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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第三十二話改 衛兵さん の 騎士昇格試験 4日目 前編

 4日目、試験内容の毛色が変わった。


「団体戦?個人の騎士昇格試験なのに??」

「そうだ!4日目は日没まで貴様等にはこの砦を防衛してもらう!」


 上級学校国軍科の敷地内に用意されていたのは普段、国軍科が実技授業に使用している砦だった。


 日没までに衛兵組はこの砦を防衛し切りそして生徒達はこの砦を占領した時点で終了というルール。


「個人戦なのだから、攻める側では無いのですか?」


 と、いうかどんなハンディを与えるつもりなのだか。

 だってこれ国軍科の授業用の砦なのだから彼等はこの砦の構造は頭に叩き込まれていると考えるべき。

 普通、砦攻めというのは知らない場所を攻める方が圧倒的に多くこれだと生徒側は取り返す側としての立場になる為、内部構造の把握は非常に有利に働く。


 さらに衛兵に連携を求められても困る、私達はフォルティッシムス王国中から集められた86名の衛兵、というだけであってそれこそ私には顔見知りすら居ない。


 陣地防衛に連携なく行え、というのはかなりの無理があるのに対し攻めてくる生徒はそれが取れる。

 しかもさも当たり前のように生徒達は魔導マギ・ラックスエクセルキトゥス・アルミスを着て、私達は普通の衛兵装備で戦う事になる。


 衛兵の武器と言えば剣、短剣、盾、槍、弓矢が一般的。

 防具も革の鎧だし、使える者は何でも使う為、石でも岩でも。

 それこそお湯も壁を登ってくる相手にぶっかける。


 そしてルールとしてはこれだけであると共に与えられるものは私達には砦の簡易地図。

 そして武器一式等、砦に用意されているものだけ。

 正確な開始時間はは日が一番高く上がるお昼に鐘が鳴らされ終了時間は日没。


 さらに防衛側はこれから3時間、砦に入っての準備が出来る。


 さて、問題は誰が86人の衛兵達をまとめて指揮を執るか等陣地防衛に必要なものを揃えていく必要性がある。

 そしてここに追加して嫌がらせに近いルールが1つ追加された。


 負けた場合はそのままだが、勝った場合指揮官の得るポイントは3倍。

 衛兵でも街や村という陣地防衛があるからある程度経験を積んでいる人物であれば立候補してくる。


 何しろ得られるポイントが1人だけ3倍でしかもおkの指揮官を決定するのも3時間のうちに含まれる。

 当然、ポイントを3倍得たいと言うだけで立候補する者も居れば、陣地防衛に自信があって立候補する者と次々出てくる中、恐らくこれ自体が準備時間を潰させる意図だろう。


 だが甘い、不二家のケーキより考えが甘い。


「じゃんけんぽん!勝った!」

「くそっ!ここで負けるか……。」


 解決方法何て意外と簡単だ。

 指揮官となる人物をジャンケンなどで決めてしまえば良い。

 そして指揮官以外が指揮を執れば良い。


 そもそも指揮を執る人を指揮官とするか否かはこちらに選択権がある、だからこう、考えればよい。

 ポイントを3倍得る人物をさっさと1人だけ決定しあとは勝つ為の指揮を執る人物が指揮を執れば良いだけだ。


 拙速は巧緻に勝るのだからそもそも連携を取れるかすら怪しい昨日今日の衛兵集団が上手に勝とうと時間をかける位なら拙くともさっさと準備した方が良いと兵法家の孫子も言っている。


