第十九話改 小罪なれども懺悔せざれば悪道をまぬがれず
「は、はは……はははははははははは!!これだ……最初からこうしていれば良かったんだ!俺に叶うやつなどどこにもいなかったんだ!!」
ピューターは次々とフォルティス・アウクシリアを着ている法務騎士を倒し、さらにはカデーレ伯爵の私兵である領兵達が押し寄せた所を次々と倒していった。
それも同じ重近接戦闘用のフォルティス・ヴェテッリスを着る領兵達を……。
それに対しついに領都カウウスの上空に停泊していた魔導飛空艇からは10メートル級である魔導軍鎧に領軍の魔導軍鎧が次々と出動し始める中、ピューターは領都の家の上を駆け、領都から逃げようとしていた。
既にもうピューターが投降したとしても生きていられる事は無い。
それだけ人を殺めたのだからこの場から逃げ、そして解放済のフォルティス・ヴェテッリスがあれば何とでもなる、そんな浅はかな考えだけで行動していた。
一方、領主の館では法務騎士の隊長は胸を貫かれはしたものの、一命は取り留め他の法務騎士達も死んではいなかったもののピューターを捕まえる、それも生死問わずと魔導軍鎧を出し先回りさせる指示、怪我人の治療などに追われる中、領軍も同じくピューターを捕まえるべく北門から魔導軍鎧を出しピューターが逃げていった南門へと急がせていた。
だがピューターの移動は素早く、南門の衛兵詰所に居た法務騎士をも既に倒し、あとは目の前の1人を倒せば魔導軍鎧に遮られる事なく、逃げ果せる。
そして目の前の1人には殺意を持っていた事もピューターの死へのカウントダウンを確実なものとしたのだった。
「糞女ぁ!てめぇだ!てめぇのせいで俺は軍に追われる羽目になった!」
「はぁ……上官だからと我慢していたけど、ここまで露骨に犯罪者に成り下がったなら良いか……あんた馬鹿でしょ?」
「何?」
「あんたは3つ、失敗をしている。1つ、そのフォルティス・ヴェテッリス。恐らく解放モデルだね?解放モデルの恐ろしさを知らずに使っているとは私も流石に恐れ入るよ。2つ、フォルティス・ヴェテッリスは思った以上に魔導力の維持が難しい。あんた程度の魔力量じゃ精々1時間も持たないし、補助に魔石が入っていても1日と稼働出来ないだろうから逃げた所で無駄だよ。3つ、あんたが私の前に現われた事。」
ピューターの前に立つ1人、それはカナオだった。
そしてカナオの3つの失敗を聴き、堪える事も無く深夜であるにも関わらず、大きく下卑た声で笑い始めた事で周囲も何事かと建物から顔を出す者すらチラホラ出始めた。
「失敗?俺に失敗なんざねぇ!てめぇみたいな糞女、それも今まさにその汚物のような匂いを撒き散らしているてめぇがここにさえ来なければ何も問題は無かった!俺の失敗なんざなに1つねぇんだよ!」
「あるよ、解放モデルの恐ろしさを全く知らない辺り、馬鹿としか言いようがないね。そもそも解放出来るなら全ての魔導軽鎧は解放してると思わない?」
「何?」
「そのまま使用したらその問題が発生する。だからこそ軍鎧は全て制限がかけてあるのであってそれをわざわざ解放する意味が本当に解ってないんだね……。」
「な……何があるってんだ……。」
「恐らくだけど、そいつはあの商会絡みでしょ?禁制品、それも麻薬の類を扱っていた。麻薬ってのはまぁ快楽を求めるってのもあるんだろうけどさ。何より軍用としても応用されていて緊急時の痛み止めとしてポーション化されている位なんだよ。そして解放モデルには必ずそれが搭載されている。今のあんたは痛みをただ感じていないだけで脱げばあっという間に全身の痛みが戻ってくるし魔力の補助機構は多少の筋断裂なんかを起こしても魔導軽軍鎧自体を動かす事で動けているように錯覚するんだよ……恐らく既に骨まで砕けてる可能性すらあるよ?」
「そっ……そんな馬鹿な事があるか!」
「あるよ、それにあんたしかそれを着ていない所を見るとそれを解放してもらうのに……他の衛兵用の魔導軽軍鎧を横流しでもしたんだろう?」
「貴様っ……。」
「おや、図星かな?まぁ魔導軽軍鎧ってのは基本軍以外が所有してはいけない禁制品の代表格だからね。欲しい連中はいくらでもいる、賊に謀反人に冒険者。引く手数多の魔道具の1つ。それを賄賂だ何だと小金を気にする奴が大金をまとめて管理する立場にでも居れば……ありえる話でしょ?」
「この糞女……やはり俺の勘は間違ってなかったか。やはり閉じ込めるだけじゃなく、殺しておくべきだったな……。」
「あー、そりゃ無理だね。人族ってだけで獣人を蔑んでいるのもやけに多いけどさ……基本的な能力は魔力を除けば大抵は獣人の方が上なんだよ?」
「馬鹿か!フォルティス・ヴェテッリスは魔力あってこそだ!」
「だからだよ、私は鼠の獣人の一種、灰銀鼠族だからね。魔力だけは群を抜いて多いんだよ……。」
「だがフォルティス・ヴェテッリスを着てない糞女に止められる訳がねぇだろうが!!」
ピューターの頭には魔導軍鎧に追われる事や南門の前に立ち塞がれる事も過ぎり、カナオが時間稼ぎをしていると考えこの時点でさっさとカナオを殺して逃げる、と一気に距離を詰めて右拳を振るった。
カナオはその拳を【身体強化】発動した上で本来持ち得る素早さを利用し【頭陀袋】から生み出した1枚の袋へと入れ、端を素早く縛り、ピューターの腕を完全に包み込んだ。
「【ゴミ袋】消滅処分!」
包んだ袋は【ゴミ袋】、見た目は完全な自治体用のごみ収集袋。
その実態は中に物を入れ、縛る事で【ゴミ袋】ごとその存在を消す、扱い方1つ間違えると大惨事となるものであった。
当然、包まれ、縛られた個所から【ゴミ袋】と共に魔導軍鎧ごと腕が消え去り、ピューターの叫びが深夜の静かな領都へと響き渡った。




