第五十七話改 ハルキナ集積地防衛戦 その5
「なーにがまた会おう、次は殺すだか……だけど追うに追えないねこりゃ。あのリュンクスとやら、重要な場所ばかり狙ってくれるもんだから飛行は当然の事ながら、左右のバランスすら取れないじゃないか……。」
仕方なくその場からは足裏の【浮揚機構】だけを利用し滑るようにハルキナ集積地へと戻った。
しかし戻ると共に、私。
魔導鎧【フォルティス・ステルラ】へと向け様々な銃口・砲口が向いてきた……。
「あー、まぁ初見の魔導鎧だからそうなるか……。」
初見な上によく考えるとインテル王国軍が乗ってきた機体にも少なからず類似点があるからいくら所属を語った所で中に居るのが味方であるとは限らない。
こういう対応も襲撃されたからこそありえるものだと最初はてっきりそう思っていたのです。
しかしよく見れば魔導銃だの魔導砲を向けているのはどこかで見た顔ばかり……。
「あー、こいつら……第十八騎士隊だ……。」
少し前にルイナ砦で引継ぎをし、援軍として残った後敗走、それも第二十七騎士隊を殿にして自分達だけのうのうと生き残ったボラティル大尉以外の連中だ。
「動くな!撃たれたくなければ魔導鎧から出てこい!」
『ここハルキナ集積地は第四十六騎士隊の管轄で隣のハルキナ砦は第四十二騎士隊の管轄だった筈ですがいつからルイナ砦を放棄した第十八騎士隊が我が物顔でこんな事をしているのですかね?とりあえずセーリウス中尉かロトゥンドゥム中尉との面通しを希望したいのですが。』
「ここの責任者はボラティル大尉である!よってその必要はない!」
『ほぅ、いつからルイナ砦をあっさりと放棄しこんな所までさっさと逃げ果せた第十八騎士隊がここの責任者となられたのでしょうか。ああ……だからこんなに簡単にハルキナの地が襲撃され、蹂躙される事となったのですね。いやいや、失念しておりました。』
「きっ、貴様!たかが伍長の分際でボラティル大尉率いる我等が第十八騎士隊に対し、なんたる無礼な物言い!」
『無礼?なら第一〇一騎士隊総隊長である私に対してデュプレとトレスというだけの違いで下に見る物言いが無礼では無いと?』
「そのような手に乗るか!貴様のその機体、どうみてもインテル王国軍のものではないか!」
や、それはない、肩みようよ、肩……魔導鎧は肩の付け根に国の紋章を入れるのが国軍だから「どうみても」は流石に無理がある。
それにニヒル隊とやらは肩に紋章を多分「わざと」入れていなかった。
なら無紋であるべき筈なのにわざわざフォルティッシムス王国の紋章を入れた魔導鎧に乗ってくる意味合いは……。
まぁ、こりゃ話にならないし撃たれそうになったらサッと躱して腹パンでも叩き込めば良いかと、今は正規の騎士用の制服を着用している私が降りても一向に銃口を向けたまま、と相当な無礼な状態が続いている上に、ふざけた事まで言いだした。
「ふん、貴様のような伍長如きには贅沢すぎる魔導鎧だ。識別モールドの起動コードを寄越せ。」
「はい?」
「貴様のような輩が乗るには贅沢だと言っているのだ!さっさと識別モールドの起動コードを寄越せと言っているのだ!」
識別モールドの起動コード。
搭乗者が使う魔導鎧【フォルティス】シリーズを起動させる為に必要なものであり、これがあれば途中で譲渡させる事も可能なもの。
言うに事欠いて【フォルティス・ステルラ】を寄越せ??っていうかそもそもあんた誰だよ……。
「あんたの顔、ルイナ砦で見たから覚えてはいるけど……どこのどちら様でしたっけ?」
「貴様に質問など許した覚えは無い!いいからさっさと起動コードを渡せば良いのだ!」
「だが断る、【フォルティス・ステルラ】は他部隊への引き渡しはしなくて良い機体であり、第一〇一騎士隊専用。それも私用に調整されている専用機だからね。どうしても欲しいならそれを確約してくれた元帥たるフォルティッシムス王の許可を取ってきな。」
「せ……専用機だと!?ディジトや総隊長機じゃあるまいし……。」
