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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第9章 フィニス大陸編
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第百七十九話 港町マグヌム・マレ その2

 獣王レオ・パンテーラ十三世が王都を離れてわざわざ国の端っこである港町まで出てきた理由にそう難しい理由は無かった、自らの子であるフィーデス・エトール・レオが魔導鎧乗りである魔導騎士に憧れ獣王国から飛び出していった挙句、デシデリウムで奴隷となった事に大層お怒りのご様子、というかそれだけなら捨て置けば良いで済ませるつもりだったらしいのだけど少なからずその身の上を利用され【インビクタス】の動力として犠牲となった者が居る事にお怒りのご様子。


 さらにそのケジメの為に暫く身を借りる、と言い残してさっさと居なくなった辺り本当にそれだけにやってきたの?と思わなくもないのだけどとりあえず「魔導具をむやみやたらに我が国内で利用しないのであれば好きにすれば良い」と事実上の駐屯許可をいただいた為、フィーデス以下5人の獣人達を獣王が連れていく事を私も許可した。


 その辺りはどうやらヨボ爺と前もって話し合いがされているようでフィーデス達は一応第一〇一騎士隊に正式に配属されている事になる上、獣王もケジメさえつけさえたら「死ぬまで死ぬほど働かせてやってくれ」とのご意向だそうで、一時的に連れ去られただけだったりする。


 但し基本獣王国は魔導具が殆ど存在しない国である事から当然移動にも魔導具の利用は出来ないし【ナーウィス・ロンガ・ビス】からは必要なものは全て運び出した後に【収納袋】へと収納した為、ここからは本来であれば駅馬車的なもので移動するか徒歩での移動。


 第一〇一騎士隊は既に連隊規模まで人数が膨れ上がっていて300余人も居るのだから駅馬車だと数が間違いなく足りないし【ナーウィス・ロンガ・ビス】に馬を乗せてきた訳でも無い。


 そして動力として魔力を使わない乗り物での移動か徒歩と言われれば私的に前もって用意していた「あれ」の出番、の予定だったものの何気に失念していた事もあり、街の外にある空き地をお借りして一時拠点を作った後、まずは乗る練習から始める事としたのです。


「なっ……なんだこれは……車輪が2つしかないではないか!」

ボーン・シェイカー(骨ゆすり)だよ。」


 自転車の起源はまだペダルすら存在しないドライジーネから始まったとされる中で「ローバー安全自転車」と呼ばれる前後輪が同じ大きさで後輪チェーン駆動と現在の自転車に限りなく近くなったものを私は以前から作ってはいたのです。


 そして「ボーン・シェイカー(骨ゆすり)」と呼ばれる理由は車輪が木製か空気が入らないゴム製のものを揶揄した言い方で乗り心地が最悪で、骨がゆすられる感覚だからだとか。


 そこに木製車輪の外側に魔物の皮を幾重にも張り重ねただけでなくチェーンは使わずベルト駆動を採用し、それも魔物の皮で作り車体の軽量化と強度を考えた結果……出来たのが私が「ボーン・シェイカー」と呼んでいる現代のロードバイクのシングルギアに限りなく近づけた総木製自転車である。


 シングルピストでは無いのでペダルを漕がなくても下りなら進むしバックする事も出来ないのはブレーキまで総木製のカンチブレーキなので安全を考慮した結果でもある。


 しかし皆、子供の頃を思い出してほしい。

 自転車は自分でバランスを取る必要もあれば「乗れ」と言われていきなり乗れる子供なんて少なければ当然大人になるまで乗った事も無い人ともなればそれに限りなく近いものである……。


「こうやって漕いで……いや、ペダルを回して乗るのだよ!」


 弱虫なペダルを基本とするのはどちらかと言えば硬い木を選んだものの体重をかけて漕ぐとバキリと折れる程に体重のある隊員も居る為だ。


「と、言う訳で全員にこのボーン・シェイカーに乗れるようになってもらいます!これなら動力に魔力を使わないので獣王国でも乗れるからね♪」


 しかし意外とグダグダだった、比較的すんなり乗れたのは1割程度で残りはまぁ見事なまでに横倒しになったりと酷いもので当然ヘルメットもパッドも無い訳で皆怪我をしながら覚えてもらっていく。


「はい!怪我をした方は私が治しますよー!」


 と、言っても大半が私の治療は激痛が伴う事を知っている為、なんとしても怪我をしないように、と心掛けてしまい中々上達していかないという難点もあり仕方なく第三大隊から回復魔法が使えるフォルクスハーレムの数人が治療に回る事で徐々に上達し、1週間程で全員が何とか乗れるようになった。


