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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第二十三話改 衛兵さん、捕まえる。

羅索けんじゃく】でマールの身体を縛り上げキリキリ歩かせてテネブリス一等兵が止めている被害者の所まで戻る。


 実はスリ行為はここからが本番なのです……。


 1つ、スラれた相手が貴族だった場合。

 1つ、スラれた相手が心の悪しき人である場合。

 1つ、その両方を兼ねている場合。


 この3つのパターンが一番厄介なのです。

 今回はその最も厄介な最後の両方を兼ねたパターンだったのです。


「捕まえてきたよ、デネブリス一等兵。」

「……………。」


 ちなみにデネブリス一等兵は男相手であれば普通に話す。

 このモゴモゴブツブツした独り言は彼が女性相手になるとこうなるだけであって、いわゆる純粋な心の持ち主とか30までこのまま生きれば魔法使いになれる方だったり40までこのまま生きれば賢者に転職出来る方だから。


 ちなみに夏に建物内で汗によって雲を作り出すような類のお方ではないです、はい。


「このガキが!」


 そして早速被害者から手が出てきた。

 見た感じ、貴族の子弟かね、まだ若い感じが見られるしそのまま私は出されてきた拳を受け止める。


「っ貴様!何をする!」

「無礼は古い法律です、御貴族様のご子息であられても暴力を振るえば私達衛兵は貴方を暴行罪で捕縛しなければなりません、ご了承ください。」


 無礼打ちだの何だのは数百年前に廃れた昔の風潮だ。

 貴族だからと何をしても良い、という風潮自体は悪習として残ってしまっているもののそれを法は許していない、既に法の下の裁きをマールに下すのが今の世界の常識である。


「くっ!?平民の癖に口答えするか!」

「軍属に貴族も平民もありません。式典などの公式な場において口調等を整える事はあっても、この場においては例え貴族子弟であろうと、衛兵は軍属である以上国に仕える者。その衛兵が職務の範囲においての対応は例え御貴族様ご本人でもそのご家族であっても従っていただくのがフォルティッシムス王国法です。私はフォルティッシムス王国テッラ・レグヌム第四衛兵南門部隊所属カナオ二等兵です、対応に問題があるのであれば詰所まで苦情として書面でご提出下さい。」


「ふっ、ふざけるな!こちらは被害者なのだぞ!」

「ですから加害者をこうして捕縛してきたのです。これからこの加害者から聞き取りをした後王都上級裁判所へと簡易送検、スリ行為の処罰が行われる事となり、それがこの加害者に対する罰となります。それを被害者であるからと勝手な事をされてはひいてはフォルティッシムス王国法、国の定めに対しての背信行為となるのですが……宜しいのですか?」


「ああ言えばこう言う!貴様等平民はこれだから困るのだ!」

「へぇ……たかだか貴族子弟如きが平民平民と言っているけど身なりから貴方は御貴族様のご家族と思しいというだけであり御貴族様ご本人では無いのですよ?それにスリ取られる瞬間を見ていましたが、貴方が財布袋を不用意な形で持ち歩いていた事が今回の事件のきっかけでもあります。スリ取った方が悪いのは当然ですが、取られない為に気を付ける位のお気遣いがいただければ我々もこうして対応に苦慮する事は無いのですがね……。」


「うっ、五月蠅い五月蠅い五月蠅い!」


 どこの駄々っ子だね……それも受け止めた拳もヒョロヒョロパンチだし……良い機会か。

 私は貴族子弟と思われる子のもう片手から出される拳をそのまま顔で受け止めた。


「デネブリス一等兵、彼を公務執行妨害の罪で捕縛。」

「……………。」


 彼は手際が良い。

 腰から手枷を外し、両腕を綺麗に掴んで枷を付けさらに縛縄をサッと取り出しそのまま腰の辺りを縛った。


「なっ、何をする!」

「公務執行妨害、と今言った筈です。軍属の公務の執行を妨害したと看做し、このスリ行為をした子供と同じく調書を取った後、王立上級裁判所へと簡易送検。私を殴った罪を償っていただきます。」


 ま、そんな事にはならない。

 大抵このケースなら不起訴になるから送検自体がされない。

 精々親を呼び出しての説教程度。

 そもそも貴族子弟が1人で出歩くな、という話で子供が可愛いと思う御貴族様なら側使の1人でもつけろというものだ。


「はい、デネブリス一等兵。詰所までどちらも連行していくよー!」

「ちょ、ちょっと待て!俺は!!」

「はいはーい、話は詰所で聞きますからねー。」


 そして詰所へ到着した時、直属の上官を補佐する第四衛兵南門部隊部隊長補佐のグラビスさんの顔が固まっていた。


 そして次の瞬間、私の頭の上に拳骨が落ちてきたのです。


「いったぁ……何するんですかヒゲヤロウ部隊長……。」

「何するんですか、じゃねぇ!あと俺はヒゲミルだ!ヒ・ゲ・ミ・ル・軍・曹・だ!」

「軍曹とかつけると下士官の最終階級だと周囲に丸解りで歳がバレ、って痛い!今の所、叩く必要性無いじゃないですか!!」

「お前のは俺を思いやって言っているのではなくただおちょくっているだけだろうが!っていうかお前誰連れてきてんだよ!!」


「誰?そりゃスリ行為を働いた孤児院の子供とその被害にあった貴族子弟様?」


「ほぅ、お前は被害者である相手を捕縛してから連れてくるのが趣味か?」

「いえいえ、引っ叩かれ……もとい拳で頬をぶん殴られたので公務執行妨害で連行した所です。」

「お前なぁ……グラビス伍長、王城に連絡しろ。」

「はっ!」


 王城……?


「お前が捕縛してきたそのお方を誰だと心得る……。」

「先の副将軍、水戸光〇公?」

「誰だよ、そいつは!」


 ヒゲミル部隊長は平民からの成り上がり組でよく相槌を入れてくれるから結構好きだ。

 あ、髭親父なんで恋愛対象にはならないよ?


「あああああ!梅干しは!梅干しだけはぁあああ!!」

「ウネボシだかなんだか知らんがお前今、絶対俺の事馬鹿にしただろう!!」

「いえいえ!素敵で子沢山なお父様でもう7人もお子様が居るのに何時まで子作りなされるつもりなのかとぁあああああああ!!」

「お前は常に一言二言余計なんだよ!だからといってこめかみをグリグリするのは反則です!」

「だからといってお前、第八王子を捕縛してきてどうするんだよ!」


 ……はい?だいはち……おうじ?さま?


「そちらの第八王子のインジュアリアス様だ!」

「……高尾山がある所?」

「タカオサンがどちら様かは知らないが王族だ!」

「王族……なら公務執行妨害での捕縛も問題ありませんね!」

「大ありだ、馬鹿野郎!」


 とりあえず私の頭の上にもう1発、拳骨が落ちてきた。

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