第百六十八話 暗部F その2
「ああ……これどうすれば良いんろう……。」
「カナオちゃんが連れてきたからいけないのよ?」
私が連れてきたフレアとフーカの2人をアシュリンさんが暗部Fだと紹介してすぐの事。
ドルー准将が現れ、そこから兄弟で罵倒し合った結果、「修練場で修羅場」と書くと似ている気がするけど、それはともかく殴る蹴るが始まったのです。
私的には別にこれ自体はどうでも良い、というか兄弟なんて大抵仲が良いか悪いかの2択だと思っているからこうしてたまに会ったのであればお互いこうして色々なものを吐き出すのはむしろ健全では無いのか、と思う位だ。
だからといって修練場を壊して良い理由にはならない……。
「ああ、これを直すのにまたいくら掛かるのやら……。」
「カナオちゃんが連れてきたからこうなるのよ?」
「あぅぅ……。」
それにしてもお互い手の内自体は似ている、ドルー准将は火属性を得手とするのと同じくフレアも火属性が得手で、どちらも身体に火を纏って殴る蹴るだけでなく修練場に火の玉を撒き散らす程……地面にアシュリンさんが水属性魔法で水を撒いて燃え広がらないように抑えていても2人に接近すると水は蒸発してしまい、どこの温泉地なのかと問いたくなる位には蒸気でムンムンとしている中、兄弟喧嘩と言って良いのかどうかな戦いが続いている。
「おらおらおららららぁ!てめぇどの面さげてここにやってきやがった!フレア!」
「兄者に許可を取って来ねばならぬ場所だったとは初耳なのだが!?」
「カスアリウス同士が戦うとこんな風になるのね……。」
フーカとやらがそう言うと妙に気になった。
「そういえばドルー准将って確かフォルティッシムスの出身じゃなかったよね?カスアリウス家ってどんな家なのかね?」
「あ、カナオちゃん。それ地雷よ?」
「え?」
地雷、そう言われたと思えばドルー准将とフレアの視線が私にグルっと向いた。
「あ?カスアリウスが何だって!?」
「おお!カスアリウスに興味がおありか!」
「あ゛ぁ゛っ!?てめぇがカスアリウスを語るなんざ百億万年早ぇんだよ!」
「あ゛ぁ゛!?兄者こそ家を出た癖に何を宣っているのだ!」
視線がお互いに向き直り、再度喧嘩っぽいものが再開され修練場がどんどんと酷くなっていく……まぁあとで直させる予定だけど……。
「あんた知らないの?火喰鳥、知らずにこんな所に居るとかモグリかしら?」
「火喰鳥……。」
ガングロ駄神の知識をよーく掘り起こしてみると……あった、火喰鳥家。
独自の言語であるジャルパネルト語を主言語とする14125の島を有する東方国、とも呼ばれるジャルパネルト王国を守護する四大公爵家の1つで火喰鳥族と呼ばれる獣人とは異なる独自の種族とその末裔だけで構成される……?