「私が第一〇一騎士隊の総隊長だよ、それとこの【フォルティス・ステルラ】は一切の譲渡が出来ないように識別モールドの起動コードが存在しない。それと専用機だ、お決まりのように中にはこの辺り一帯が更地になる所か、巨大な穴位は開く程の【自爆装置】が仕込んであるんだけど、それでも中を見てみる?」
専用機は大抵何かしらの特殊機構を搭載しているから【自爆装置】が仕込まれている事位は騎士なら誰でも知っている。
「いっ……いや……。」
「なら話は終わりだね。で?ボラティル大尉がここの指揮官?ならセーリウス中尉やロトゥンドゥム中尉じゃなくボラティル大尉を呼んでもらいましょうかね。」
「くっ……。」
小声で伍長だ何だとまだ言っているのが聞こえるけどそれは個人個人の話であって部隊単位での場合は総隊長である私と同じ立場になるのはここではボラティル大尉、セーリウス中尉、ロトゥンドゥム中尉の3人だけ、それ以外からこのような仕打ちを受ける謂れは無いんだけどさ。
それよりかは時間の方が正直勿体ない。
そうこうしているうちにやっと第四十二騎士隊の人に渡りがつき3人の尉官との面通しが出来るかと思ったのだけどね……。
「随分と面白そうな事になっていますね……。」
なんと通されたのは療養所だった。
ボラティル大尉は第十八騎士隊の隊員の敵前逃亡に対し、かなり辛辣な言葉を向けた後、その隊員に刺されたらしい。
刺した隊員は当然その場で拘束され、現在は独房に入れられ現状、このハルキナ集積地は従来通り第四十六騎士隊の総隊長ロトゥンドゥム中尉が指揮を執り、砦の方はやはり従来通り第四十二騎士隊の総隊長、セーリウス中尉が指揮を執り襲撃の対応に追われる中、2人共癒しの魔法を使えるという事で療養所で対応に追われている真っ最中だった。
「貴殿のそれは我々に対する嫌味か?」
「いえ、ルイナ砦をさっさと放棄して殿とされ犠牲となった第二十七騎士隊の無念を籠めて?」
「ならそうなのかもしれぬな……だがこの通り、ハルキナはかなり厳しい状況に追い込まれた。兵站の多くが破壊され、食料なども燃やされ先を考えねばならぬのだが……いかんせん癒しの魔法を使えるのが我等2人しか居らぬのでな……。」
「ああ、なら私もお手伝いしますよ。」
「手伝い?貴殿は癒しの魔法を使えるのか?」
「いえ、多少の荒療治に見えるやり方ですが癒しの魔法程魔力を使わず、それでいてそれ以上の治療効果を出す力がありますので。」
「?」
まぁ、やり方は意外と簡単である。
七福神の1人、寿老人の【瓢箪】を手に出した後、私が中身を口に含む。
そして勢いよく怪我人の傷口へと向けて一気に噴き出す!
「アッ――――――――――――――!!」
「なっ!?何をしている!!」
「治療だと言ってるじゃないですか……少々荒療治に見えるって。」
私は手首で口を拭きながらそういった頃には傷口に【瓢箪】の中身を噴きかけられ叫んでいた軍人さんは飛び起き、気が付けば傷口はまぁ血等は落ちないから真っ赤だけど、その下の傷口等は全てが塞がっていた。
「残念な事に、少々痛みが伴うのですが……魔力はほぼほぼ使わないですし、素早く治るという非常に便利な反面、これ私しか出来ないんですよね……。」
「たっ……確かにこの世の終わりかと思う程の激痛が走ったが……終わってみれば痛みもない……。」
「本当か!?それに傷口が完全に塞がっている……癒しの魔法でもここまで綺麗に塞がる事等まず無いぞ?」
「まぁ、手っ取り早いので全員やってしまいましょう。そうすればお二人は他の対応に手が回るでしょうから。」
「そっ……それはそうだが……。」
「なっ、なんというか……。」
私は将官2人の肩をポンと叩いた。
「痛みと言う犠牲を払えば、死から逃れられるだけでなくこの場で完治する。それも痛いのもほんの僅かな時間。まさかこの程度の痛みすら嫌だなどと仰る騎士などいませんよね?あの海(海軍)の男ですら耐えるというのに……。」
超嘘だ、何か陸軍と海軍って変にいがみあっていると言うか何かと比べたがる習性があるんですよね……。
まぁなんとも効果的であったというべきか。
そこら中から「その程度耐えてやらぁ!」的な声が挙がりそして治療と共に悶絶するかのような絶叫がこの日、療養所には響き渡ったのでした……。