 まぁ数人は全く駄目だった為、最終手段として補助輪を付けて強引に乗せたんだけどね……。


「と、言う事で移動開始!」


 まぁ300余人が一度に木製自転車に乗って移動するというのは中々圧巻というか、どこのレースの集団のような気分になる。

 但しこの木製自転車の集団、すぐに駄目になったのです……。


「普通に森の中の道とかで火属性魔法って禁忌と言われる位に使わないよね?」


 一部の隊員が草むらから出てきたゴブリンに火属性魔法を投げつけると大凡は当たったものの一部が密集している集団に当たり木製自転車が燃え上がるといった事態が発生、それでもくじけず予備を出して進み直すも今度は風属性魔法を使った事でやはり一部が密集している集団に当たり木製自転車が真っ二つ、ここまで行くと最早コントだ。


 木製自転車だけが真っ二つで済んだものの、一歩間違えれば隊員も真っ二つだし人だって火がつけば火傷を負うし最悪死に至る、結局1週間もかけて練習した筈なのに、最も安全に行軍する方法としては徒歩がベストなのだとあたらめて思い直し駐屯予定地となっている場所まで徒歩で進む事となった……まぁこの木製自転車を作った理由も今回の任務に関係しているのですけどね。


 そして駐屯予定地では改めて【ナーウィス・ロンガ・ビス】を出して空中停泊させてそこを起点としイニティウム王国への潜入予定を組みたいのだけど、ここで1つ問題が発生していた。


 現在まだアシュリンさんが獣王国にすら戻ってきていないのですがどうやらフォルティッシムス王国で揉めていて離れられないとの連絡があった、その理由が【ネブラ・マクラ(銀河)】で機構上は空も飛べれば海上すら走行可能な魔導列車に分類されるのだけど……そこに空軍海軍のみならず陸軍の一部が目をつけたらしい。


 軍内改革が進んでいる、といっても有用な兵器の取り合いは昔からあるもので【ナーウィス・ロンガ・ビス】が第一〇一騎士隊の配備魔導鎧であるならば【ネブラ・マクラ】は他の騎士隊の配備であってもそれこそ空を管轄する空軍、海を管轄する海軍の配備であってもおかしくないであろう、というのが言い分らしいのだけどそもそもあれを奪い合いたいという神経が解らない。


 確かに各所に魔導銃口や魔導砲口まで配備されたものではあるものの実際【ナーウィス・ロンガ・ビス】程優れていないのは実は使った材料自体はそう良いものではないのは予算の関係とそもそも魔導鎧の補助機でしかないからだ。


 それを単独使用したい、と言い出しているのだけど正直お勧めは出来ない。

 理由?魔導戦艦と比べて操縦が【ナーウィス・ロンガ・ビス】寄りで一人で操縦しなければならない事であったり【ナーウィス・ロンガ・ビス】と違い、真下に対しての攻撃力が全くなく車輪の存在する周りは屈服した犬の如くの腹見せ状態で攻撃されれば真っ二つに折られかねないなんて欠点もあれば何より可変機構がある分さらに耐久性が悪い。


 そんなものを何故作った?と言われればただの私の浪漫を満たす為であり【ナーウィス・ロンガ・ビス】が動かせない時の人の移動用であったりと用途的には合体パーツ、というよりかは輸送目的に近く戦闘耐久性は思った程高くはないし、何より乗るのに魔力量が相当高い基準で求められるのだけどね……それと問題は軍ではなく文官側からも【ネブラ・マクラ】を欲しいと言われているのだそうだ。


 こちらは平和的な利用方法でどちらかというと旅客用魔導飛空艇を魔導列車で行えればレール等を敷いたり、維持の観点からかなりコストダウン出来る為、一般利用を含めた方向での申し出でこちらは私的には「まぁ、ありっちゃありだよね」とそう否定的ではないものの、相当な改良をしなければならない手間を考えると面倒……になっただけでなく、一応は第一〇一騎士隊付の魔導列車という事になる為にヨボ爺に判断を丸投げし、アシュリンさんには魔導鎧で戻ってきてもらった。


 これで【ネブラ・マクラ】とはもう会う事は無いだろう、さらば【ネブラ・マクラ】!と思ったものの思わぬ所で出会う事となるのだけど……それはまだまだ先の話である。



 アシュリンさんとの合流を果たした後、私達は【ナーウィス・ロンガ・ビス】に騎士隊の殆どを遺した形で停泊駐屯を維持させた後、少人数づつに分かれ各自に与えられた任務の達成に努めていくのであった。

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