第三十七話改 衛兵さん の 最終試験 その1
最終試験当日、残った受験者37名。
その多くが特別講習程度で弄れる部分はそう多くなく見た目が訓練用の旧式魔導鎧である中、唯一カナオだけが外装に歪みなどが見受けられる。
粗目の継ぎ接ぎながらもアルミの色がそれなりに解る新式魔導鎧に近いと思しき魔導鎧に乗って開始位置に現われた事で、騎士昇格試験を実施している王国軍側からの「待った」がかかった。
「これのどこが訓練用の魔導鎧なのだ……。」
そもそも訓練用の魔導鎧は元々は旧式の払い下げ品である為、大きさはほぼ変わらない。
しかし元々が鉄フレームであるべき機体に外装が張られただけならまだしも簡単なチェックですら引っ掛かった理由は操縦席にあった。
新式は魔導軽軍鎧を着たまま登場し、そのまま魔導鎧との接続部を繋いで動かす仕様で旧式はハンドレバーとフットレバーで構成されていて座席に座っての操縦となる中、その両方を兼ねたような操縦席の構造をしていた事にあった。
カナオが「良いとこ取り」と言った通りハンドレバーとフットレバーがそのまま。
いや、フットレバーとハンドレバーの数が2倍に増やされさらに座席に向かって灰銀線、ミスリィル線の接続が多く見つかり、さらには座席の表面にすらミスリィルが配された中間の魔導鎧のような様相をしている事に対し、「旧型ではない」とレギュレーション違反の声が挙がったのだった。
「元訓練機である以上、どこにも問題は無いかと思われます。さらにセネクス大元帥自ら『どんな整備をしても良い』と私は確認を取っています。ベース機が訓練用の旧式魔導鎧である以上レギュレーション違反にはあたりません。」
「たかが二等兵が……黙れ!それを違反とするか否かは貴様ではない!我々だ!」
「ああ、つまりお飾りのようなあの綺麗な魔導鎧が壊れる事無く、汚される事なく無残に古い旧式魔導鎧を完膚なきまでに叩きのめせ無さそうだと懸念している訳ですね?」
「貴様ぁ!口答えをするか!!」
カナオは顔を殴られたものの、そのまま不動の姿勢を貫き腕は後ろで組むように回し、殴ってきた男を睨みつけ決して痛がったりもしなかった。
「どこに間違いがあるのでしょうか。我々が与えられたのは間違いなく訓練用の旧式魔導鎧。新式が与えられた事実があるというのであればその証拠を提示していただきたい。」
「貴様、黙れと言っている!それと上官に対する口の利き方!それでも貴様は軍属か!」
「そうだよ、軍属だよ。私は国に忠誠を誓ったけど、あんたのような上官に忠誠を誓った覚えは無いね。上官ぶるならせめて私よりあんた達が強いと口ではなく実力で示したらどうだい?」
その後、カナオは顔の形が変わりそうな程に殴られ続けるも、【身体強化】を展開しながらであった事もあり、思う程の怪我を負う事は無かった。
「そもそも試験に上官だのとくだらない思想を持ち込む暇があったら魔導騎士らしく、魔導鎧で勝負したらどうなんだい?こちとら衛兵なんだ、そちらが階級的に上なのは当たり前だろう?それとも何かい?試験でも上の階級だから手を抜けとでも言い出すつもりかい?これだから腐れ騎士だなんて呼ばれるんだよ。それとも魔導騎士の癖に魔導鎧の操縦に自信が無いのか……どちらにしても勝ち目がないからこうして前もって潰したいと……私には解らない感覚だね。」
「良いだろう、そこまで言うなら魔導騎士として魔導鎧で決着をつけてやる!おい!始めるぞ!」
「待ってください!まだ識別モールドが解放されているか等調査しなければならない事が……。」
「どうせ旧式だ!解放した所で大した事は出来ぬ!良いから始めるぞ!」
ま、それも正解だね。
旧型の魔導鎧を解放した所で元々機体に魔法金属があまり使われていない以上機体が耐えられなくなる、だから解放自体はされていないから時間の無駄だけど……。
まぁ自分で「どうせ旧式だから大したことは出来ない」と旧式と新式の差を言ってしまっている辺り、機体の性能差だけでも何とか出来ると思っているのか、こちらの操縦技術が練度と経験の無い分を考慮したとしても上回ると思っているのか……。
どちらにせよまさに腐れ騎士の名に相応しいってね。
そして始まる最終試験、広大な魔導鎧演習用領域からさえ出なければそれぞれの魔導鎧が出来る範囲で戦う。
但し当然のことながら法を守る事は当たり前の事だけどそれ以外は何をしても、どう戦おうと構わない。
だからこそ私が煽りに煽った事で魔導騎士共は私を狙いに来てくれる、そう考えている。
私が主に行ったのは行動に支障が無いと計算上の強度を有した上で新式魔導鎧より軽量化してあるから私自身と同じく、速度を生かした戦い方をする事。
最も重要な部分が足回りだ……。
開始の鐘が広大な敷地に鳴り響く中、ついに最終試験が始まった。
魔導騎士達に負けるつもりなんて一切無い。
それこそ全滅、全てを大破させる事が今回の「任務」だった。
その為、訓練用の旧式魔導鎧は全ての魔導無線なる魔力による伝達機構を潰してある上、旧式と新式では機動力自体がそもそも別次元だった。
旧式は普通に歩行をしなければならないのに対し新式は足の裏には空気浮揚機構が存在していて、膝横から大気を取り入れ、足裏から放出しホバー機のような移動をする事が出来る。
但しその分魔力消費が激しい為、どの魔導騎士の魔導鎧にも魔石が多く積載されている他、ここで使われる魔導鎧は完全な魔導軍鎧。
軍用魔導鎧として正式配備されている中の【フォルティス・ホプリテス】が使われていた。
その特徴は歩兵タイプでありながら空気浮揚機構を持つ事で機動力の低下を防ぎ、さらには様々な武器を持っている。
剣、斧、槍をカスタマイズした上で盾、そして魔導銃器とも呼ばれる一式魔導銃【パルウム・スクロペトゥム】を有する事。
一式魔導銃【スクロペトゥム】をさらに小型化したもので、シリンダーに近い機構を排した代わりに1発づつ装填する必要性があるものの、非常に小型化が出来た事でその分、予備の鉄球を多く持っているのが特徴となっている。
そして開始から5分、まだ衛兵達受験組が森の中を慣れない操縦に四苦八苦しながら、旧式の魔導鎧を駆けさせていた中、その鉄球の餌食となった最初の受験生が出たのだった……。




