第五十四話改 ハルキナ集積地防衛戦 その2
流石にルビがしつこく感じてきたのでここから激減……。
ハルキナ集積地、及び隣接するハルキナ砦では連日の襲撃に疲弊するばかりだった。
『どうなってやがる!何故、攻撃が当たらねぇ……こっちは【フォルティス・サジタリイ】だぞ!?それも二式魔導銃を使っているんだ、命中補正もあれば魔力も魔石の補助魔力を使って、際限なく撃っているのにそれが1つも当たりやしねぇ……。』
『それも見た事もねぇ、あんな細っちぃ魔導軍鎧でチョロチョロと逃げ回りやがって。その為の軽量化だかなんだか知らねぇが1発当たればあんなフォルティス簡単に吹き飛ばせるってのによ!!』
そして防衛に参加しているフォルティッシムス王国第十八騎士隊は兵站を気にせず、ただ目の前の攻めてくる敵の一機すら撃墜する事すら出来ていなかった。
そして後方で爆発と共に、凄まじい程の音。
『チッ!?またか!』
『何なんだ奴等!逃げ回っては魔導爆弾を投げ込んでくるばかりで、これじゃ埒があかねぇ!』
『ならやっぱ追い詰めて……。』
『それで毎回失敗してるじゃねぇか!追い詰めるつもりが罠に掛かって各個撃破されかけたのを忘れてねぇだろうな!?』
『だがあくまで「されかけた」であってまだ一機も動かなくなった新式も旧式もねぇだろうが!あんな胴回りの装甲を外してるような魔導軍鎧だ。その分、攻撃も低くしてその分素早さを極限まで上げてるんだろ。ならこっちが遠距離から撃ち抜けばそれまでだって言いてぇんだろ!?』
『そういう事だ、これ以上【フォルティス・サジタリイ】をやられてばっかりじゃ年給に響くぜ?』
『チッ……しゃあねぇか……。』
しかし襲撃してくる魔導軍鎧は彼等がまだ知る由もない。
カナオが作り上げた【フォルティス・ステルラ】を真似たような見た目は胴回りの装甲を排したような、非常にスリムな体形で、あたかも機動力に一点集中した様な素早い動きで逃げ回り隙を見ては魔導爆弾と呼ばれる手榴弾に似たような投擲武器を投げ込んでくる。
それも威力は程々、砦などが壊れる程では無いものの魔力の爆発によって爆弾の外装が割れ、吹き飛び微弱な被害を与える程度の攻撃に威力が無いようにしか思われていなかったが、そうではなくこれ自体がインテル王国ビゲル騎士団が抱える第二騎士大隊第四騎士中隊、通称ニヒル隊の作戦であり、半ば籠城に近い形のハルキナ集積地から、兵站などの運び出しを封じるように頻繁に襲撃し、運び入れを封じた上で兵站を使わせる。
籠城ならぬ籠砦の作戦であった。
何しろ立地的にはハルキナ集積地は現状、占領する価値が無かった。
突飛してフォルティッシムス王国側に食い込んだ立地はたとえ占領した所で国境線に並ぶ砦から援軍が来れば一気に囲まれるような場所で、その為には足場を固めたいと言うのがビゲル騎士団第二騎士大隊の指揮を執るアッリウム少佐の意向で実際、この裏でインテル王国はフォンティナ砦には他の騎士隊が既に駆けつけていて、散々壊された砦の補修を行っている上、第二騎士大隊の残った三個中隊が占領されたルイナ砦の防衛を固める準備の真っ最中。
そして何より渡河が大変であるトレンス川を渡れるようにする簡易的な橋の建設を始めており、その為の陽動でしかなかった。
但しその下準備はかなり昔から行われていた為、既にトレンス川には橋がほぼ完成しており間もなく、彼等の作戦は次の段階へと突入する。
『リュンクス様、準備が出来ました。』
『結構。では始めなさい。』
『はっ!』
それはトレンス川という深く流れの急な川で流される事も無く潜っては浸水1つせずにここまで時間を掛けて移動してきたそれは戦車にも似た形状の魔導軍鎧【フォルティス・クッルス・エクセルシス】だ。
魔導鎧の中には攻城兵器に値する【フォルティス・クッルス】なる機体が存在している。
しかし撃ち出すのは大砲、一式魔導砲【マギ・マグヌム】と呼ばれる魔導飛空艇と同様のものである上に非常に重い鉄球を魔力爆発で押し出すように撃つ為、思った程と遠くに撃ち出せない為、形状は櫓に近い形をしていてさらには移動にも難があるものだ。
