第五十一話改 ルイナ砦の戦い その4
その頃カナオは既にルイナ砦を後にしていた。
その理由は2つ、1つは第二十七騎士隊に対しての増強補充が決定しそれまでの間、第十八騎士隊が応援として入る事で入れ替わりとなった事。
以降ルイナ砦は大隊2つの第二十七騎士隊と大隊4つの第十八騎士隊によって維持される、と言うと聞こえは良いのだが、現実は欲に駆られたものだった。
まず本当に目に見える形での結果を残したカナオにこれ以上結果を残させまい、と動いた派閥勢力がありその派閥勢力下の1つが第十八騎士隊であった事。
さらにこの後、予定では第二十七騎士隊もルイナ砦の担当から外され、王都に戻されて増強補充が行われた後に別の場所への転属、それもこれから秋口、冬と迎える頃に嫌がらせのような転属が待っているのだった。
しかしこれが悪手となった……王都へと戻ったカナオがヨボ爺達から受けた報告。
それは圧倒した筈のルイナ砦側がインテル王国側から強襲を受けた後、第二十七騎士隊がほぼ全滅。
そして第十八騎士隊に至っては後方に位置するルイナ砦を含むハルキナ地区の兵站集積地でもある、ハルキナ集積地及び隣接するハルキナ砦までの撤退を余儀なくされた事が告げられた。
「何これ……なんで第二十七騎士隊がほぼ全滅って……。」
カナオがわざわざ新式である【フォルティス・サジタリイ】を10機渡した上で、様々な兵站を補充した事を知った事から第十八騎士隊は兵站を殆ど持たずに応援へと駆け付けた事。
さらに問題は【フォルティス・サジタリイ】を第十八騎士隊が徴収し、自らの部隊の旧式と入れ替えをさせられたとか。
これは同じデュプレの騎士隊でも数字の少ない方が上位、という悪習があった事からの出来事でフォルティッシムス王国軍内ではそれなりにある事であったと共に【フォルティス・ステルラ】を手に入れ損ねた軍はカナオが手を入れた【フォルティス・サジタリイ】だとどこかから聞きつけた事からでもあった。
短時間の渡河能力がある機体。
それ故にそれを王立研究所に全て運び込む事が決定した後、第十八騎士隊の機体が足りなくなった事でまた旧式が第二十七騎士隊から第十八騎士隊の手に戻った。
当然、第二十七騎士隊は拒否するも上からの命令と共に増強補充時にその分をも補填すると言いくるめられた事、そしてルイナ砦にインテル王国の一中隊が強襲。
第十八騎士隊が最初は応戦したものの圧倒された後、真っ先にルイナ砦を放棄しての撤退戦へと舵を切った上でその殿を第二十七騎士隊に押し付けた為、第二十七騎士隊は十全な戦闘も行えないままインテル王国に撃破された。
問題はこの後だ、この責任はルイナ砦を担当していた第二十七騎士隊の責任でありルイナ砦を防衛し切れず、インテル王国に占領された事や様々な責は総隊長たるハイネル大尉へと転化され、第十八騎士隊はあくまで応援部隊であるとしてその責を負わなかった事までもが暗部副隊長であるニャンコ大佐の口から説明されると、カナオは机を壊しかねない勢いで叩き、その場に静かな時間を作り出したのだった。
「ふっ、ふざけんな!どんだけ足を引っ張りゃ気が済むんだ!!」
ちなみにカナオの功績も無かった事にされていた。
インテル王国の捕虜達は未だルイナ砦に捕らえられた状態のまま占領され、当然鹵獲品の多くは再鹵獲された上に多くの兵站もインテル王国に取られた結果だけが残るという散々なだけでは終わらず、最終的にカナオの功績そのものも軍の記録としては残されないという扱いにもされた事にもカナオは怒っていた。
「大型移動平衡錘投石機や移動投石機、移動小型投石機に予備の魔導軽鎧程度じゃ魔導鎧の費用にすらならないじゃないか……。」
「それを鹵獲してくる時点で規格外にゃすがね……普通重くて、質量があるから鹵獲なんてしないにゃすよ?それと魔導軽鎧以外は費用に充てられないにゃす、所詮木材で作られただけの攻城兵器群にゃすから……。」
「ジーザス!第二十七騎士隊に奢った分だけマイナスじゃない!!」
「いや、流石に魔導軽鎧には価値はあるにゃすから、そこまでじゃないにゃす……。」
「しかし、インテル王国にそれだけの中隊が残ってたとか思えないんだけど……。」
「それにゃすけど……暗部の調べではどうやらビゲル騎士団の第二騎士大隊第四騎士中隊が出てきたようにゃす。」
「誰それ?」
「通称ニヒル隊と呼ばれるインテルの精鋭中隊にゃす、中隊を仕切るのは中隊長のリュンクス・エキシマー・レウォルティオ。大尉にゃすが、正直得体がよく解っていないにゃす。」
「……………家名は普通にあるんだけど、成り上がりって事?」
「それもにゃすが、そもそもの出自が全くの不明にゃす。孤児の線も考えたにゃすが衛兵経歴も無く、突然騎士になってるにゃす。それでいて上級学校等を卒業した経歴も無いとにゃす達暗部もお手上げ状態、なんなら足まで挙げたい気分にゃす……。」
つまり肉球が……いっぱい!