 部隊を動かすのは、戦術がよくなくても迅速であるほうがよい。

 巧妙な戦術で長い間戦い続けているのを見たことがないとも言っている。


 私の言葉ながら、それに全員が乗った形であった。

 そして実際の指揮を執るのは……私になった。


 っていうか私まだ2年目ですけど?って言ったんだけどね、それでも2年目の衛兵が、今騎士昇格試験のトップに居る私に全員が賭ける、と言ったから決まった事だ。


 そして砦の占拠条件。

 国軍科の生徒達が砦内に入ったとしてもそれは占領にならない。

 砦の四隅にある、国旗4本、中央に掲揚されている国旗1本。

 そして指揮官の首、代わりの兜を奪う事で達成となる。


 そして国旗は動かしてはならない、兜も指揮官が被らなければならず隠す事は許されないと言う条件だ。


 ちなみに「国旗を奪われないように燃やしたら駄目ですか!」って質問したらぶん殴られたのは多分、想定外の質問だったからだと思いたい。


 いやだって奪われる位なら、とも言うじゃない?ならいっその事燃やしてしまえば負けは無いという考え方も出来るのでは?と、言ったらもう1発ぶん殴られた。


 さらに「先に指揮官を殺したら兜を隠しても良いですか!」って質問したら「好きにしろ、但し本当に殺せよ?」と大分恐ろしい答えが返ってきたのは、聞かなかった事にした。


 そして日が最も高く昇った時、周囲に鐘の音が響き渡り開始となった。


 そして国軍科の生徒達が陣形を作って現れた、その数、200余名。

 3学年のほぼ全ての学生が攻めてくる事になっている中……。


「予想通りだ、数が20位少ないぞ。」

「ならそちらが本命だろうね。なら開始!」

「おう!」


 私の合図で砦内の4か所に火が付いた松明が放り込まれ刹那、爆発が4か所で発生した。


「っし!これで抜け道は使えないね!」


 そもそも渡された簡易地図に抜け道が書かれていなかった時点でそれを私は怪しみ、全員で探した結果4か所見つかった。

 そして爆発の正体は【頭陀袋】から生み出した【防災非常袋】に入っていたカセットコンロ用のボンベ、たばこ用のライター等にも使われ原油から作り出せる「ブタン」だ。


 これに引火させ抜け道全てを物理的に塞いだ事で真っ向以外からの侵入全てを防ぐ事にしたのです。

 しかもブタンは比重が空気より2倍程度重いので大体地下に作られるような砦の抜け穴を潰すにはうってつけなのです!


「お、やっこさんいきなり止まったぞ?」

「駄目だねぇ、抜け道からの強襲を主力にしようだなんて……。」

「意外と早く次の行動に動き出したな。」

「なら次の対応!各自持ち場に!」


「「「「「おう!」」」」」


 そして次に打ってくる手といえば2つ、1つは砦に存在する正門の破壊による突破。

 もう1つは梯子をかけての壁上制圧。


 本来魔導マギ・ラックスエクセルキトゥス・アルミスはフォルティス・フンディトル(投石兵)というモードがあり移動投石機代わりにすらなるのだけど、これを使うとこちらに死者が出る可能性があるので禁止となっている。


 つまり遠距離攻撃は精々フォルティス・アウクシリア(軽装歩兵・補助軍)による弓矢や小石(ラピス)スリング(フンダ)による攻撃だけを気にすれば良い事になるし一応模擬戦の類なので、鏃もついていない。


 もし当たれば自己申告による、その場に倒れ最後まで死体役を演じる大変残念な役どころが用意されている。


 砦には水濠があるけどこちらにも策を講じてある、それがダイラタンシー化である。

 中には【頭陀袋】から生み出した【セメント袋】の中身であるセメントを入れ、さらに【防災非常袋】にあったオレンジジュースを入れ混ぜ合わせてある。


 こうする事でセメントはまず当面硬化をする事なくダイラタンシー流体のまま維持される。


 一般的には片栗粉を水に溶いて、勢いよく走る等がバラエティー番組などでお馴染みだけど、これは一定の粉粒体であれば大体出来る為、砂、砂利、土、穀物、小麦粉、片栗粉は勿論セメントでも行う事が出来る。


 そしてオレンジジュースは主に糖分が重要でセメントに糖成分が含まれると流動性に変化は出ないものの凝結までの時間が異常に掛かり、場合によっては固まらなくなる。


 オレンジジュース以外でも地下水であったり日本酒やワイン焼酎やビールのようなものからスポーツ飲料や清涼飲料水の類でも大抵可能なのだけど、悪質な悪戯に繋がるので決してコンクリが流し込まれている場所を見つけてもやらないようにしていただきたいものである。

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