第百七十四話 パクス・マレ ―海の覇権― その4
『各中隊付第一小隊長は各中隊長の位置に入れ!』
『『『『サーイエッサー!』』』』
『第一中隊は10時、第二中隊は2時から回り込み【クラーケン】へとけん制!第三中隊は8時、第四中隊は4時から海軍の救助を最優先!6時からは俺が全ての攻撃を集める!陣形は各中隊に任せる!』
『『『『サーイエッサー!』』』』
『ちょっと待て、俺等は……。』
『あー、フラムモー、フィーゼス、ジョンソナ、ヘルマッサの4人はそのまま四人一組を維持、空から黙ってみてろ!連携の取れない貴様等が中に入ってくるだけでも邪魔だ!第一大隊魔導通信帯、切り換え!7・4・1・3!』
『『『『サーイエッサー!』』』』
ハイネル中佐は4人が邪魔だと思ったのか、大隊で使用する魔導通信のチャンネルを一斉に切り替えさせて4人を魔導通信内から排除した……まぁ【ナーウィス・ロンガ・ビス】や私、アシュリンさんにドルー准将は旗艦と総隊長、総隊長補佐なので全部のチャンネルを開いているから一応はどちらも聞こえるんだけど……フィーゼス少尉があまりに五月蠅いのでそれまでの第一大隊のチャンネルをソッと閉じた。
『フォルクス少佐、一応フィーゼス達の通信録音。』
『イェスマム……………こいつら五月蠅ぇ……。』
一応魔導通信の妨害等も行える【ナーウィス・ロンガ・ビス】は広域の魔導通信全てを受信している為に多分館内は相当五月蠅いだろうけどさ……それはお仕事って事で。
第一大隊はほぼ4方向に中隊単位で散り、初撃を取ったのは第一第二中隊。
構成されている魔導鎧は【ホプロマクスDB】が半分で第一第二中隊を構成していてもう半分がハイネル中佐も乗っていた【フォルティス・カストディアン】の【DB】モデルで第三第四中隊を構成している。
【ホプロマクスDB】には二式魔導銃が標準搭載されているので
それに【スクートゥム】を構えての触手への集中攻撃、特に海軍へと伸びる触手を1つ1つ、的確に潰していくというよりか、しっかりと当ててその穂先を自らに変える事を最優先としていた。
そこに少しタイミングをずらして突っ込んだのが第三第四中隊、【カストディアンDB】は二式魔導銃が標準搭載されていない為、装備するのは【ウォラーレ・グラディウス】と【マグナ・スクートゥム】で突入と同時に海軍へと迫る触手へと
往なす形で切りつけ、弾いていく。
触手そのものも中々強度が強い為、ただ往なすと即反撃されるところを標準装備の【フラッゲルム(鞭)】へと持ち替え、毒針を受けないように絡ませ引っ張ったりして上手く往なしている。
そして本命は当然ハイネル中佐の新魔導鎧である巨大魔導鎧【フォルティス・カストルムPDB】だ、 射出機を2列使わないと射出出来ないその身の丈は身長・幅共に標準的な魔導鎧の2倍程度あるだけでなく【砦】と名付けた事も伊達ではなく、第一〇一騎士隊の魔導鎧の中で最も装甲が厚いだけでなくその製作費もダントツのトップである。
見た目は少々デブった感じに見えるけど実際は機動力もそれなりにあるけど最大の特徴はやはり装甲の厚さ、耐久力だ。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
【クラーケン】の触手攻撃を受けても一切のダメージを受けないまま体当たりに近い形で本体へと迫っていくその手には【カロル・ウォラーレ・グラディウス】とカロル・マグナ・スクートゥムが握られているのは元々乗っていた【カストディアンPDB】から移装したもので、その攻撃は【クラーケン】の触手を切り裂くだけでなく本体にもしっかりと刺さった。
イソギンチャクの身体は大半が水分だ、遺物級魔導鎧であった【フォルティス・サラマンドラ】の一部を使って作り上げた【カロル・ウォラーレ・グラディウス】から発せられる熱でその水分を飛ばし、体表を変化させた事が要因だろう。
特に火属性魔法等と違って鉱物そのものが熱を発している分だけあって水の中だろうと熱が多少は下がる事はあっても失われる事は無いからだ。
ハイネル中佐の乗る【カストルムPDB】が最も厄介だと【クラーケン】も認識したのだろう、数多の触手が一気に【カストルムPDB】に向かって刺そうとしたり、巻き付いて破断させようとするもビクともする事は無くその隙に第三第四中隊は一気に海軍を救助しての離脱をし第一第二中隊は攻撃を継続し、次々と他の【クラーケン】をハイネル中佐に集中するように集める程に良い手際を見せてくれた。
そして第一第二中隊は手を変えてきた、手に持つ【ウォラーレ・グラディウス】をもう一本の剣である【エレメントゥム・ウォラーレ・グラディウス】へと持ち替えた、こちらは【カロル・ウォラーレ・グラディウス】のようなものではなく、あくまで属性を纏える魔法鉱石製のグラディウスで火・水・風・土属性へと変質出来るもので第一〇一騎士隊の新装備である。
