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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第9章 フィニス大陸編
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第百七十三話 パクス・マレ ―海の覇権― その3

 海の巨大魔物でイカやタコの姿をしたものが有名な中、カナオ達第一〇一騎士隊とフォルティッシムス王国海軍の目の前に現れたのはイソギンチャク(アクティニアリア)型の【クラーケン】だった。


 それもカナオの言う通り、ここはその巣窟とも言える場所であり【ナーウィス・ロンガ・ビス】だけで来ていたのであれば高度を上げるだけで触手が届かなくなり、戦う必要性すらなかった筈であった。


『さて、第一大隊。4人の中隊長が突っ込んでいっている訳だけど……。』

『解ってるさ、総隊長殿。俺等の仕事は海軍の救助だろ?』


 この戦闘を避ける事が出来ない最大の理由は海軍を伴っているからであり、その惨劇は始まっていた。


 海軍は魔導船なる魔力を動力とした金属船を多く保有するものの、一応は魔導軽鎧や魔導鎧も利用する……しかしで利用方法はあくまで魔導船上においての移動砲台的なものであり主体は魔導船、それも軍用に作られた重量級の魔導戦艦。


 これがまだたった1匹の【クラーケン】であれば酷い話ではあるが1隻を犠牲にして逃げる事だって出来る、しかし出てきたのは1匹どころか無数の大きさの違う【クラーケン】達であった。


 1匹だけだと思っていた所を海から次々と伸びてきた事で触手に甲板上の海軍兵は魔導軽鎧や魔導鎧で触手の対応に追われ始め、ついに艦の1隻が真ん中から2つに折られた事で【クラーケン】との戦闘と海軍兵の救助のどちらにも人を割き始め触手への対応が出来なくなり始めた事で瓦解……していた事だろう。


  『うぉおおおおおおお!一体いくつ触手がありやがるんだ!?』

  『フィーゼス!黙って避ける事に専念しろ!ここまでか細い魔導鎧じゃ捕まる所か1つ食らっただけで終わるぞ!?』

  『解ってますよフラムモー中尉!!』


『なーにが逃げる事に専念だって?【フォルティス・オス()】に乗ってるんだから逃げるんじゃなくて戦いなさいよ。その程度で壊れる程、軟な魔導鎧を(カナオ)は作った覚えは無いのだけど?』


 フラムモー、フィーゼス、ジョンソナ、ヘルマッサの4人はとにかく逃げる事に専念していた。

 但しただ逃げるのではなく、海軍が居る中に飛び込んだ上で自らを囮として【クラーケン】の触手攻撃を引きつけている、と全く役に立っていない訳では無く、それによって多少は海軍への攻撃を逸らすといった事位の役には立っている。


 それこそ長い間軍属であり魔導騎士としていやっているのだから出来て当然、そんなものを私は期待しているのではないのです……。


  『ふざっけんな糞ガキが!こんな簡単に折れ曲がりそうな魔導鎧だぞ!?確かに軽くて【浮揚機構・ビス】とやらのお陰で海の上でも素早く動けるからこうして避ける位の事ぁ朝飯前だ!だがこの装備は何なんだ!』


『何って装備も厳選してあるから少ないんだよ、二式魔導銃剣マギ・クスピス・バイオンネンシススクートゥム・ミノル(小盾)の2つがあれば十分でしょ??』


 【フォルティス・オス】に積まれている装備は二式魔導銃の先に銃剣をつけたものと軽量小型の盾だけなのは軽量な機体を活かす為のものであり、これ以上の装備を搭載するのは不要であると共にその重量が機動力の邪魔になると判断したからでもある。


  『てめぇ【クラーケン】相手に()式魔導銃に銃剣なんざ役に立つ訳ねぇだろうが!』


『ふぅん……【フォルティス・オス(それ)】に乗っていてすら文句が出るようじゃ他の魔導鎧に乗った所で現状で変わる事なんて何一つ無いさ。それをやりもしないでグダグダと文句を垂れてばかりとか、あんた等それでもフォルティッシムス王国の軍属?今すぐ退役届を出す事をお勧めするよ??』


  『んだとぉ!?』


『そもそも第一〇一騎士隊の全ての魔導鎧には取扱説明書(マニュアル)ってもんが必ずつけてあるんだ、それを碌に読まずにどうせ乗ってるんでしょ?なら何故【フォルティス・オス】は骨格に近い位に細くて軽いのか位その無い頭で推測する位しないのかね?ああ……無いから出来ないか……。』


