第十八話改 愚の骨頂
「ここに居る衛兵達、1人残らず連れて行け!」
「そ……そんな事が認められるかぁぁぁぁぁ!!」
まだ法務騎士に足蹴にされていた総隊長ピューターの猛りの声と共に腕輪が光ると法務騎士達が一斉に距離を取った。
「チッ……枷をつけさせなかったかと思えば、こ奴の腕輪も回収してなかったのか!」
「も……申し訳ありません!」
総隊長ピューターの腕に光る腕輪。
せめて魔力の放出を抑え込む枷をつけていればこのような事態を避ける事が出来たものの今、後悔した所で手遅れであり、法務騎士達も一斉に腕輪に魔力を通し始めた。
それは魔導軽軍鎧と呼ばれる魔力を動力とする小さな魔導軍鎧。
身の丈に合わせた全身鎧であり、ごく一部の衛兵と全ての騎士が標準装備とする魔道具の1つであり魔導軍鎧がロボットと呼称するなら魔導軽軍鎧はさしずめパワードスーツ、アシストスーツ、強化外骨格とでも呼ぶべき代物だ。
「しかもフォルティス・ヴェテッリスだと……。」
全ての魔導軽軍鎧と魔導軍鎧はフォルティスの名を冠しその上で魔導軽軍鎧は重近接戦闘用のフォルティス・ヴェテッリス。補助・軽近接戦闘用のフォルティス・アウクシリア。
遠距離戦闘用のフォルティス・フンディトルの3タイプに分かれる。
ピューターが装着したのは最もパワーが出るフォルティス・ヴェテッリス。
それに奇しくも法務騎士達は今回の任務に合わせ多少パワーは落ちるものの、その分機動力を生かせるフォルティス・アウクシリアを全員が用意していた。
瞬時に着られる鎧、と言えば解りやすいかもしれないが扱うにはそれなりの練度と身体能力が問われる。
それが一般的な魔導軽軍鎧の解釈……。
だがピューターのそれは違った。
本来の魔導軽軍鎧に比べ腕と足が多少肥大した形状をしていた。
「これがヴェテッリス?馬鹿を言うな!」
素早く起き上がったピューターはそのまま法務騎士へと襲い掛かると素早く顔を覆っている兜部分を掴みそのまま地面へと押さえ付けたように見えた。
だが実際はそのまま鈍い音がした事でピューターの着ている魔導軽軍鎧が普通ではない事に気が付いた。
まず動きがアウクシリアより速い。
そしてただ掴んで地面へと押さえ付けただけで兜部分を握力だけで握り潰している事……。
押さえ付けられたように見えた法務騎士の1人がそのまま動かなくなっただけでなく、兜部分に亀裂が見えそこから血が流れるのさえ見える程……。
「貴様……魔導陣を書き換え、解放させたな……。」
解放、解りやすく言えばリミッター解除。
魔導軽軍鎧自体はその人物が纏う事で防具としての意味合いが強いが力等を魔力を動力として補助する機構も存在している。
そして何より素材は騎士が着るものの方が良いものを使っている為、本来衛兵用の魔導軽軍鎧が騎士用の魔導軽軍鎧に勝る事はまずありえない。
しかし方法が無い訳ではない、魔導工学と呼ばれる魔導技術を知らなければ出来るものではなく、かつかなりの知識が必要となる。
本来ついている制限を解除し、魔導軽軍鎧が持つ限界まで力を解放させる事を解放と呼ぶ。
だが一介の衛兵にそれだけの技術があるとは思えない……。
法務騎士の隊長はそこから1つの事に気が付いた。
それにピューターも気が付かれたと、次の標的に隊長を狙った事でそれが憶測、推測の域を出ないにしてもピューターはそれをやってのけた理由に辿り着いた。
が……それを口にする間もなく、法務騎士の隊長はピューターの指を揃えた腕によって胸を貫かれてしまった。
「がはっ!?」
「おいおい、これが騎士だってか?俺の方が強いじゃねぇか……。」
「貴様!よくも隊長をっ!?」
隊長の惨状に距離を詰めてきた数人の法務騎士が今度はピューターの肥大した様な足から繰り出された回し蹴りでまとめて吹き飛ばされただけでなく、最初に蹴られた者の
魔導軽軍鎧は外装が砕け散る程だった。
「なんだなんだ、法務騎士ともあろうお方がたった一蹴りで次々と……偉そうなことを言って散々蹴り倒してくれた割にはこの程度か!」
ピューターはこの時、解放について深く知らなかった。
何故、魔導軽軍鎧には制限が掛けられ、解放によってこれだけ桁違いの力を出す事が出来るのか。
ピューター自信が身体を鍛えてた、としても魔法金属を容易に叩き割る程の力を衛兵が着る為の
魔導軽軍鎧が出せているかに気が付くだけの考えに至れれば彼はこの後もまだ、生きている事が出来た事に……。




