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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第十七話改 石が流れて木の葉が沈む

 カナオが南門に現われなくなり2か月と少し経過した日。

 領都カウウスの夜は静かな時間が流れ、外壁上の衛兵は夜の冷えに耐えられず隠し持っている酒を煽りながら監視、という名のただそこにいるだけの任務を遂行している中。


 領都カウウスが夜襲にあった。

 それも非常に静かに行われていた。


 外壁上の5人は外壁をよじ登ってきた者達によって取り押さえられ、猿轡を噛まされ縛られて拘束。

 全ての門上の衛兵達も軒並み拘束される中、各門の衛兵詰所が次々と襲われ、軒並み衛兵達が捕まっていく。

 衛兵宿舎までもが占拠されると共に領都カウウスの上空にはほぼ音も無く、巨大な魔導飛空艇なる空飛ぶ艇が1艇現れた。


 艇からは更に小さめの魔導飛空艇が飛び、降下したのはカデーレ伯爵の屋敷の敷地内。

 そこには領軍が揃い、小さな魔導飛空艇に乗る者を迎える最中、次々と各門の衛兵達そして詰所や宿舎の衛兵達が連れてこられる異常な状況だった。


 衛兵達は猿轡をされ、声を出す事も叶わない中、声を無理矢理出そうとする者達は呼吸が困難となる程の力で抑え込まれ、最後は力なく声を挙げる事すら諦める中小さな魔導飛空艇の傍らにカデーレ伯爵が現れた。


 小さな魔導飛空艇の扉が開くと、そこからは灰銀の法衣に包まれた数名の人々が降りてきた事で一部の衛兵達はそれが何者なのかにそこでやっと気が付いた。


 灰銀の法衣、そして胸に輝く紋章は軍属を示す紋章。

 彼等はこのフォルティッシムス王国において法務騎士プラエトル・エクエスと呼ばれる存在で衛兵達を抑え込んでいる人々は法務騎士部隊コホルス・プラエトル・エクエスだと……。


 単純に法務官プラエトルとも呼ばれるが主に法務業務を担当する軍人、軍属の総称で法務を担当する、と言えば非常に大雑把だが主に戦時訴訟、損害賠償や損失補填関連であったり各種重要文書の審査、また各地の法令調査や研究に関する事に携わる者達であり、分類としては王の直轄部隊、近衛に含まれる人達であり騎士、魔導騎士の上位にあたるうえ様々な権限を有する人と部隊だった。


「ようこそおいでくださいました、法務騎士プラエトル・エクエス。」

「うむ!出迎えご苦労である!しかしここは酷いものだな……我等に気が付いた軍属が誰1人おらぬとは……だが王都から寄り抜きの衛兵達を連れてきて現在配置させている。すぐにこの領都カウウスも良くなるだろう。当然、順次周辺の街も入れ替えていく。」

「有り難うございます。」

「して、ここの衛兵総隊長はどれだ?」

「はい、あそこにいるピューターで御座います。」

「ほぅ……そいつの猿轡を外せ。」

「はっ!」


 この領都カウウスの衛兵の総隊長であるピューターだけが猿轡を外された。

 途端、堰を切ったかのように喋りだした。


「なっ、何故法務騎士(プラエトル・エクエス)がっ!?」

 しかしピューターが口を開くと共に法務騎士プラエトル・エクエスの足がピューターの顔を捉えそのままピューターは地面を少し転がった。


「誰が喋って良いと言った。衛兵如きの総隊長程度の階級で我等法務騎士プラエトル・エクエスに許可なく口を開こうなど烏滸がましいと思わぬか?衛兵総隊長ピューター。」

「……………ぐはっ!?」


 そして今度は法務騎士プラエトル・エクエスの足がピューターの腹を捉えた。


「私は貴様に質問をした。衛兵如きがそれに答えぬなどやはり烏滸がましいと思わぬか?」

「がはっ……はっ……。」

「……………まぁいい。それで対象は見つかったか?」

「いえ、それがまだ見つかっておりません。」

「そうか……。」

「ぐぼっ!?」


 さらにピューターの腹に法務騎士プラエトル・エクエスの足が乗り、そのまま体重が掛けられていった。


「1つ聞く、この領都カウウスには今年騎士昇格試験の推薦を受けたカナオ二等兵なる衛兵が居る筈だ。だが彼の者はその騎士昇格試験へと出てこなかった。さらにこの領都カウウスから出た形跡が無い。さて、どこに居る?」

「がはっ……そ……その者なら……むだっ!?」


「無断欠勤?そんな訳が無いだろう。貴様等衛兵は知らないだろうが王都の国軍本部では全ての衛兵の勤務状況を知る方法がある。これまで1年間、休みを取ったのは無断欠勤と報告を受けている。1日、そしてこの領都カウウスに騎士昇格試験の通達書が届いた翌日以降、その全てで勤務を行っていない事は明白である。」


「……………。」


「いいか、我等法務騎士プラエトル・エクエスは国軍法に則り軍人が行方不明となった際、死亡宣告をする義務がある。だがカナオ二等兵に関し、それ以降無断欠勤の報告すら上がっていない。しかも国内のどの街にも立ち寄った記録が無いだけでなくこの領都カウウスにも出ていないのだ。なら、カナオ二等兵がどういう状況にあるか。貴様なら知っているであろう?総隊長ピューター。」


