。
いわゆる稼ぎは旦那が、家を守るのが妻的なそういうイメージが根強い。
だからこそ第一中隊員が狙うのは逆パターンだ。
元々第五騎士隊と女性でディジトになれるのはほんの一握り、女性騎士の中ではエリートになる。
それも魔導鎧に乗れる程なのだから軍を辞めるよりかは良い人を捕まえ、出来れば主夫的な人を探す方が余程良い生活が維持出来る事が多いからだ。
それこそ小隊長、准尉ともなれば平均的な街に住む国民、両親に子供二人位の年収に比べればそれよりかは多いものの、冒険者と比べれば相当低いけどそれでもたった一人の稼ぎ、と割り切れば多い方である。
余程よい男性に巡り合わない限り、これ以上を見込む事も難しければ、そんな女性らしさを追求したい人はそもそも軍には来ないか、内勤の方を目指すものだ。
さらに子を為そうとすれば出産期に休みを取る事もある為、軍属の女性の場合は、多く孤児などを引き取って養子を取る傾向が非常に多い。
その考えに同調出来て、尚且料理なども出来る「イケメン」を捕まえる事が夢らしい。
【乳袋】にしても、シャンプーリンスによるサラサラツヤツヤの髪はその為の武器になるとか……いや、髪は解るけどさ。
【乳袋】って夜バレるよね??
「脱がなければ良いのでは?」
「アシュリンさん、それはそれでどうかと思うんだけど……。」
ちなみにアシュリン准将は私が実は「絶壁」の同士だったと知った事から「准将」呼びを辞めるように言ってきて「今日から准将ではなく同士と呼ぶのです!」と言ってきたけどそれもどうかと思い、基本「さん」付けになった。
公式の場では准将って言うけどさ……。
そして各魔導鎧のメンテナンス。
実は魔導鎧の識別モールド内には暗号化されてはいるけどそれぞれの操縦者の操縦等に関するデータが含まれる記憶領域たる魔石が搭載されているのです。
この内容を見て、メンテナンス方法を変えていくのが整備研究班のお仕事なのですが、ここで次の任務に合わせ個別カスタマイズの為の会議も行っていたりする。
魔導鎧のどのパラメーターを重視した方が操縦者との相性が良くなるのか。
そういったものも整備研究班たるヤマさん達のお仕事でどの騎士隊でも魔導研究班は1隊に1つ1班存在し微調整も行っているし、搭載武器を変えたり装甲の質を変える事もしばしば。
ただ次の任務がまだ決まっていない私達はあくまで操縦者に合わせていく方向でのカスタマイズを行いそこに私が一緒に参加している形です。
「やはり消耗が大きいと思われるのは大隊長のハイネル大尉、それとアラカンド少尉。特にアラカンド少尉は関節系の消耗が厳しそうですね。」
「パワー系じゃから熱を持たせない為のミスリィルよりかはオリハルコンじゃろうが……その予算が厳しいぞ?」
「重量が増すけどアダマントに変えるとか?」
「じゃがアダマントは魔法金属では無いぞ?その分関節部の魔法抵抗が下がる分をアラカンドがカバー出来ると思うか?」
「……………脳筋臭いからなぁ……難しいか。でも脳筋には向いてるんだよね、アダマント。純粋にただただ硬いから……。」
「それは魔法が絡まない場合の話じゃ。」
「そうだね……。」
このような感じに1機1機カスタマイズされていくのが普通。
但しここまでやっている騎士隊はそう多くなく大抵は隊長機位で、これを小隊員にまで適用する事はまず無い。
1つは予算の関係、そしてもう1つは予算の割り当ての関係。
基本総隊長、総隊長補佐、大隊長、中隊長、小隊長、隊員の順で予算が割り当てられていく上に、予算額も総隊長に近い方が高く隊員ともなれば少なくなる。
それにディジトまでなら新式を使っているけどデュプレからは旧式が混じってくるだけでなく時には隊員だと魔導鎧ではなく魔導軽鎧だけ、とケースもある。
それでいて予算の割り当ては総隊長程多くなる割に大抵の総隊長は前にすら出ない、ただの旗艦役なんて事もあり最も前に出る隊員や小隊長程、強化等が為されずそのまま戦死する事だって少なくない。
実際の機体予算額で言えば、この中で最も高額なのは実は耐久性が最も求められるハイネル大尉の【フォルティス・カストディアンPDB】でそれに次ぐのがアラカンド少尉の【フォルティス・カタフラクトスPDB】。
その次にやっと私の完成形となった【フォルティス・ステルラ】だ。
※P=隊長機仕様 DB=ドワーフ改
それ以降はグッと予算的に下がり、ほぼ横並びに近く精々装備品の違い程度や、細かい部品の違いだけしかない。
「そういえばアシュリンさんとドルー准将の魔導鎧は?まだ運び込まれていないみたいだけど……。」
「一応ありますけど、ありませんよ?」
「……はい?あるけどありません??」
「セネクス大元帥からはここでカナオちゃんに作って貰えと言われています。その為に一応運び込まれたベース機があれです。」
何やら巨大な箱が2つ……魔導鎧の外見ならまだしも、半ば棺桶っぽい箱が2つハンガー内に置かれているだけで、それがベース機?
つまり【フォルティス・ステルラ】のように旧式等をベースとして作れ、とは……なんとも嫌な予感しかしないのであった。