 決して【フォルティス・オス】はタダの骨格同然の魔導鎧なんかでは無い、彼等は【フォルティス・オス】の使い方そのものを間違えているだけなのだ。


  『この……総隊長だか何だか知らねぇがよ!こんな魔導鎧で避ける以外にどんな使い道があるってんだよ!』

『それを考えろ、って言ってんだよ!あんた等は試験の答えが解らないと空欄のまま提出するつもりでいるの?解らなきゃ解らないなりに空欄を埋める位はしたって減点になる訳じゃ無いんだ。どっちにしたって0は0なんだよ、なら0を1にする努力の1つや2つ、ここで見せておくもんじゃないのかって言ってんだよ!』


 むしろ答えはもう目の前にあると言うのにそれに気が付いていないのは彼等の目が腐っているのか、それとも考える事自体を諦めているのか……。


 そこが見えなければ彼等に次の機会を与える事は無い。


『これが私があんた達に与える最後の機会チャンス、それが活かせないというならさっさと後退して【ナーウィス・ロンガ・ビス】に閉じこもって頭抱えて震えてなさい!それが嫌なら100点満点のうち30点くらいは取る位の気概を見せなさい!第一〇一騎士隊(ここ)は実力主義!やるかやらないかはっきりしなさい!!』


  『ぐぬぬぅ……言わせておけばこの糞ガキ!!』

  『止めろ、フィーゼス。これが最後の機会っつーんならやるしかねぇだろ?』

  『しっ、しかしフラムモー中尉……。』

  『しかしもへったくりもねぇ、やる以外の道が俺等にある訳ねぇだろうが!ビビってんじゃねぇぞ!』

  『ぐっ……解りやしたよ、フラムモー中尉。こうなりゃ自棄(やけ)だ!やったろうじゃねぇか!やるぞ、ジョンソナ!ヘルマッサ!』

  『ビビってんのはお前だけだよ、フィーゼス。』

  『そうだな、お前だけだ。』

  『何だと!?』


  『答えなんざとっくに解ってんじゃねぇか。』

  『ああ、こいつは魔導鎧の中でも特に軽量だ、だが【浮揚機構・(ビス)】という高く跳び上がる程の浮揚機構を備えてるんだ。それもあの糞重たそうなハイネル大隊長の【フォルティス・カストルム()PDB】ですら跳び上がれる程の出力があるんだぜ?』

  『ジョンソナ、ヘルマッサ。てめぇら何が言いてぇんだよ……。』


  『何ってなぁ……ヘルマッサ。』

  『そうだな、ジョンソナ。』

  『何てめぇら2人だけで解った様な事言ってやがるっつってんだよ!解ったなら俺にも解るように言えっつぅんだよ!』


  『おい、ヘルマッサ。フィーゼスってここまで馬鹿だったか?』

  『そうだな、酒癖と女癖と口が悪いのは知ってたがここまで馬鹿だったとは思わなかったな、ジョンソナ。』

  『おい、てめぇら!雑談している間に海軍がどんどん数減らしてるんだよ!くっちゃべってねぇで全員さっさと「飛べ」!』


  『『サーイェッサー!』』


 フラムモー、そしてジョンソナとヘルマッサの【フォルティス・オス】は次々と【浮揚機構・改】の出力を上げ、空へと浮き上がっていき、それにまだ良く理解出来ていないっぽいフィーゼスが追っていく。


  『ははっ!こいつはいい!確かに軽さが良い具合に働いてるぜ!』

  『これなら通す魔力が少なくとも「空が飛べる」ってもんだ!』


 【フォルティス・オス】には【浮揚機構・改】だけでなくそれを補助する為の全身トートゥム推進ペロ装置メーカニズマウェントス()】もついている、そして機体の軽さと組み合わさると疑似的に【飛行ウォラートゥス機構】に近い行動が取れる……つまり空を飛ぶ事が出来るのだ。


 但し【飛行機構】とは違い、どちらかといえば空中を飛行するのではなく、浮遊。

 空中停止し、そのまま攻撃を行ったりさらに高く跳ぶ事で高度を上げたりと【飛行機構】にもある一部の状況を模倣出来るように作られている。

  唯一出来ない事、といえば高速飛行位だ。


 こればかりはある程度の魔力量など出力に頼る部分がある為に【飛行機構】を最初から搭載している魔導鎧のようにはいかないまでも飛び上って空で陸上のように動く事だけは可能にした魔導鎧の試作機、それが【フォルティス・オス()】の正体なのです。


