第百五十二話改 インビクタス その5
「何!?壊されただと!貴様等一体何をしていたのだ!!」
【インビクタス】の中、最前線まで出てくる事となり指揮を執っているのはカナオ達が狙う1つの首でもある空軍大将ハバナードだった。
アビス武器商会を含めてアビス達の行方が消えた今、これ以上の武装補充が出来なくなった事で虎の子であった【インビクタス】を始めとした兵器類をかき集めただけでなく、帝国内から奴隷を徴発しただけでなく足りない国軍の人数を補うべく、徴兵まで行っていた。
そしてこの人の命を、魂をも動力とする超大型魔導戦艦【インビクタス】を陸軍大将デルドロックから用いてフォルティッシムス王国の王都まで攻め入る様に、とされ出てきたものの……カナオ達に接敵して即座に内部は荒らされ、さらには【アニマ・マギ・マーキナーリウス】と【インビクタス】とを繋ぐ魔力伝導を行っているミスリィル線を切られた事までが判明しており、部下達を叱責していた。
当然、ニャンコが行った兵站の中でも重要とされる水に食料の多くが奪われた事も含めて……。
「しかしハバナード空軍大将っ!?」
それに対し口を開いた者はハバナードに魔導銃で額を撃たれた。
「言い訳などはいらん、解っておるのか!?我等には次は無いのだ!」
空軍が大敗を喫した事により陸軍大将デルドロックが実権を握っている今、ハバナードを含めた空軍にとって次などというものはなかった……それでも現状デシデリウム戦力の最高峰としている【インビクタス】を用いて王国王都の陥落をさせねば帝国にも、そしてハバナードにも先は無い、とされ将官ながらもこうして最前線に出張る事になった。
「ここで王国に勝つ以外、最早生き残る術など無いのだ。何が何でも勝たねば……。」
「ハバナード空軍大将……。」
「「「「「……………。」」」」」
「たっ、大変ですハバナード空軍大将っ!!」
「どうした!また何か見つかったのか!!」
「獣人達が逃げ出し、艦内で暴れ始めました!!」
「何だと!?たかが枷付の獣人相手に何をしているのだ!!」
「いえ、それが……。」
同時刻【インビクタス】艦内では手枷や足枷が外され武器を手にした獣人達が牢から一気に溢れ出すように艦内へと雪崩れ込み、次々と帝国兵に手をかけていた。
「いいかてめぇら、決して艦自体は壊すな!帝国の連中だけをぶっ殺すぞ!」
「はい、剣にゃす。斧が良いにゃす?……斧はこれにゃす。次々と武器を持って暴れるにゃすよー。だけど魔導戦艦は壊しちゃ駄目にゃす。艦を乗っ取った後の移動手段になるにゃすよー。」
再度艦内に戻った猫の獣人であるニャンコ含む王剣隊が手引きする事で獣人達は【インビクタス】の制圧、そしてフォルティッシムス王国が受け入れを約束した事で一部の獣人を除き、【インビクタス】にて移動すると公言。
しかし一部の獣人にはこの【インビクタス】の実の姿を知らせ、その前にこの【インビクタス】を壊す事を伝え最終的には制圧後、安全に破壊する事を目的としての行動を起こし始めたのだった。
「たっ、大変ですハバナード空軍大将っ!!」
「くっ!?こっ、今度は何が起きた!」
「王国軍が外から攻めてきました!」
「チッ……鼠が入り込んだのか!これは王国軍の謀略だ!多少内部が壊れても構わん!火属性以外の二式魔導銃を使用し内部を即時鎮圧せよ!外は私が艦橋へと戻り対処する!」
「「「「「サーイエッサー!」」」」」
そして獣人達と帝国兵が戦いを繰り広げている中、一部の獣人達とニャンコは【インビクタス】を安全に破壊すべく準備を始めていた。
大規模な魔法を扱う場合はいくつかの条件が必要となる為、その準備を行わなければならなかった。
【インビクタス】の内部はニャンコ達王剣隊が担当。
外はアシュリン、ドルー、イーオン、カリブルヌスの4人が担当。
カナオとアルビオンの2人はその魔法の発動の為に距離を取っていた、使用する魔法は超級聖属性魔法【サーケル・ソムヌス】。
魂がどのような想いがあったとしても、現世に留まる事となったとしてもそれを知る事も無く、夢を見続けるという死者を送るものでこれによって魂が永遠の眠りにつき、呪いが発動する事が無く済むものの元々大規模な魔法ではなく、単体に使用する為のものである。
それを【インビクタス】全体に広がる程に大規模なものへと変えるべくカナオによる魔力の補助と下準備が必要となる為にこのような形となった。
「ええい!まだ鎮圧出来ぬのか!」
「艦内通路が狭く、少人数での戦闘が続いている為に力の点では獣人の方がっ!?」
ハバナードの前にはまた1つ死体が出来上がった……。