しかしこの【フォルティス・クッルス・エクセルシス】は専用の鉄球として軽量化したものを用いた上に砲身を細く長くした事で飛距離を伸ばしただけでなく履帯の採用により移動が速やかに行えるようになり機体の軽量化も含め、沼地の移動すら可能にした最新式。
旧式・新式とは違う第三世代の魔導軍鎧を投入してきた。
さらにこれまでの襲撃にも同じ第三世代機である【フォルティス・ゼノ)】と【フォルティス・レグルス】、そして【フォルティス・モルス】を投入してきた事がここでルイナ砦を奪い、そしてハルキナ集積地にまで攻め込めた理由でありインテル王国はそれをデシデリウム帝国からの供給を受けたのだった。
そして次の段階はハルキナ集積地の兵站を使い切らせた上で集積地としての役割を果たせなくする事。
少なくともフォンティナ砦の復旧には少なくとも時間が必要でありルイナ砦の防衛準備が完了し切るまでをこの行動によって稼ぐのが目的であり、ルイナ砦の防衛準備が整い次第周辺の砦を襲撃し、次々と渡河が非常に難しいトレンス川の対岸を制圧していく、そういう計画であった。
『お前達、ここまでよく我慢しましたね。これより我等ニヒル隊が最も得意とする戦いに移行する。総員………蹂躙の時間だ!』
『『『『『イエッサー!』』』』』
指揮を執る中隊長リュンクスの魔導無線の声にハルキナ集積地、及び隣接のハルキナ砦へと【フォルティス・クッルス・エクセルシス】の鉄球が次々と降り注ぎ始めた。
それもこの鉄球には仕掛けが施されており一定の魔力パターンを認識し、その場所に確実に着弾させる高い命中率を実現する魔道具としての機能を有する上に鉄球は着弾と共に爆発。
その破片が周囲へと飛び散るようになっていた事で攻撃を受けたハルキナ集積地側は堪らず指揮を執るボラティル大尉の指示で【フォルティス・クッルス・エクセルシス】を潰すべく次々と魔導鎧を送り出し始める。
それをニヒル隊は待っていた。
『手加減は不要!全てを破壊し、死をくれてやれ!!』
そこに参加してくるのが第三世代魔導鎧【フォルティス・ゼノ】。
【フォルティス・ステルラ】に似たフォルムの魔導鎧は機動性が高いだけでは無かった。
奇しくもカナオが作り出した座席によって操縦者と機体を繋いでの魔導軽鎧を着たかのような操作性を合わせて旧式にあったハンドレバー・フットレバーを併用した内部構造。
新式、第二世代は魔導軽鎧を着て動かす為に非常に息苦しく、扱いにも身体全てを使っていたものが旧式のレバーによる取り回しという解放感を持ちながら座席からミスリィルによって機体と連動し身体の動きよりもより速い反射的な動きをフィードバック出来る。
まさに第三世代に相応しい性能を持っていた。
当然旧式である第一世代、新式である第二世代を上回る機体である事は当然ながら、インテル王国の保有する技術では不可能、デシデリウム帝国と言う、隠れた後ろ盾があってこそ。
インテル王国はまさにリュンクスがいう通りの蹂躙を始めたのだった。
それだけで飽き足りる事は無かった。
何しろ捕虜は一切取らない上、出てきた第十八騎士隊の操縦席から操縦者を引き摺りだし、それを盾に使い始めたのだった。
それも死者ではなく、まだ生きている者達だ。
人道的には良くなくとも、戦争だけでなく悪知恵の働く魔物ですら同じような事を行う、肉壁。
それは一応は仲間である第十八騎士隊であり多くが飛び出した事でハルキナ集積地の防衛は概ね第四十二騎士隊と第四十六騎士隊となっていた事で再度、3つの騎士隊同士での諍いが始まった。
軍人としてはこの場合、与えられた任務の遂行が最も優先される。
だからこそ第四十二騎士隊の総隊長セーリウス中尉と第四十六騎士隊の総隊長、トロゥンドゥム中尉は本心としては助けてあげたいものの、ここハルキナの地を落とされる訳にはいかぬと肉壁に隠れ、接近してくる【フォルティス・ゼノ】に対し攻撃を指示した。
『なっ、ならん!ならんぞ!我が隊の者達がそれでは犠牲になるではないか!』
『ならここをむざむざ落とされるつもりなのですか!?』
実際には第十八騎士隊の総隊長ボラティル大尉は決して隊員の命を案じている訳では無かった。
隊員が殉職すれば、それは自らの評価に繋がる。
もしハルキナが陥落した所で、責任など擦りつければ良いのだから……。




