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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第四十三話改 衛兵さんの知ってる天井

「んあ?」


 気が付いた時、私はベッドに寝ていた。

 身体を起こしても誰かが居る訳でもなかった。


「……………まさかの夢オチ!?いやいやいやいやいや、超頑張った筈なのにこれ全部が夢オチとかありないわー!ないわー!」


 にしては妙だ。

 やけにベッドが大量に置かれている部屋だしよく見れば他のベッドで寝ている人も居る。

 しかし口を開けるような状態では無いのが見て取れた。


 しかも何故、私は全身包帯でグルグル巻きなのだろうか。


「っていうかデジャヴだ!って事は次は!?」


 と、思っていたら後ろからスパンとぶっ叩かれた。


「痛っ!やっぱりだ!」

「騒ぐな、ここは救護室だ。あと重傷者は安静にしているものであって余計な口を開くな。」


 そう口にしたのは白衣を着た国軍科付きの救護員であり教員のマヘル先生(※第八話登場)だった。


「まったく、化け物みたいな女だな。」

「はぁ!?」

「魔力欠乏症、全身の魔力を0まで使い切った症状で意識を失い本来1日から3日は意識は戻らない上に戻ったとしても24時間は魔力が体内で作れないと言うのが普通の奴なのだがな……あれからたった3時間で意識を取り戻すとかお前、絶対化け物だろ?」


「ぶー!ぶー!化け物では無くカナオ!カ・ナ・オ二等兵!」


「そうか、ならカナオ。治ったならさっさと出ていけ。」

「えー……今起きたばかりなのに……。」

「五月蠅い女だ……生意気なだけならまだしも五月蠅いなど、嫁の貰い処も無さそうだな。」

「なんか失礼なのが居る!っていうかどちら様?」


 何やらやけに顔の整ったお上品そうに見える男性が1人、身体を半分起こした状態でベッドに寝ていた。


「貴様……本当に解らないのか?」

「知らない。」

「私も知らんな。」


 なんでマヘル先生まで知らないのさ……知らない人が救護室に居るとかとんでもなく怖いんですけど!?


「貴様、教師の癖に何故知らない!」

「驕るでない、馬鹿者が。誰しもが知っていて当然だ等と思い込んでいるその貴様の考え自体恥ずかしくないか?私なら恥ずかしくて表を歩くどころか家に引き籠って何度となく思い返し、最後は恥ずかしさのあまり自殺まで考えてしまうかもしれないぞ?」


「残念ながら、そこまで考える位なら聞いた奴を全員殺す事から考えるぞ?」

「それも驕りだろう?」

「どっちも言ってる事が物騒なんだけど!?」


「真面目な話、貴様は自分で倒した相手すら覚えていないのか?」

「え?私あんたに勝ったの?なら余程圧倒的な勝ち方で記憶にも記録にも残らない程無残な負け方でもした人?」


「……………首を吊る紐はあるか?」

「教師だからと言って生徒の希望を止めるつもりはないぞ?」

「だから物騒な事を言いだすなぁぁぁぁぁぁ!!」


 そしてやっとこの人物が第六王子のヘイリアスだと知る。


「ああ、突っ込んでこようとして【御守袋】であっさり出鼻を挫かれて【勇魚いさな岩】と【金剛拳】に挟まれた挙句、血と臓物まみれになった……。


「私はその戦いを見ていないから解らないが血と臓物はどこから出てきたんだ?欠損もそこまででも無ければ、血もそう失っていなかった筈なのだが……。」

「……………首を吊る紐はあるか?」

「だから死のうとするな!」

「と、いうかこいつは王家から【ハーフエリクシール】が輸送されてくるまで安静状態でなければならんから、あまり構ってやるな。ああ、そうだ。お前の騎士昇格試験の通知を預かっている。」


「マジデっ!?」


 いやいや、それを早く言ってくれないとさ。

 だって国軍科の救護室で寝かされていてそんなものがあるって事は……多分そういう事だよね?


 【フォルティス・カタフラクトス(重装騎兵)】はキチンと頭部を飛ばして動けない状態にした筈だから当然合格通知だよね?


「ああ、悪いが中は読ませてもらった。」

「だから入学試験の通知といい、なんで勝手に読むんです!?」


「封蝋も無いのだから勝手に読めるだろう?それに読まれて困るものでもなかろうが。」


「あー、まぁそう言われるとそうなんですけど……。」

「まぁ、俺を容易に倒す位だ。どうせ当然の結果が書かれているだけだろう?」

「そうだな、おめでとう。」


 おお!やはり!私はついに騎士に!!


