第三十五話改 衛兵さん の 最終試験 前日
「違う、これじゃない……。」
私はヨボ爺の言い方に多少はワクテカしたものの私が乗りたかったのはこれじゃなかった……。
いや、これも確かに魔導鎧だ。
実は最後の試験は魔導鎧に搭乗しての魔導騎士との模擬戦だったのです。
但し私達の目の前にあるのは、どれもこれもが国軍科で使われている訓練用の魔導鎧。
本来の魔導鎧は見た目が格好良い、ロボット!と言えるようなものだけど国軍科の訓練用の魔導鎧はどちらかと言うと1話1話でやられる雑魚用ロボットでそれも旧式……。
魔導鎧には2つのタイプが存在し、新式は魔導軽軍鎧を着たまま乗り込むタイプ。
それに比べて旧式はハンドレバーとフットレバーで動かすタイプで初代ガン〇ムとGガン〇ム位の差があって身体を動かして操縦する新式から比べると、一体感がかなり違うし反応速度がその遅れに出易い為、主要な魔導鎧ではない。
さらに訓練用は操縦者が丸見えである。
車で言えば旧式のパイプフレーム車の外装板がついてないバージョン。
これだけでも実は大分差が出る。
操縦者の身の安全的な問題もあるのだけど最も差が出るのはハンドレバー操作が見えてしまう事だ。
フルパイプフレーム、とも言えるからフットレバーの操作までも見ようと思えば見えるし、それに相対するのは身体の動きを直接魔導鎧へと伝達する新式。
当然、新式の方が圧倒的に価格は高い。
何しろその動きの伝達を伝えるのは全てが魔力で魔力の伝達には灰銀と呼ばれる魔法金属、ミスリィルが使われる。
それが10メートル級ともなれば、かなりの量が必要となるし何より魔導鎧の核はミスリィルで出来ている。
心臓、とも言える部分であり魔導鎧の技術の集約部分でもある。
そして灰銀鼠族たる私の毛髪にはミスリィルが大量に含まれている。
以前、これを燃やせばという話をした気がするけどこの髪の毛からも採取出来るけど、基本は鉱山から採るもの。
それも1グラムで金貨1枚、日本円換算なら100万円はする高級魔法鉱石なので、国軍科の訓練機は旧式なのですが……。
実はヨボ爺から聞いた話では国軍科のこの訓練機を新式にするという話があるのだとか。
しかし旧式でも出来ている上、実戦配備されている機体の半分近くが旧式のままなのです。
で、どうやらこの騎士昇格試験を利用して潰して入れ替えるという話が裏ではあるのだとか。
ヨボ爺はその提案にいくつかの条件を出したらしい。
一応国軍科も国軍から予算が出ていますのでそれを最終判断するのは大元帥たるヨボ爺の許可が居るとかで……。
まず私達には1日、この旧式の魔導鎧を弄る時間が貰える事。
そして明日、試験の内容と形式は現役の魔導騎士との模擬戦。
それも新式を使い、私達と戦う事になる。
場所は広大な魔導鎧用の訓練領域全体。
そして私達受験者は個人で挑む、その為にどうやらあの特別講習、とやらを設けていたのだとか。
確かにあったね、操縦の講義。
実機には触らせてくれなかったけどさ……。
それも操縦の非常に難しい旧式で新式とやり合う。
かなり無茶な話である。
何しろ旧式と新式の違いは操縦方法だけでは無く実は装備も違う。
その最たる武器が魔導銃器の存在。
旧式は弓と矢、小石 とスリングが中・遠距離武器となるのに対して魔導銃器は魔力を爆発させそれによって鉄球を発射させる。
いわば火縄銃の魔法世界版が存在する。
それでも持てるのはごく僅かな魔導鎧で新式でも弓と矢、小石 とスリングが配備されているケースが多い。
しかし魔導銃器を扱うには旧式と新式の魔導鎧の構造が違う為、旧式では魔導銃器を持つ事は出来ても撃つ事が出来ないのである。
つまり火縄銃に対し、弓矢とスリングショットで戦うといった大きな大きな差があるのです。
それでも魔導銃器が1発づつしか発射出来ないのであればまだしも、実はシリンダーに近い機構があり連射、というには少々遅いながらも5発まで装填してから撃つ事が出来る、といった違いがある。
そしてヨボ爺がもぎ取ってきた重要な点。
国軍・国軍科はこの旧式の魔導鎧を今回の試験にかこつけて廃棄し、中のミスリィル等を再利用しようと考えている。
だから許されたのが、どんな整備をしても良い事になっている。
つまり魔改造し放題なのである。
そして目の前には旧式の魔導鎧がある。
そしてここまでの私の人生における16年の中で集めた髪の毛を実は収納袋に入れたまま保存してある。
高価なミスリィルであっても私にはタダで手に入れるだけの手段があるからこそ、この旧式の魔導鎧を1日で弄り倒して、明日新式の魔導鎧をぶち倒す……唯一の不安は実機に触れた事が無い事や操縦経験が無い事。
だけど知識自体は全てある。
国軍がどういうつもりかは知らないけど明日、私は必ず勝って騎士と言う座を勝ち取りそしてヨボ爺が言っていた合格した際に用意してくれる良い席、とやらをも勝ち取るつもりである。




