第百四十八話改 インビクタス その1
「なっ、何にゃす!?」
「【インビクタス】でも来たかもしれないね、【ナーウィス・ロンガ】が航行時に張っている障壁に
大口径魔導砲撃でも掠った感じかな……ま、艦橋まで戻ろうか。」
「何か冷静にゃすね……。」
「そりゃ想定内の出来事だからね、超大型魔導戦艦【インビクタス】は王剣隊の調べがあってこそだしワスティタース王国で超長距離魔導砲の存在も確認した上で残骸も回収しているんだからさ。打てる対策は全部打ったつもりだよ?」
「そう言い切れるのが怖いにゃす……。」
操縦席のある艦橋に戻ると中に居る全員があんぐりと口を開けていた……。
「何揃いも揃って驚いてるのさ……第一種戦闘配備だよ?」
「そっ、総隊長!今の攻撃は何なのですか!?」
「そうですよ!異常な程威力のある魔法攻撃に見えたのですけど!?」
「何故、あれが当たってこの機体が壊れていないんですか!?」
「あーあーあー。次々質問されても私は聖徳な太子さんじゃないからさ、一度に喋られても聞き分けられないんだよ。っていうか第一種戦闘配備、戦闘準備しないと間に合わなくなるよ?フォルクス大佐、距離減衰考慮して障壁2割増し。この【ナーウィス・ロンガ】の為に軍の年間予算の2割も突っ込んでるんだから簡単に落ちやしない、なので全員焦らず訓練通りに。配置は上甲板に第一大隊と第二大隊、後方甲板に第二騎士隊、左舷に第一騎士隊、右舷に第三騎士隊を配備、それとアシュリンさんとドルー准将、ディジトの総隊長と私は空に出るから順次射出準備……って何ボーっとしてるのさ……これは遊びでも訓練でも無いんだよ!チャッチャと魔導放送を流す!」
「「「「「イェスマム!」」」」」
「それとフォルクス大佐、解ってるよね?」
「ん?障壁操作か?十分な訓練はしてきたつもりだぞ?おい、予備動力の半分を障壁用に繋いでくれ!」
「サーイエッサー!」
「ん、解ってるなら結構。」
魔法を遮る魔法は結界か障壁の2択になる。
しかもどちらも魔力の消費は桁違いに多い為、まず魔導飛空艇や魔導戦艦の類でも障壁位しか張らないのだけど結界と障壁の大きな違いは360度を囲むような四角形の箱状に展開するか、1枚の壁として展開するかの違いがあり現状複数の障壁を幾重にも折り重なるように張っている。
そしてここからだ、問題は攻撃にしても障壁があると届かなくなるし魔導鎧がそこを通過でもしようものなら見えない壁にぶち当たるようなものだ。
だからこれからフォルクス大佐は【ナーウィス・ロンガ】の障壁のONOFFに特に注意していく事になる。
「にゃす達はどうするにゃす?」
「ん?王剣隊は休んでて良いけど……ニャンコさん出る?」
「折角なので出るにゃす!」
「そっか、じゃあニャンコさんの射出も準備して。」
「イェスマム!」
「しかしニャンコさんまでわざわざ出なくても良いのに……。」
「カナオは無いにゃすか?新しいものを手に入れたら
試してみたくならないにゃす?」
「ああ……あるある。」
そういえばニャンコさん達王剣隊の魔導鎧も今ならある上にニャンコさんのものに至っては専用機、私の自信作である。
っていうか戦場に自ら出たいとか猫殺准将という字名は冗談では無いのかね……。
「ところで行かなくて良いにゃすか?」
「ん?ああ……ここからすぐにいけるよ?」
「にゃす?」
少し待つと床の一部がせり上がり滑り台の様なものが出てくる、最初は消防署等にある「すべり棒」も考えたのだけど普通に危ないし、何より素手で掴んで滑ると摩擦で熱いし?
そういった観点から【ナーウィス・ロンガ】の各所には緊急時直接倉庫まで移動出来るように滑り台が配置されているのです。
「にゃすっ!?これ楽しいにゃす!!」
「いや、これ移動を急ぐ為のもので遊ぶためのものじゃ無いからね?」
滑り降りていくと続々と人が集まってきて魔導軽鎧を纏い魔導鎧に乗った順に次々と左右舷や上後甲板等へと次々と魔導鎧が移動させられていく中、継続飛行可能な魔導鎧に乗る私等は射出待ちだ。
なんのって……射出機?動いていない状態から飛ぶのと現代空母等に備わっている射出機からの発射からでは初速が段違いに違う。
しかし特に超電磁であったりとかそんな事は無く、シンプルに魔力爆発を使ったもので実は【ナーウィス・ロンガ】の中ではかなりの高級品だ。
何しろ魔力爆発を起こして機体を傷つける訳にはいかない為に魔力を通さず、そして硬い魔法金属であるオリハルコンが多用されているからで、恐らく【ナーウィス・ロンガ】の1割くらいはここに費用が注ぎ込まれているといっても過言ではない。
『カナオちゃん、これ必要?』
『アシュリンさん……これは必要かどうかじゃないんだよ。ロボット乗りの夢であり浪漫なんだよ!!』
『?』
そう、純粋な夢と浪漫を追い求めただけで経費削減で言えば無い方が幸せな設備である。
『歓談中悪いがお先にいくよ。』
『あー、どぞどぞ。』
『なら……イーオン・ド・フィデス。【フォルティスI・プグヌス】、いくぞ!!』
構造は比較的シンプルで足元のオリハルコン製の台座に立ち、そのまま押し出されていく形だけど火薬式と同じ構造であり魔力爆発式はかなり調整が難しかった。
何しろ歴史的には加速は悪くなかったけど強すぎて操縦者の首の骨がボキリ、なんて話もある位だから加減はされてるんだよ?ちなみに射出機は2つあるのと、元の位置に戻すのにも魔力爆発で戻しているのでかなりスムーズに射出が進んでいく。
『アルビオン・オブ・フォルッティシムス。【フォルティスI・サピエンス】行きますわ!』
『我も続かせてもらおう、カリブルヌス・フォン・ウィーヌム。【フォルティスI・グルス】出るっ!』
『あ……【グルス】は1つだと……。』
『ぬ?何か我のだけ遅くは無いか?』
『そりゃそうだよ……【グルス】は重量があるから射出機を2つ同時に使わないと駄目なんだよ……。』
カリブルヌス大佐の【グルス】とハイネル大佐の新魔導鎧の2つはとんでもなく重量がある為に2つ同時に使用する事を前提として用意してあったりもするんだよね……。
『ならばやり直そうでは無いか。』
『いや、そのまま出ていっても良いんだけど?』
『我だけ除け者にするつもりか!!』
『……やり直してください、どうぞ……。』
『うむ!』
なんだかんだ言って、皆意外と楽しみながら射出されていく辺り作って良かったと思う。
『ところで何でみんな叫んでから射出されていくのかしら?』
『それが夢であり、浪漫なんだよ……アシュリンさん。』
射出される際、名前と機体名を叫んで飛び出るのはロボット物の宿命でもある……。
 




