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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第9章 フィニス大陸編
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第百七十八話 港町マグヌム・マレ その1

 レオ・パンテーラ獣王国、獣王が収める獣人の国で様々な獣人が暮らす国。


 私も獣人であるのだけど正直フォルティッシムス王国に慣れてしまっている上に元々地球で暮らしていたのだからその不便さが目立つ。


 一応街などはどちらかと言えばまだマシな方だけど国土の大半が鬱蒼と茂った森か畑と自然そのものに近く、街中ですら木々が生い茂る自然との同居状態であり恐らく最も苦労しているのはフォルクス少佐だろう。


 何しろ【ナーウィス・ロンガ・ビス】が着陸するだけの広さの場所は無く事実上は空中で停泊するしかないのだけどこれが魔導飛空艇であれば操縦自体はせずとも空中停泊する事が容易なのだけどこれはあくまで魔導鎧、空中停泊であろうと操縦は無くてはならず、フォルクス少佐はずっと操縦席に張り付いたままでなければならないからだ。

兵装庫の一部だけを地面まで下ろす機構はあるから空中停泊でも悪くは無いものの彼には寝る暇すら与えられないというのが実情なのだから……。


「だから空中停泊時位は自動操縦の類をだな!」

「それは駄目、あくまで魔導鎧だからさ……。」


 この設定は未だに残ったままでこの面倒臭さがあるからこそ空軍は【ナーウィス・ロンガ・ビス】が魔導飛空艇である、と主張する事を諦めている部分がある為に決して魔導飛空艇・魔導戦艦に寄せていくのは私的には禁忌としているのだけど流石に着陸する場所がないままというのはいずれ睡魔に襲われ【ナーウィス・ロンガ・ビス】が墜落する事となってしまう。


 ここまでの海上?一応魔導戦艦型なので海の上には浮かべるので問題は無かったし陸上でもキチンと着陸する場所さえあればしっかりと降りる事が出来る構造にはなっているのです。


 ただこうなると墜落の懸念がある為、それを避けるべく用意したのが【インファンディ(漏斗)ビュラム】機関の応用、【インファンディビュラム】機関は私の魔導鎧である【フォルティス・アストルム】の装備である セプテントリオーネス(北斗七星)シーカ(短剣)ゲミニー(ふたご座)グラディウス()に採用しているもので離れた位置から魔力線を繋ぎ、一時的に魔力線が途切れても魔石によって座標把握をした後に繋ぎ直して魔力供給をし続ける事で某ロボット作品の【ファンネル(漏斗)】のようにシーカ(短剣)グラディウス()を動かすもので、それを利用してフォルクス少佐の魔導軽鎧が収容されている腕輪から常に【ナーウィス・ロンガ・ビス】へと魔力供給するようにして空中停泊の維持の為の「一応」微細な魔力を供給し続けて維持するようにしてあるのです。


「これだと寝られないでは無いか!」

「そう思って魔力供給だけは複数で出来るようにしてあるよ?」


 当然その魔力供給がたった1人だとフォルクス少佐が寝れば供給が途絶える可能性がある。

 そこで第三大隊の全員の魔導軽鎧が展開される前の収容用腕輪自体を魔力供給元となるように改良し、誰かが起きていれば良いという形にした事でフォルクス少佐は停泊時だけは自由になれる仕組みになっていると説明するとフォルクス少佐はダッシュで「天使(アンゲルス)風呂(バルネウム)ぅぅぅ!」と叫びながら走り去っていった。


「何故真っ先に行く場所がお風呂……。」

「海を渡る間、寝る時ですらずっと操縦席にいましたからね。」

「ああ……。」


 【ナーウィス・ロンガ・ビス】の操縦席はトイレも兼ねているけどお風呂は兼ねていない。

 しかも操縦している間は周囲からは見えないし匂いの対策もしてはいるものの下半身モロ出しな彼にとって真っ先に行くべき場所がお風呂だった……つまり。


「やっぱり痒いのかね?」

「らしいですよ?手が届かないって言ってましたから……。」

「かといって痒いと掻いた所でそんな手で操縦桿であるハンドレバーを握られても、と思うけどね。」

「そう思ったらどうにか出来る機構に改良してあげたらどうです?」

「まぁ、それなら考慮するかね。いずれね……。」


 今そんな改良を施す余裕は無い為いずれの改良を第三大隊の女性群に約束、そして到着したこの獣王国の端である港町マグヌム・マレ(偉大な海)に既にやってきている獣王国軍への挨拶をしたり等ここでの予定は詰まっているし獣王国を出ていけばそんな余裕は無くなるのだから後回しだ。


 ただこれは何だろうね……兵装庫からウィンチ式クレーンで繋がっている床に乗って地面へと降りていく際には獣王国軍と思しき人達が全員片膝をついて顔を伏せているのは一緒に居るフィーデス達、5人の獣人を見る限り全員が私と顔を合わせないようにしている辺りからしてこいつらに対してだろう、と私の勘が伝えてきている。


 但し予想と違う点もあった。


 フィーデスが「うむ、皆の者ご苦労である」と言った訳では無いけどそんな雰囲気を醸し出しながら完全に降りた床から地面へと足を出した途端1人の獣人に思いっきり殴られ吹き飛んだ事かな……リートレ達4人もそれを見て「ああ……。」といった顔付なのと、その殴った獣人がライオンの獣人な辺りからして大体を察した。


「余の顔に泥を塗りたくった挙句、この地に足を踏み入れるとはどういう了見だ?フィーデス」


 見た目は流石に見えないけど「余」なんて一人称を使うなんてそう居るものじゃないし?まぁ十中八九、このレオ・パンテーラ獣王国の獣王であるレオ・パンテーラ十三世だろうね。


 そしてフィーデスもその子、つまり王子様かね?