「ん?……もしかしてドルー准将って分家?」
「カナオちゃん、それは違うわよ?」
「あんた馬鹿?火喰鳥家は現在の王族よ。」
「ほぅ……って事は第〇王子様?」
「カナオちゃん、それは違うわよ?」
「……頭痛いわ、今そこに居る2人はそれぞれ長男と次男よ?」
「へぇ……って次期王ジャン!」
「カナオちゃん、それは違うわよ?」
「はへ?」
これにはジャルパネルト王国という国がいかに特殊な国か、という所から始まるらしいのだけど超長ったらしいので大幅に割愛。
ジャルパネルト王国を守護する四大公爵家の1つから王が決定すると、その次期王はその1つ下の世代かつ四大公爵家の1つから決まるのだとか。
「なら継承順位とかは?」
「「無いわね」」
アシュリンさんとフーカの言葉が揃った通りだそうで現王が亡くなると共に四大公爵家から1人代表となる人物が名乗りをあげ、その4人が最後の1人となるまで戦う事で残った1人が王になる、というのがジャルパネルト国王の決定方法、という事らしい。
「つまり誰か1人が名乗り出ればあとは関係ないのよ?」
「そうね、当代では1人だけでさらに亡くなればその下の世代に継承権限が降りるから関係ない、といえば無いわね。」
「へぇ……ん?」
ここで少し変だと思った事がある。
もしドルー准将にしてもフレアにしても王とならなかった場合は確かに関係ないのかもしれないのだけど……。
「あの、ちょっと気になったんだけどさ。アシュリンさんとドルー准将の子供って……。」
「カナオちゃん、それ以上口を開くと碌な事にならないわよ?」
「ひっ!?」
これはどうやら琴線に触れたらしい……アシュリンさんの顔がかなり危険な笑顔を浮かべているのは本気で言っている証拠だ。
恐らくだけどアシュリンさんとドルー准将の子供には私が考える限り「継承権が発生する」とみている。
「心配しなくても本人が名乗り上げない限りはならないわよ?」
「フーカ、それ以上口を開くと明日にはへルート川に浮かんでるわよ?」
なんでハルキナにある川まで態々……というより、この兄弟の喧嘩が全く収まる様子が無く、終わったのは日暮れ近くになってからの事だった。
ちなみに本当にジャルパネルト王国とか四大公爵家とか本当にどうでも良く、この2人の喧嘩の理由、というよりこれが定例の挨拶らしいので明日以降、2人にはしっかりと修練所の修復を最優先でするように言ったのだけど実際はそれどころではないビッグニュースを持ち込んできた為、修練場の
修復は明日以降、新人隊員達の良い修練項目となるだろう。
日の沈んだ頃、隊舎内の私の執務室に防音の魔法を張り巡らせた後、フレアとフーカの口から語られたのは彼等がデシデリウムに潜入していた理由とそれによって掴んだ情報だった。
「フィニス大陸のインティウム王国?」
出てきたのが意外と思う位には遠い大陸名と国名だった、それもフォルティッシムス王国のあるペルグランデ大陸からはほぼこの惑星の真裏に位置する大陸であり、さらには世界的にも有名な超大国の1つ、魔導技術に関して言えばフォルティッシムス王国と比肩出来る程のものがあるだけでなく国土で言えばフォルティッシムスよりかは少し小さいけど密度が高く、ここよりもより現代的な方向に近い文明を持つ国、とされている。
そこにアビス武器商会が根を張っているのだとか。
大統領制の国であるディオニュソス連邦共和国に根を張っていると一時期は思われたもののそれすらも踏み台で実際にフレアとフーカの2人は最終的にインティウムへと辿り着き、そこがアビス武器商会の本拠地でありデシデリウムの絡みも全てがインティウム王国の企みであると掴みこうして帰ってきたのだそうだ。
「駄目だな、所詮はお前ら2人だけの掴んだだけで裏が取れてねぇ以上、そのまま鵜呑みにゃ出来ねぇな。」
「あ゛ぁ゛っ!?何かいったか兄者!」
「五月蠅ぇ!てめぇみたいな凡骨如きに追い切れる訳ねぇだろうが!」
次の瞬間、2人から一気に火が噴き出すと共にまた暴れ始めた事で私の執務室はほぼ全焼するかと思った矢先にアシュリンさんの水属性魔法によって室内はまるで水族館の水槽のように変わったかと思えばそのまま部屋の窓や扉が水圧に耐えられなくなり水が一気に流れ出ていった……。
「はい、チャキチャキ掃除する……。」
「っす……。」
「はい……。」
「全ては兄者が悪いのだ!」
「んだとてめぇこの野郎!」
「あ゛!?まだやろうってのか!!」
「あんたらいい加減にしろ!!」
この繰り返しが何度が行われ、私の執務室の掃除すらままならなかった。
しかしこの話、やはり裏取りが出来ていないと言う事もあり後日ニャンコさんの主導で裏取りの為の暗部の派遣が決定するも、ニャンコさんを含め彼等が帰ってくる事は無かった……。




