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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第八章 デシデリウム侵攻編
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第百四十六話改 ナーウィス・ロンガ その1

8章開始です。

 デシデリウム帝国への侵攻の先陣には第一〇一騎士隊及び第一から第三騎士隊が切る事となり、さらには空軍の一部と王剣隊(暗部)の一部も共にしており残りはフォルティッシムス王国内の守りを固めつつデュプレ(二桁)が国境線を守る事となっている。


 その為に使われているのが改良された【フォルティス・ホムンクルス】改め魔導飛空戦艦型鎧【フォルティス・ナーウィス・ロンガ(戦艦)】である。


 既に誰が見ても魔導鎧とは思えない、空飛ぶ鋼鉄艦でフォルティッシムス王国で最も超巨大な魔導飛空戦艦を流用して作られた魔導鎧でもある。


「カナオちゃん、これを魔導鎧って言うのは絶対無理があるわよ?」


「仕方ないじゃん、魔導鎧じゃなくて魔導飛空戦艦だと空軍の管轄になるんだから……それと操舵系は完全に魔導鎧だよ?」

「そっかぁ……じゃあフォルクス少佐を艦長とは呼ばないんだね。」


「何か俺が悪口を言われている気がするのは気のせいか?」

「じゃあ騎士って言われるのと艦長って言われるのどっちが良いのさ?」

「……………騎士だな。」

「カナオちゃん、今フォルクス少佐絶対悩んだわよ?」

「悩んだね」「悩んだな」「悩みましたわね」「悩みおったな。」

「俺専用の魔導鎧の筈なのに居心地が悪いのはどういう事なんだ!?」


 ちなみにこの【ナーウィス・ロンガ】、メインパイロットはフォルクス少佐のままだけど、補助要員として20人の【乳袋】に釣られてやってきた現役女性騎士達が搭乗している他に整備班、整備研究班まで乗る程に巨大で全長が360メートル、全幅65メートル、高さが72メートルとこの世界の魔導戦艦としても最大級規模でありながらも実はこれまで使われていなかった魔導飛空戦艦をベースに作られている。


 まず古代文明の遺産として過去発掘された事で一度は運用するべく整備などを行ったものの、動かすべき為の動力である適合する魔石が無かった事から眠っていたのだけど私はそれを64個の直列させた人工魔石正副吸収供給機構を4基搭載して動かす事で再利用に成功したのです。


 まぁ案の定、空軍から寄こせと言い出されたものの操舵席でもある操縦席を見せた所、あっさりと手を引いたのは操縦が複雑な魔導鎧式になっている上にそれをフォルクス少佐は1人で操縦しているのを見て、あまりの魔導飛空艇等との操縦の違いに諦めていた。

 なら補助要員は何をしているか、と言われると大量に積まれている魔導砲等の制御等の補助に徹していて整備班は【ナーウィス・ロンガ】の航行整備を行い、整備研究班は魔導鎧、魔導軽鎧の為の整備を行う、いわば動く巨大な倉庫兼指揮所でもある。


 ただ人数がやはり足りなかった為に最終的には空軍からも人数を借りて内部には空軍用のエリアも用意してあり約2000人、5個連隊が同時に乗れるようになっている。

 当然所属は陸軍から譲ったりする事は決してない、何しろ魔導鎧なのだからね……。


 大きさの割に人数が少ないのは魔導鎧等が場所を取る為で、それでも【収納袋】を一部の整備研究班に貸し出して何とか搭載させている他、発着艦も可能。


 当然こんなものを作った理由はたった1つ、まだデシデリウムにあるであろう超大型魔導戦艦【インビクタス】と小型魔導回転翼艇【ヘリコ・プター】対策だ。


 しかし所詮は突貫で作ったものなので実は与圧機構を備える事が出来なかった為、実際には未完成品であるものの、ヤマさん達が頑張ってくれたお陰で低高度航行には支障が無い程度の完成度を満たした事で今回出張る事となった。


「それにしても色々と凄いけど……これ予算はどうしたのかしら?」


 ギク……。


「よ……予算ねぇ……。」


 アシュリンさんめ、そこに気が付いたか……確かにこんな超巨大な魔導戦艦をベースにしているのだけど実は魔導戦艦本体はタダ、という事でサービスしてもらったものの改装費には多額の費用が掛かっているのだ……。