「我等人族より獣人の方が上だと言うか!仕方ない……【マギ・ピュロボルス】を使っても構わぬ!さっさと獣人共を皆殺しにしてしまえ!」
ハバナードはこの時、最早まともな思考が出来なくなっていた。
奴隷として蔑んでいる獣人達が【インビクタス】を動かす燃料だと知っている者達もそれなりにいた。
ならこのまま皆殺しにしてしまったとして、この【インビクタス】をどう動かすのか……そう考える帝国兵は決して少なくなかった、しかしハバナードの頭には、むしろ獣人が居なくなったとして「生けとし者」であれば誰であろうと【アニマ・マギ・マーキナーリウス】の燃料となり得ると考えており、帝国兵達も薄々それを頭に過ぎり始めていた。
「たっ、大変ですハバナード空軍大将っ!!」
「五月蠅いっ!!」
最早まともな思考が出来なくなった影響かハバナードは内容を聞くまでも無く、そのまま帝国兵を魔導銃で撃ち抜いてしまった事が端となった。
「こっ、こんな事で殺されるなどあって堪るか!!」
「そっ、そうだそうだ!」
「五月蠅い貴様等!私が考えているのだから黙っていろ!」
「五月蠅いのはお前だ!魔導大国の1つであるフォルティッシムス王国に矢を向けたのはお前だろう!何故俺達がこんな目に遭わなければならない!」
「もっ、もう嫌だ!戦争がしたいならお前達だけでやれば良い!こんなとこっ!?」
ハバナードは次々と反抗する帝国兵達を撃っていく中、ついに帝国兵達に抑え込まれた。
これが二式魔導銃であれば自らの魔力や魔導銃内にある魔石の魔力を用いてある程度続けて撃てたがハバナードの持つのは一式魔導銃だった。
【弾丸】を必要とし、それを魔力の爆発で撃ち出すものでそれも1発撃つ毎に【弾丸】を込める必要性があった。
その間隙を突かれたところからハバナードは帝国兵達に抑え込まれ、そのまま喉を短剣で突かれ、殺されて堪るかとする帝国兵達に次々と刺されていく中でも彼等を叱責、侮蔑交じりの言葉で罵りながら命を落としていった。
「どっ、どうするよ……。」
「投降するしかないだろう。」
「それは相手がフォルティッシムス王国なら通じるが今暴れている連中の大半は獣人達だぞ!?」
「フォルティッシムス王国が旗を振っているなら投降が認められるかもしれないだろ……?」
「それはないにゃすね。」
「誰だっ!?……じゅ、獣人!?」
「貴様達は獣人の命を動力としてこの【インビクタス】とやらが動いている事を知っていた筈にゃすね?この艦橋に居る者であれば誰もが知っているにゃすね?そう先程、他の帝国兵が吐露したにゃすよ?」
「何故獣人がそれを……。」
帝国兵は突如現れた、普段の井出達とは違うニャンコに対し視線を合わせ、頷くと共に……ニャンコへと刃を向けようとした。
「考えている事が見え見えにゃす、ここで口を封じれば済むとでも思ったにゃすか?」
短剣等を持ち、駆け出そうとしていた者達はいつのまにか後ろに回り込んでいたニャンコの持つ刀に近い形の剣によって、全てが首と胴が瞬時に切り離された。
それを見た帝国兵達が投降を懇願するも……。
「にゃす達は獣人達が犠牲になるのを知っていながら加担しているにゃす、彼等がなんと言いながら
死んでいったかを知るも知らぬも結構にゃす。どんな理由があろうと黙って見過ごせばそれは同罪にゃす。」
そう言い終わる頃にはニャンコの周りに首と胴が繋がったままの者達はニャンコ1人だけとなっていた……。
「……………あ、【インビクタス】を移動させる人員をうっかり殺してしまったにゃす……。」
「うっかりじゃねぇよ、猫殺……。」
「にゃっ!?Dにゃすか……どうしたにゃす?」
「どうしたもこうしたもねぇよ、外が粗方終わったからここの頭の首取りに来てみりゃこの調子だ……つか、こいつ空軍大将じゃねぇか。」
「帝国兵に殺されたにゃすよ。」
「ふん、部下に殺されるたぁ流石帝国って所か。いや、王国でもそういうのが居てもおかしくはねぇがよ……ま、首だけじゃなくて身体全部持って帰れよ?」
「にゃす?」
「ああ、軍に出すのは首だけで十分だけどよ。身体は必要としている連中が居るだろう?」
「あー、居るにゃすね。そこら中に目が血走っている獣人達が……。」
「そういうこった、何の意味も無いかもしれねぇけどよ。」
「あるにゃすよ……怒りのぶつけ処が何もないよりはマシにゃす。」
「んだな……。」
時間にして僅か1時間と経たずして【インビクタス】の中に居た帝国兵。
そして外を覆うように【ヘリ・コプター】で飛んでいた帝国兵。
甲板に居た魔導鎧、魔導軽鎧に身を包んだ帝国兵達は8割以上が死に、そしてその1時間後にはほぼ全ての帝国兵達が獣人の手によって殺され、【インビクタス】の制圧は終わったのだった……。