「……………うごっ!?」


 さらに法務騎士プラエトル・エクエスの体重がどんどんとピューターの腹に加わっていく。


「貴様等のような底辺階級が何をしようとそれが法と軍規の定める範囲であれば我等は文句は言わぬ。だが国軍の衛兵が行方不明という状況を同じ国軍たる我等が黙って見過ごすとでも思っていたか?階級は違えど、衛兵も騎士も近衛も軍人である事に変わりは無い。たった1人の行方不明者であろうと身内を蔑ろにする等といった対応は我等法務騎士(プラエトル・エクエス)にはない。軍法軍規の下、我等はそれらに則り動くものである。近衛でありながらも我等は王より軍法軍規の下、誠実に対応する範囲内であれば自由な行動が許されているのだ。それを鑑み、もう一度聞く。カナオ二等兵はどこに居る?」


「……………ど……独房です。」

「おい、探してこい。」

「はっ!」


 それからカナオが救出されるまで1時間以上かかった。

 その理由がこの総隊長たるピューターが画策したもので最も奥の独房にカナオを入れた後、しばしの間忘れていたかのように放置した結果、悪臭が独房に蔓延し始めた事を理由にピューターは最も奥の独房とその隣の独房を繋ぐ通路を封鎖するように指示していた。


 そして法務騎士部隊コホルス・プラエトル・エクエスの手によって南門の衛兵詰所も調べられたのだが封鎖された場所は完全に壁になっていた為に見つからなかった。

 カナオはこのまま未来永劫、独房に閉じ込められたままその存在を無かった事にしようとされていたのだった。


「隊長……。」

「ほぅ……へぇ……。」


 法務騎士部隊コホルス・プラエトル・エクエスによってそれが発見され、その詳細が耳打ちされた。


「さて、総隊長ピューター。申し開きはあるか?」


 法務騎士プラエトル・エクエスの隊長と呼ばれた女性はピューターに何の罪に対して、と一切言わないまま申し開き、ピューターの行為の正当性の説明を求めた。


「あ……あれは……公文書を偽造した……。」

「さて、そのような報告は一切受けていないのだが?それが事実であるならば報告すれば良いだけではないのか?それに公文書の偽造、と言うが一体何を偽造したというのかな?」


「き……騎士昇格試験の……推薦状です……。」

「ほぅ、それはもしかしてこれの事か?」


 隊長が手に持ち、ピューターに見せたもの。

 それはピューター達が書いた騎士昇格試験の推薦状そのものだった。


「ここには6名の推薦が書かれている。そして貴様の印が押されているのだがこれをカナオ二等兵が偽造した、という事か?」


 ピューターには信じられなかった。

 それは間違いなくピューター達が王都へと送った推薦状で予定通りの人員の名前だけが書かれておりそこにカナオの名前は書かれていなかったからだ。


「面白い事を教えてやろう。貴様たちが送ったこの推薦状で推薦採用された者は1人も居ない。そしてカナオ二等兵を推薦したのはここに居るカデーレ伯爵だ。貴様達、知らなかったか?衛兵の騎士採用試験の推薦は王侯貴族も行える上、近衛そして国軍科からも推薦を受けられる。そしてカナオ二等兵が受けた推薦数は全部で6人分だ。」


「ろ……6人!?」

「そうだ、カデーレ伯爵。そして国軍科の教員から4名。そして最後の推薦人は……先代フォルティッシムス王だ。我等がどうしてここに来たか、そろそろ理解したか?貴様等の潰したカナオ二等兵には先王の推薦がついている。そんな人物を騎士昇格試験に送り出さなかった。我等が動き出すには十分な理由であろう?」


「へ……陛下の推薦……。」


「貴様たちは知らぬであろうが、カナオ二等兵は今から4年程前。上級学校国軍科騎士クラスの入学試験に挑んだ。その際、王がかなりの無茶をさせたらしくてな……彼女は合格まで5センチ届かなかったのだ。先王もついつい彼女があまりに規格外だった為、無茶を言ったものの合格不合格の線引きは重要だ。だからこそ、先王は4年経過するこの時の為に彼女に推薦枠を用意していた。そしてその際、試験を手伝った教師達からも推薦を得た。さらにこの領都カウウスにおける彼女の実績を鑑みここに居るカデーレ伯爵が賄賂とならぬ様、彼女に対する領としての礼の気持ちを推薦と言う形に認めた為カナオ二等兵には6人の推薦がついたのだ。」


 ピューターからすれば解らない内容が多かった。

 しかし明白な事が1つある。

 彼女は何もしていなかった、という事実だった。


「通達書立派な公文書だ、それを当人に見せないという行動は公文書等毀棄罪の疑いが出る事を考えなかったのか?我等が動く事となった理由の最大の点がそこだ。カナオ二等兵が推薦を辞退する場合はその報告が必須となる。だがそれが無い上で、無断欠勤の報告も無ければ勤務形跡が無いとなれば事件である可能性を疑う。そんな事も考えなかったのか?カデーレ伯爵率いる領軍から既に貴様達の怠慢も全て聞いている。これから貴様達には楽しい楽しい聴取と裁判が待っている。何、心配はいらない。既に王都から優秀な精鋭たる衛兵達を連れてきている。領都カウウスの守りは今後、彼等が行う事になる。ここに居る衛兵達、1人残らず連れて行け!」


 領都カウウスをこれまで守ってきた、とされる衛兵達は全員これから魔導飛空艇で王都へと連れて行かれ、これまでの全てを洗いざらい吐かされる事になる。


 しかしこれはあくまで腐った軍属の氷山の一角であり法務騎士プラエトル・エクエス達の手が回り切っていない為に起こった話であり、彼ら自身もそれを解った上での事だった。


 ただ、これでも最も速い対応だった。

 そしてそれは、かの国軍科の入学試験で背負った1人のお爺さん、先代フォルティッシムス王の推薦者がやってこなかった事によって露呈しただけでありこれから少なくとも領都カウウス、そしてカデーレ伯爵領は彼等法務騎士プラエトル・エクエス達の手によって腐った部分が除かれていくだろう……。

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