「お前は不合格だ。」

「………嘘だ――――――――――――!!!!!」


 通知が書かれている革紙を奪い取り読むと誰の仇なのかと思う位に「ポイントが合格点に達しなかった為、不合格」とそれだけがデカデカと書かれていた。


「ちょっと待って!?この騎士昇格再試験、一体何人合格者が出たんですか!?」

「1人も居ない。」

「……………は?」

「ちょっと待て、合格者が1人も居ないだと?あれだけ国軍科を圧倒しておいて誰1人騎士になれないとはどういう事だ?」


「どうせ茶番だったのであろう?そもそもどの試験にどれだけの点数を割り当てていたかの詳細が一切書かれていない。このカナオは少なくとも最も活躍していた筈だからこいつが不合格なら全員不合格だろう。」


「茶番……?なら試験内容がどうあれ、合格させるつもりが無いって事!?」

「今の国軍ならやりかねないだろうな。」


「おい、教員……それはどういう事だ……。」

「どういう事?それはお前が一番よく解っているだろう?王族。この国軍科にしても実力なんて無くともほぼ金の力で全てが決まっている事位。」


「そっ、そんな訳があるか!俺は実力で首席の座を取ってきたんだ!」

「金を出すのは貴様では無いのだから、知らない可能性はあるか。今のお前達にまともな騎士になれる実力など皆無に等しい。」


「何!?」


「ここに居るカナオはテッラ・レグヌム騎士団第五騎士隊第四大隊第一中隊21人が新式の魔導マギ・エクセルキトゥス・アルミスに乗る中、国軍科の訓練用で旧式である魔導マギ・エクセルキトゥス・アルミスに受験者たる衛兵達が乗り込む中、規則の下、自費で改造を行った後に結果としてたった1人で第一中隊を全員倒した。それもこれまで触れる事も無く、ほんの僅かな講義を受けただけで現役の魔導騎士マギ・エクエス相手にたった1人で21人全てを倒したカナオが合格にならないのだぞ?どこに不思議があるというのだ。そして貴様等、国軍科3年は他の衛兵にも模擬試合でかなり負けたな?国軍科は決して実力主義ではない、親、王侯貴族か否かの血。そして金で全てが決まるといっても過言ではない。」


「なっ、何故そんな事になっているのだ!」


 マヘル先生が話した事はなんとなくどこかでありえる話だった。


 王侯貴族の子というのは継ぐのはたった1人。

 分家として別の家へと嫁いだり、新たな家を立ち上げる次男が嫡男の予備、として残るか、さらに予備として三男が残るか以外全ての子供達は家を出るか嫁ぐかだ。


 そして最初はただの親心だったのかもしれないとも語った。

 自らの子が家を出る事で平民となる。

 しかしもし騎士となれば、騎士の称号を得て騎士爵と言う準貴族という扱いになる。


 それが少しでも助けとなれば、等と考えた父や母が居たかもしれない。

 しかし多くがそんな理由では無かった。

 準貴族になった時点でこの世界では準貴族自体は平民に近い扱いながら家名を名乗る事が出来るようになる。

 騎士となるのは中々至難だった為、騎士が自らと同じ家名を名乗る事で家の力を増す為の道具になると、金を掛け始めたのが初期である。


 そしてその競争が過熱していく。

 だからこそより良い爵位の子が次々と騎士となり男爵、子爵などの立場的にも弱い貴族家は騎士になれない、なんて事も珍しい話では無かった。


 しかしこれが横行していった事で、騎士と言うのは本来実力主義であるべき所が、ただのお金をいくら出せるか。

 それだけが指針となっていった。


 中にはこの状況を憂い、現状に我慢し上の立場を得て上から変える事を考えた者達も居た。

 しかし国軍の最上位は現王や現皇帝がなる元帥ではなく事実上は将官がトップだった。


 国軍のトップは王や皇帝でありながらも

 彼等は内政という政にも気を割かねばならなかった。

 だからこそ国軍の事実上のトップは将官とされた。


 しかし将官は元帥のように単一の存在では無かった。

 最も最上位とされる大将に限れば1人きりであったがこの時点で陸軍大将、空軍大将、海軍大将と存在し、陸海空軍としてはたった1人ながらも国軍という括りでは3人横並びであった。