 ある程度の情報は前もって聞いていたけど獣王の正式な名前はムスクルス(筋肉)、私には正直キラキラネームにすら思える上にそれに違わぬ筋肉ゴリゴリのマッチョさ加減からまぁこの人が獣王様とやらだろうと察する……っていうか王様がこんな所まで来ちゃう?ここ獣王国の端っこですよ??


「セネクスの老いぼれにセネガルから話は聞いていたが何やら賑やかな連中が来たものだ。盲亀浮木(もうきふぼく)とはこの事か、それともただの王侯貴族の集まりでフォルティッシムスの第一〇一騎士隊とはプロパガンダ(プロパーガーレ)部隊か?」


情報戦・心理戦(プロパガンダ)部隊ってのは否定しないけどさ……居た感じこの国の王様っぽいけど小五月蠅い小姑みたいなおっさんだし、国の端っこまでそれをわざわざ足を運んできたとは御足労、この上ないね。」


「何、既に絶滅したとされる灰銀鼠が総隊長を務める人族国の部隊が我が国の民を助けたのだと聞かされれば足を運んだ所で多少の価値位はあるかと思ってな……だが少々当てが外れたようだ。期待して来てみたが灰銀だろうと鼠は鼠、所詮は矮小な獣人でしか無いようだ。」


「面白い事を言うおっさんだね……その考え方が合っているのであれば獣王国の王様とやらは常にギラッファ(キリン)族が務めているべきなんじゃない?最も背丈が大きいんだからさ。それともその無駄についている筋肉(ムスクルス)はお飾りか何かかな?」


 こちらは獣王国で獣人同士による慣例に近い挨拶儀式でただ罵り合っている訳では無い。

 何しろ脳筋、もとい筋肉こそが全て的な種としての根幹にある弱肉強食という本能から来るもので、大抵ぶん殴り合わなければお互い知り合えない、といった私からすればやっぱり脳筋としか思えない伝統的なやりとり、と前もって聞いているからこそとりあえず罵る様に煽る。


 当然、始まるのは碌でも無い事で多くはそのまま相手の強さを見る手合わせに発展する。

 ただその挨拶的なものの相手が獣王というのは少々予想外ながらも売られた喧嘩をそのままにするのは「この世界的」にしてみれば失礼な事であり自らを「矮小な存在」だと認める事でもある。


「筋肉を無駄というか……ならばその削ぎ落しきった矮小さがそれに勝るとでも言うか?」

「いや、そこまでは言わないけどさ……重そうだよね、その肉鎧。」

「なら……試すか?」

「っていうか試さないと入国を認めないとかでしょ?獣人の国の礼儀とやらは中々面倒臭いらしいからね……。」

「ほぅ……余にそれだけの権限があると察していながらも、そうと口を開くか?」


 途端に目の前のライオンの獣人から一気に圧が噴き出し、それが周囲に熱風のように吹き荒れると共に、一部の隊員達や獣人達が次々と崩れるように倒れ始めた。


 圧、オーラや気なんて言い方もするけどようは魔法の世界における威圧感が一気に噴き出され、それにあてられた人達の中でも耐えられなかった人は一気に気を失うといった、こちらは獣人に限らず脳筋的な方々がよく行う通過儀礼、それも笑えないのはどんどんと圧を上げてきている事で、続々と隊長格を除く隊員達が倒れていく……訂正、フィーゼス少尉が真っ先に倒れてたわ……マジで中隊長はちょっと考え直さないと駄目かも?


「で、少々急ぎ目だからやるならやるでさっさと終わらせたいんだけど?」

「余の圧にここまで耐えるか。」

「耐える?冗談を……生暖かい風を感じてむさっ苦しいだけで耐えるも何も無いね。」


 そんな訳が無い、私の危険察知能力がゲージを振り切ろうかと言う位には危険レベルにまで達していて正直勘弁願いたいと思っている位だけどここに芋を引いたら「帰れ」とか言われそうだからね。


 折角アビス武器商会の繋がりという情報から王剣隊(暗部)が乗り出してあの男に繋がると思われる可能性を秘めたニャンコさんの失踪の足取りを追いに来てるんだ……ここで退いたら女が廃るってもんだよ!?


 それに多分戦闘にまでは発展しないと思う、何しろ獣人側にもかなりの被害が出始めて続々と倒れているからね。


「獣王様、その辺りで収めていただかないとマグヌム・マレの港町の住民達が耐えられませぬ故……。」


 流石に獣王国の住民達が耐えられない、とあっては圧を放出するのも諦めるしかなかったのか一気に圧を感じられなくなり、この場はとりあえず収まりはした。


「まぁ良い……余が獣王レオ・パンテーラ十三世だ。ようこそ獣王国へ。」


 ようこそ、と険しかった顔が緩んだ辺りでまずは入国が認められたのだろうがその余波等はかなりのもので後に港町の半分位に被害があったと聞くと獣王様はかなり怒られていた辺り、うっかりものにも見えたのだった……。

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