「第一〇一の予算は粗方使い切った筈よね?まさかとは思うけど……また法務騎士プラエトル・エクエスから借款したんじゃないでしょうね?」

「そっ、それは絶対ない!天地神明に誓って!!」

「俺の所から借りていったぞ?」

「私の所からも借りていかれましたわ」

「我の隊の予算からも借りていったぞ?」

「にゃすの所からも借りていったにゃす。」


「ちょっ!?ディジト(一桁)王剣隊(暗部)から借りたのは内緒だって言ったじゃん!!」


 すかさずアシュリンさんの両手が私の肩にポンと置かれると共にとんでもない握力で握られた。


「かーなーおーちゃん?一体どれほど借りたのかしら??」

「いやぁ……あの、そのぅ……。」

「い・く・ら・か・り・た・の・か・し・ら?」

「痛い!アシュリンさん肩が潰れる!!」

「ざっとこんなもんにゃすね……。」


 裏切ったニャンコさんがサッと出した紙を見たアシュリンさんの顔が青ざめた辺りで私はソロソロと逃げようとしたもののすぐに首根っこを掴まれた。


「カナオちゃん!これ桁おかしいんだけど!?」

「オカシクナイ、ソノ数字マチガッテナイヨ……。」


 うん、数字は間違っていない。

 何しろ軍の年間予算の二割近くがこの【ナーウィス・ロンガ】一機に費やされているのだけど……実際はこれでも安い方なのだ。


「安い訳無いでしょうが!!」

「いやいや、安いって……だって【ナーウィス・ロンガ】には実はミスリィルを思った程使ってないからさ……。」


「カナオ、その話詳しく。」

「なんでニャンコさんが食いつくの……。」


 金属で言えば魔法金属の中でもミスリィルが最も魔力の伝導率が高い為に多用されるけど【ナーウィス・ロンガ】にはあまり多く使われていない。


 その代替物質として使ったのは実は「水」。

 それをスライムが持っている薄皮の中に内包させ、さらに魔物の皮で包み込んだパイプ状にしたものの中を魔力を通している為、実際には安価な魔力供給ラインで繋がれている。


 当然欠点がいくつかある、水なので沸騰させないようにしなければパイプが膨れ上がって破損する為、常に冷やし続ける必要がある事であったり?内包した後、しっかりと中で細菌類が繁殖しないように魔法をかけていなければならないとか?その継続費用や手間が掛かるものの実際には魔力の伝道物体としては非常に優秀なので使用した事で安価で済んでいるのです。


「欠点はこれ以上パイプを細く出来ない事だね……だから大型の魔導戦艦とか魔導飛空艇にしか応用出来ない技術だよ?」


 小型や中型の魔導飛空艇に応用しようとしても水はあくまで代替品にはなるけどミスリィル程優秀な魔力伝道物質ではない為、太さと重さが増える事から大型のものにしか利用出来ないという欠点があるのだ。


「……それだけで十分にゃす、空軍の持っている魔導飛空艇のミスリィルをこれに変えるだけでかなりの予算が浮く上、保持出来る艦数が増やせるにゃす。」

「まぁ維持が出来るなら良いんだけどさ、あと外装近くは使えないよ?攻撃受けて穴開いたら終わりだからね……。」


 ミスリィルはそもそも硬いのでその心配が無いものの、ただの水を通した柔いスライムの薄皮に魔物の革ではそれこそ剣で切ろうと思えば切れてしまう為に細心の注意が必要になる。


「それでも十分にゃす、フォルティッシムス王に発案の買取打診をして採用されればこの【ナーウィス・ロンガ】の製作費用位簡単に捻出出来るにゃす。」


「すぐにでも買い取ってください!こんな借款、第一〇一騎士隊の規模を超えてます!!」


 後々の事ながら、無事フォルティッシムス王国が買い取り、その後空軍が保有する魔導飛空艇に魔導戦艦に限らずミスリィルが水に置き換えられていく事で世界の魔導飛空艇数が急激に増加したりとあらゆる分野で利用され、世界は陸から空へと徐々に移行を始めるのだけど……それはまだまだ先の話である。

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