 さらに中将、少将ともなれば複数人が陸海空軍に居る。

 変えるにはせめて大将ととんでもなく遠い場所を目指さなければならなかった。


 しかし騎士も結婚し、子を為していくと辛い現実にぶち当たる。

 準貴族は所詮は平民の括りであり、国軍と言う仕事は国に仕え、臣民に守るというものである。

 それこそ貴族に比べても収入は少なく子が自らの背中を見たかどうかはともあれ、騎士になりたいと言った時。


 実力などでどうこうなる世界で無い事を十分に理解出来る立ち位置に居たりする。

 それを一早く、察した者達は悪習を周到した者達だ。

 軍の中でもとにかく金の力を高めるべく動き、金の力でのし上る。


 そしてある程度上がってくれば今度は後ろから追いかけてくる者達が居る。

 それも金の力でのし上ってきた、実力無き者達との金と金のぶつかり合い、せめぎ合い……。

 そして王侯貴族の階級至上主義や人族至上主義といった様々な主義主張が入り混じって出来たのが今の国軍だった。


 そしてその中には金の力を親から受け、さらに実力がある者。

 そういった者達も台頭するも、軍は階級制度というヒエラルキーがあり、上官には決して逆らえない。


 そして内政という政に勤しむ元帥には間違ってはいないものの、思い違いをしかねない報告が為されその結果、誰もこれに異を唱えなくなる事となっていた……。


 しかし1人の王がそれに気が付いた。

 その王は自ら慣例より早く王の座を退いた後になる事が出来る大元帥なる階級についた。


 だが実質的な軍のトップは3人の大将、その意に沿う中将少将で占められた多数決と言う名の派閥との戦いであった。

 都合の悪い者は退け、良い者達を使っていく。

 それでいて、決して自らを追い越されないようにと策を弄しこの腐った国軍が今も尚、改善される事なくこうして力を保持している。


「さて、こんな話を聞いた2人に問おう。1人はこの国の第六王子、という継承権からは程遠く次代の王とはならないであろう王族が、この上級学校国軍科。ひいては国軍と言う存在が今、私が説明する通りだったとしたら。君はこれからどうするべきだと思うか。そしてそこな平民で獣人のカナオ。君はこれを聞いてどうするべきだと思う?」


「そっ、そのような事どう信じろというのだ!証拠は!証拠はあるのか!?」


「5点、それも100点満点のうちの5点だ。私が説明する通りだったとしたら、と言っているのにその証拠の提出を求めるなど、ただ口を開いた事に5点を与えるだけでそれ以上、評価のしようがない。さて、カナオ。君はどうするべきだと思う?」


「どうもしないさ」

「どうもしない?」

「そりゃそうでしょ、裏で色々しているだなんて国軍に限らず、王侯貴族大抵は何かしらしてるんだからさ。嫌がらせ?金の力?上等だよ。こちとら現場で汗水垂らして真っ当な国軍の仕事をするだけさ。だって国軍は国と臣民に忠誠を誓う者達の総称であって上官に与して、忠誠を誓う者の総称じゃないんだからさ。だからそうだなぁ……そうだね、私は現場で頑張るからヘイリアス。あんたがなんとかすりゃいいのさ!」


「わ、私だと!?」


「私とか男らしくないね……王族なんだし、あんたの親やヨボ爺なんかの祖先のツケって事でしょ?なら連帯責任であんたが払うのが筋だと思うよ?そうでなくてもあんたの祖父たるヨボ爺がそのツケを払おうってんなら、あんたがそれを継がなくて誰が継ぐってのさ。思い出したけどあんた格好良く登場した割に私に強いんだろうな、と意気ったからあんたなんか足元にも及ばない位ぶっちぎりの強さを見せてあげるって見せてあげたじゃない?なら今度はあんたが見せる番じゃ無いのかね?」


「中々斬新な解釈だな……点は中々つけにくいが私個人では95点くらいあげられるぞ?だが5点ほど足りないな。」


「何、その5点って……。」


「ヘイリアスが見事にカナオに見せる事が出来たら合わせて100点だな。」

「何その95+5=100とか……。」


「さて、面白かったからカナオ。お前にはこちらの通達書もくれてやろう。おめでとう、栄転だぞ?」


「はい?」


 マヘル先生から受け取った通達書には封蝋は無くやっぱり読んだんだ、と思う中。

 思わず私は読みあげてしまった……。


「フォルティッシムス王国軍陸軍所属王都テッラ・レグヌム第四衛兵南門部隊カナオ二等兵。テッラ・レグヌム騎士団第一〇一騎士隊勤務を命ずる……はい?」


 テッラ・レグヌム騎士団第一〇一騎士隊……そんな騎士隊、あったっけ……?


 騎士昇格試験は不合格となったのに、何故か騎士隊への配属勤務の命令が下る。

 なんともよく解らない内容だったのでした……。

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