  『だが飛んだ所で武器が()式の魔導銃に銃剣でどうするつもりだってんだよ!』

  『いや、普通に火属性魔法でも何でも撃ちゃ良いって話だろう?フィーゼス。』

  『そうだな、ジョンソナ。火属性魔法が海戦で使い物にならねぇってのは海という大量の海水がある場所に撃ち込もうとするからだぜ?だが今俺等ぁ空飛んでんだ、それでいて【クラーケン】の触手が今目の前に次々と向かってくるんだぜ?』

  『ああ、なら大量の海水がねぇんだ。そこに撃ち込みゃ陸と大差ねぇって事だろ?』


『ま、概ね及第点って回答かね……あんた達は殆どが四人一組(フォーマンセル)。普通に【飛行機構】で飛ぶとなると魔力消費は馬鹿みたいに多くなるし何より空中停止なんてのはさらに魔力を食らうんだ、人工魔石正副吸収供給機構である【マギ・アーティフィカル】があっても無くてもね……そして欠点はそれこそ細く軽い機体が耐久度の低さを示している。つまり今のあんた達には最適な魔導鎧がその【フォルティス・オス】って事まで言えれば花丸満点「たいへんよくできました」まであげてたんだけどね?』


  『待て……だからと言ってこれで【クラーケン】なんざ倒せる訳ねぇだろうが!』

『誰も倒せなんて一言も言ってないんだけど?一番槍を任せただけなんだから一撃入れれば上々、やられている海軍の触手を自分達に集めて逃げ回れれば御の字程度にしか考えていないからね。』


  『はぁっ!?』

『何驚いてるのさ……これは第一〇一騎士隊第一大隊、そして私が出張ってるんだよ?なら【クラーケン】を殺るのは……私に決まってるじゃないか!』


  『はぁぁぁぁぁぁ!?それで功績なんざ稼げる訳ねぇじゃねぇか!』

『倒す事だけが功績ならそうだろうね、だけどあんた達は友軍たる海軍に出来る限り触手がいかないように注目を集めるだけでも十分だろう?それともあんた達の功績ってのは首を取ったりだのとだけなのかい?違うだろう?軍属なんだ、人の命を助けるのだって功績に決まってるじゃない!』


  『そんなもん功績なんて言わねぇ!』

『他所がどうとかは知らないね、だけどここではそれも功績だよ。それともあんた達にとって人の命を助ける事は成果でも優れた働きでも無いっての?違うでしょ?これは海軍に対する貸し1なんだよ?』


  『はぁ?』

『海軍が手も足も碌に出せずに全滅しそうなところを第一〇一騎士隊が助ける。それ自体はどうでも良いんだよ。ね、アシュリンさん。』


  『そうね、それを黙っておく変わりにさっさとここから帰っていただく。これ以上の功績があるとは思えません。流石カナオちゃん!考える事が「あくどい」わね♪』


『「あくどい」とは人聞きの悪い、時は金なりってね。第一〇一騎士隊(私達)だけで急げばこの10倍速く進めるんだからさ……その分、兵站なんかの費用も浮いて、経費削減にも繋がる訳でこれ以上の功績がどこにあるってのさ?』


  『無いわね。』

『って事でチャチャッと倒したい所で私の「とっておき」で倒したかったんだけどね……ちょっと考え直したよ。』

  『カナオちゃん、なら誰が殺るのかしら?』

『第一大隊を出したんだからさ……ここで1つ格好良い所を見せて欲しいかなってね?ハイネル中佐。』


  『あ?俺か?』

『【カストルム()PDB】に乗り換えてから碌に前に出ていないでしょ?あの【クラーケン】なら中佐1人で何とかなるでしょ?それにちょーっとそこの4人に指揮を執りながらのの戦いってのをさ。ここで見せておいた方が良いかとも思ってね?』


  『……そういう事なら良いだろう、総隊長。第一大隊総員!【クラーケン】は俺達の獲物だ!ここから第一大隊の連携による力、たっぷりと見せつけるぞ!』

  『『『『『サーイエッサー!』』』』』


 そして【ナーウィス・ロンガ・ビス】の近くにいた第一大隊が一気に【クラーケン】へと迫っていき、第一大隊単独による【クラーケン】討伐が始まるのだった……。

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