「……今、何か不穏な考えをしなかったにゃす?」
「それは気のせい森のせいっていうか……で、第十八騎士隊はどうでも良いんだけどさ。第二十七騎士隊はどうなったの?」
「唯一生き残ったのはハイネル大尉だけだったにゃす。それも大怪我を追って、トレンス川から分岐したルイナ砦とハルキナ砦の間にあるへルート川に魔導軽鎧毎流された事で何とか助かっただけで、今は絶対安静状態にゃす。それも意識が戻り次第、軍事裁判が待ってる状態にゃす。」
「それで第十八騎士隊とやらの責任をおっ被されているの?」
「そうにゃす。なんとかに口なしじゃないにゃすけどそれに近い状態にゃす。それと軍事裁判には暗部は証言出来ない上、証拠として採用されないにゃす。暗部はそもそもどの国にも存在しない、という建前にゃすから……。」
「そうなの?」
「当然にゃす、フォルティッシムス王国に限らず基本は諜報が担当にゃすが、時には暗殺等も担当するにゃす。世界的に暗部と言うのは存在しないという建前の下、全ての国が暗黙の了解としている存在でもしそれをどんな理由であろうと表立たせれば世界の全ての国を敵に回すにゃすよ?どんな小国だろうと暗部は必ずあるにゃすから……。」
「なら何も出来ない、と……?」
「そんな事は無いぞ、カナオ伍長。」
「何かあるの?ヨボ爺。」
「そうじゃの……たとえばその敗戦を無かった事にするとかかの……。」
うわ、絶対面倒臭い系だ……。
「たとえばこんなのはどうじゃ?」
ヨボ爺から私に提案された内容はあの【フォルティス・サジタリイ】のスカートパーツの軍への供給、という現王であるセネガル元帥との取引、という内容だった。
その製造を第一〇一騎士隊で請け負い、それを国軍へと供給。
それによって予算獲得をするという内容。
但しその対価はこちらにとってもかなりの益がある。
【フォルティス・ステルラ】をその予算において完成した後、第一〇一騎士隊に配備、さらに総隊長というかたった一人なんだけど総隊長機としての運用許可までつけてくれ、他部隊へと引き渡さなくて良い事を確約するものだった。
「つまり【フォルティス・ステルラ】を完成させた後、ルイナ砦の奪還が任務、って事で良いのかな?」
「そういう事になるの、それも単独任務となるが故に1つ条件が付くのじゃが……。」
「あー、はいはい。自爆装置を搭載しろって言うんでしょ?」
自爆装置は余程の事がない限り、搭載許可が下りるものではない。
理由?魔導鎧がくっそ高いからなのとそれを行うと、それを当てにしたいわゆる「カミカゼ・アタック」が横行しかねないからで、フォルティッシムス王国では許認可制だ。
但し中小国のものには搭載しているケースが多い。
当然、鹵獲防止の為という体での自爆攻撃、目標物に操縦者もろとも突入するテロ攻撃用で一応世界的な現行法律では自爆攻撃自体が人道的な面などを理由に禁止されているものの、情報漏洩を理由にした場合は搭載出来る許認可式の機構となっている。
その為搭載出来る自爆装置そのものは非常に小さく、かつその魔導鎧1機の重要部分だけど破壊する威力に留めるものまで、と定められている。
但し法には実は抜け穴があり、自爆装置そのものは決まった規定で機構を作り上げなければならないとされる一方、搭載数に限りがなかったりする。
つまり1個搭載しても、馬鹿な話1000個とか搭載しても合法、という事になる辺り、誰か気が付かなかったの?と思うもこの部分が実は重要らしく、世界の方としての改正案が出されるも棄却続きで法が改正させられる事は恐らくない。
「1個で良いのじゃよ……それともカナオ。お主は自爆攻撃をしたいのか?」
「それは無い。」
きっぱりと言い切り、自爆装置を1つ秘匿用に搭載する事を理由とし一応は【フォルティス・ステルラ】の完成の目処が立ったのだった。




