第三十話改 衛兵さん の 騎士昇格試験 2日目 後編
「それではこれより最終戦を行う!王立上級学校国軍科3学年Sクラス、ヘイリアス・オブ・フォルティッシムス!対するはテッラ・レグヌム第四衛兵南門部隊、カナオ二等兵!」
あーあー……こりゃかなり魔改造してるねぇ。
魔導軽軍鎧に搭載可能な魔石にだって上限ってものがあるのにそれ以上のもの詰んでるね、自分自身の魔力使わないつもりかね?
王侯貴族なんて血筋的に魔力が多い筈なのにそういう手抜きしてると痛い目合うってのに。
っていうかやけに声援も多いね?流石王族、って所かね?
目の前の魔導軽軍鎧を纏ったヘイリアスが右手の指を1本指した状態で腕を掲げた。
外野の声も聞こえるから何したいのかが丸聞こえなんだけどさ……1分で決める?
「面白い事するじゃないか、お坊ちゃん。」
「なんだ貴様、私は平民に口を開いて良いと言った覚えは無いのだが?」
「私は王族に口を開いて良いと言われてからじゃないと逐一喋れないようなつまらない人生を送っているつもりは無いのだけど?私が仕えるのは国であって、そこに住む臣民の為であって王族にひれ伏す為に衛兵してるんじゃないんだよ?ま、これからひれ伏すのはあんただけどさ!」
「はっ!それだけ生意気な口が利けるならさぞかし強いのだろうな!」
「当然!あんたなんか足元にも及ばない位ぶっちぎりの強さを見せてあげるよ!」
私とヘイリアスが向かい合い開始線で睨み合う中、鐘が鳴ると同時にヘイリアスが動いた!
「【御守袋】!」
私は同時に【御守袋】を投げた事でヘイリアスは初動そのものは早かったけど【御守袋】によって出来た見えない壁に阻まれ、足が止まった。
「【勇魚岩】!」
足元から【勇魚岩】を出し、ヘイリアスに攻撃を加える!ここの部隊は石舞台だった為、【勇魚岩】は非常に堅い状態で現れ、一気に下から上へとヘイリアスを突き上げる!
「さらに【墨袋】!!」
【墨袋】は墨が入っている烏賊の内臓、こんなものすら【頭陀袋】からいくらでも生み出せる!【墨袋】の匂いと、その黒い汚れからかヘイリアスが水属性の魔法を展開し、水で洗い流そうとでも考えたんだろうけどそうは烏賊の金玉だ!
烏賊墨の黒さの元はメラニン!メラニンは水には溶け難いし、何より墨自体が粘性が高いからちょっとやそっとじゃ落ちないよ!アルカリ性じゃないと溶けないから海の水や石鹸水とか牛乳やレモンの絞り汁でも持ってくるべきだね!
「両手に【独鈷杵】!毘沙門の名の下、左手に持ちし銀の鼠に羅刹なる鬼神を纏わす!【速疾鬼】!」
これは私が持つ七福神の力の1つ、毘沙門天様の配下である羅刹を私自身に纏わせるもので羅刹は【速疾鬼】とも呼び、その力は元々素早い私の速度をさらに加速へと至らせる!
足が鈍った防御の薄い魔導軽軍鎧なんてサンドバックも同義!
「さらに加速!【八臂】!」
そしてこの弁才天様が二臂八臂、臂が2種類の像として祭られているうち、八臂のものは戦闘神としての姿を強調したもの。
1人で数人分もの活躍をする事を【八面六臂】とも言うようにあたかも肘が八つ、つまり腕が8本あるかの如く腕による攻撃を加速化させる力!そして少し宙に浮いて身動きの取れないでいるヘイリアスの背後を取る!
「【八臂金剛拳】!!」
これまでの四倍速で【金剛拳】をヘイリアスの背中へと叩き込んでいく!
「さらに威力増加!あんたの爺さん直伝だよ!【ストーンスキン】!!」
4年前、そして1年前でもまだ私には使えなかった肌を硬化させる土属性魔法たる【ストーンスキン】を駄目元でやってみたらここぞとばかりに出た……。
「これならいかに魔法金属で覆われている魔導軽軍鎧だろうと【雷電】無しでも破壊出来る筈っ!!
私はそのままヘイリアスを背中側から馬乗りになりそのまま背中へと次々と拳を素早く叩き込んでいった。
何しろ魔導軽軍鎧というのは正面を切って、向き合い戦う事を前提としている為、ほぼ主要な機構を動かす為に必要とされている、魔力を籠めて描いた円陣、魔導陣が集約している場所だ。
そして補助魔力である魔石を搭載する場所でもある。
ここが魔導陣自体を僅かでも欠けさせれば、魔道具たる魔導軽軍鎧はその役目をまともに果たす事は出来なくなる。
「非力だからって舐めんなコンチクショー!」
そして最早一方的な試合展開となった。
背中に乗られたヘイリアスは手足を多少動かせても上から叩き込んでいる【金剛拳】、そして【八臂】による加速に【ストーンスキン】の硬さもその威力の助けになったのだろう。
パワーとスピードに偏らせている筈の魔導軽軍鎧なのに起き上がる事すら許す事は無かった……。
「なかなかくたばらないね!なら、【金剛拳】ぷらす【勇魚岩】!!」
ヘイリアスを背中から【金剛拳】、そしてお腹側から【勇魚岩】で挟み込むような挟撃に動かす事も諦めていたヘイリアスの握る手から力が抜け、手が開いていった所で私は手を止めた。
「じゃあトドメの【血袋】と【糞袋】♪」
私は死体蹴りの如く、血と臓物の上へとぶち撒け拳を上げて勝利のポーズを決めるも、審判を含め
観客席に至るまで、歓声……いや、閑静に包まれていたのでした。
「ん?もしかしてやり過ぎた?」
もしかしなくてもやり過ぎていたらしい……。