当然、四大属性の関係性から土属性へと変えて攻撃するも扱えているのはほぼ半数、という所かな……まぁ微々たる魔力しか操縦者から吸い取らないといっても個人差がつけてあるからその微々たる魔力が一定水準に達しなければ【エレメントゥム・ウォラーレ・グラディウス】は扱えない、という欠点がある為にまだフォルティッシムス王国軍としての正式採用には至っていない代物だからね。
それにしても魔導無線の内容を聞いていても「あの4人」とは別次元だ、最も古い隊員でもまだ上級学校国軍科を出て1年少々だというのに実戦的な連携がしっかり取れている。
相手が魔物だから簡潔な軍用暗号を用いた内容でハイネル中佐は【クラーケン】と真っ向から対峙しつつも中隊規模で指揮を執り、中隊長を代理している小隊長、特に第一中隊を指揮しているのは第六王子のヘイリアス・オブ・フォルティッシムス曹長なのだけど……まぁしっかりやれているようで安心したし、最も最初にあった頃の尖った感じが見受けられないだけでなく急遽、中隊長となった割にはその役割をしっかり果たしつつ、他の隊員より一歩下がった位置で隊全体を見渡して指示・修正を熟している……これは中隊長の入れ替えもありなのかな?これで単独としての実力がつけば第一〇一騎士隊なら上がれるのだろうけど、まだ小隊長って事はそれが多分足りてないのかな……?
『に、しても【クラーケン】の数多いなぁ。無性生殖するっていっても……。』
イソギンチャクは好む環境に定着するからこそ思った程には移動をしない、少なくともこの【クラーケン】、身の丈だけで言えば【カストルムPDB】の二倍近くあるから大凡40メートルクラスだろうけど、そもそも身体全体が海の上に出てきている事自体がかなり不思議だ。
気になって潜ってみると【クラーケン】の下に【クラーケン】……。
『これ【クラーケン】が縦に数珠繋ぎになっているだけですやん!!』
海の上だけでも10匹以上見えてるなぁ、と思ったけどどうやら海の底まで縦に重なって繋がり支えているだけだった。
大体大陸棚の深さは深くても200メートル程度なので、恐らく各6匹?海上に見えているのが10匹だから合計60匹、6000本以上の触手??
『うーむ……第一大隊に任せてみたものの60匹居るとなるとねぇ……。』
それでも海軍の救助が全て終わるまでは順調な第一大隊に任せ、それが終わったら……やはり私は浪漫を追いかけたいと思うのですよ?
『フォルクス少佐、ヤマさん。【ネブラ・マクラ】射出準備、第一大隊は海軍の救助終了と共に順次離脱。【クラーケン】の総数が60以上居るみたいだから一気に私がカタをつけるよ!』
『嬢ちゃん、本気で「あれ」出すのか?』
『総隊長……あんなもの使って目ぇつけられるんじゃないのか?』
『……ところでカナオちゃん?さっきも言ってた【ネブラ・マクラ】って何かしら?また何か新しいもの作ったんじゃないでしょうね?』
『以上―――。』
アシュリンさんに怒られる前にとりあえず私は浪漫を満喫する!そう……一応は二番煎じになるのだけど頑張って用意したのですよ?ワンコさんの【フォルティスV】に負けない合体ロボ!もとい合体魔導鎧を!!
『カナオちゃん……魔導無線切ったわね?ヤマさん、【ネブラ・マクラ】って何かしら?』
『ん?ああ……嬢ちゃん曰く【魔導列車】らしい、それ以上は知らん。』
『何でヤマさんが知らないの?作ったんでしょ??』
『ん?ああ……図面を渡されて作りはしたが……ありゃ【魔導列車】としか言いようがねぇ。』
『何で海なのに【魔導列車】を……。』
このカナオという一応少女、そして魔力を動力とする【魔導列車】と目される【ネブラ・マクラ】が後々大きな問題となる事をこの時、カナオは予測していなかったものの……。
『言って良いものかどうか……。』
『ヤマさん、一体何を隠しているのかしら?』
『いや、見た目はどうみても【魔導列車】なんだがよ……空飛べるんだよな。』
『それもう【魔導列車】じゃ無くない?絶対空軍とかから目つけられるわよ?』
『そう言ったんだけどな、一応魔導列車の規格だから大丈夫だと嬢ちゃんがな……。』
一体どれだけ隊の予算を注ぎ込んだのか、とかそれだと絶対空軍に目をつけられる等々……アシュリンは頭を抱えるしかなかった。
『あと形が何故か変わるんだよな……。』
『カナオちゃん、貴方一体何してるのよ……。』
【ネブラ・マクラ】とやらが絶対に「碌でも無い理由」で造られたに違いないとさらにアシュリンは頭を抱えるのだった。




