第百四十四話改 祭りの後の祭り その3
『ぬぅぅぅぅぅぅん!!』
アラカンド少佐の【プリムスラブリュス】によるショルダータックルは喰らいはしたものの……私の【アストルム】は【飛行機構】を発動させたままだった為に「ある程度」ダメージは受けつつも咄嗟に吹き飛ぶ方向へと移動させた事で最小限で済ませる事が出来た。
『いいね!真っ向から突っ込むだけじゃなくて隙をついて攻撃出来る程には成長したって事だよね!』
『元よりお主よりは多くの経験を積んでいるだけだ!』
『へぇ……だけど主武器である【ラブリュス】を失ってどうするつもりかな?【プリムスラブリュス】にはそれ程に多くの武器は積んでいない筈だけど?』
『その【ラブリュス】を失っても戦えるようにしたのがお主であろう!』
まぁ、そう言われるとそうなんだけどさ……【プリムスラブリュス】は【ムタティオフィギュラ】機構を備えて全部で5形態へと変わる事が出来るから、戦えなくはない。
だけどそれはあくまで2本の【セキュリス】とそれを合体させた【ラブリュス】を持って戦う事を大前提としている為、残る戦い方はほぼ体当たりになる……。
『まぁそれだとほぼ体当たりになるね、こんな所で【プリムスラブリュス】を壊されたら困るから【エスタス・セキュリス】じゃなくて普通の【セキュリス】を装備し直していいよ。』
『そんな無様な……………いや、解った。お主がそこまで言うのであればそうしようではないか。』
『なんか物わかりの良いアラカンド少佐とか怖いし夢にまで出てきそうなんだけど……。』
『それでも良い事なのよ?カナオちゃん。これで見下されているだの、無様な事をしたくないだのと宣う様なら私が本物の【アクアドラコニス・インペトゥス】を叩き込んでいた所なのよ?』
アシュリンさん……本物とか言う辺りそんなに気にいってたのかな??
『準備が出来たぞ。』
『じゃあ始めようか……。』
新しく普通の【セキュリス】を2本持った【プリムスラブリュス】が戻ってきた事で試合は再開された。
『【ムタティオフィギュラ】!【エクゥテティオ・スペシフィカーティオ】!』
人型、ケンタウロス形に続く3つ目の形態。
ケンタウロス形態から人型の胴体が後ろへと下がり前には左右から可変してきた部位が馬の頭と首を形作る、そして人が馬に跨った様な形である騎乗仕様へと変わった。
これを用意した理由はケンタウロス形態は実はあまりバランスが良くない。
何しろ馬の首部分に胴体があるのだから前が重すぎる。
但しこれはこれで前のめりに戦う場合には有効である為にそのまま残し、騎乗形態を用意した事で前後のバランスが良くなり【浮揚機構】の使用も踏まえて前後左右あらゆる方向に動きやすく対応出来るようにした形態、当然馬の首部分をお飾りにしておくほど野暮では無い。
『噛みついてやれ!アドミッサーリウス!!』
『勝手に名前つけてるし、ネーミングセンスが悪い!?』
せめて馬だろうにアドミッサーリウスって……。
『ってそれどころじゃないね!』
【浮揚機構】を使いながら駆けてくる【プリムスラブリュス】の馬の頭がそのまま私に噛みつこうとしてくるけど、これだって自動で追ってくる訳では無い。
第三世代機だからこそ可能な座席と魔導軽鎧が繋がる事でのハンドレバーを解さない操作によるもの、つまりアラカンド少佐による意図的なものだ。
に、してはこれまでのアラカンド少佐ではありえない嫌らしさを出してきているというか上手い具合に斧を振るう軌道上から馬の頭と首を逃がすようにしつつ斧の起動と逆側から齧りつこうとしてくる。
これまでの直線的、脳筋的な攻め方ではなく「相手が嫌がる攻め方」がきっちり出来ているのは【テッラ・レグヌム・ノウェム】の9人の教導の結果なのかもしれないけど……嫌らしさが少々足りない。
『その程度で私と【アストルム】が止められると思ったら大間違いだよ!【羅索】!!』
【アストルム】は私の身体の延長線のようなものなのだから七神の力だって扱う事が出来る!あまり長くは伸ばせないけど縄を馬の首にかければカウボーイさながら、馬を抑え込む事だって出来るんだよ!
『そんな縄で俺を制せると思っている事の方が大間違いだ!!』
ま、そう来るだろうけど【羅索】は絶対に切る事は出来ない。
これは神の所持品であり、神器である以上は決して壊れる事は無い。
『ははははは!大間違いと言いながら頑張って斧で切ろうとしても切れないでしょう!私の能力舐めんじゃないよ!!』
『ぬぅっ!ならばこうだ!【ペーガスス・エクゥテティオ・スペシフィカーティオ】!』
きたね!【ケンタウロス】と【エクゥテティオ】のどちらからでも移行できる2つの形態【ペーガスス】。
【飛行機構・改】によって比較的容易に空を飛べるだけではなく、物理的な翼が生える訳では無く、濃い魔力の色である濃紫の翼を広げて飛べる。
さらに翼自体が魔力の塊だから、そこに操縦者の微量の魔力を流し込めば魔法の翼としても利用出来る。
人工魔石正副吸収供給機構【マギ・アーティフィカル】によって魔導鎧のほぼ全ての魔力を人工魔石で補えるからこそ可能となったものだ。
『ぬふんっ!?』
自分で設計しておきながら【ペーガスス】状態での飛行は中々にやばい加速力だった。【羅索】が壊れないからこそ私はそのまま空へと引っ張られる形となった。
『うんうん、良く飛べてるね。我ながら良い出来だと自我自賛したくなるってもんだよ。』
『きさ……お主は俺の操縦技術を何だと思っているのだ……。』
『なーに言ってんのさ、あんた様に誂えた【フォルティス・プリムスラブリュスPDB】が操縦出来ない方がおかしいでしょうが。むしろあんたに合わせたのであって乗れて当然。私が求めるのはそれ以上だよ?加速は良いけどまだまだ、これじゃあ私があんたに合わせて飛んでるだけで全然辛くも何ともないよ?』
『ならばこれでどうだ!!』
急激な上昇下降に錐揉飛行、違う。それじゃないんだよ……。
『同じ空飛ぶ魔導鎧同士その程度は予測がつくから合わせやすいにも程があるね、こうやるんだよ!!』
折角引っ張るようにしているのだからやるとすれば急停止だ!私が急停止するように全身の推進力を引っ張るようにするとそのまま馬の頭が私に曳かれ、今度はこれまでとは逆に私がアラカンド少佐と【プリムスラブリュス】を引っ張り空を縦横無尽に飛んでみせ、そのまま一気に垂直降下を始めた。
『おおおおお!!きっ!貴様!魔導鎧を壊してはならぬと気を配った割にここで壊しに来るか!!』
『だからあんたは駄目なんだよ!壊さないように戦うのは当然だけどだからと言ってそれに引っ張られて戦い方を抑えすぎるってのは良くない傾向だよ?何より誰もこのまま地面に激突させようってんじゃないんだからさ!』
ほぼ垂直に落ちるように降下していながら私自身がかなり説得力に欠ける説明をしつつもどうするかは考えてある、【エクゥテティオ】の馬の頭と首の欠点は耐久性だ。
左右から可変してくるようにしてあるだけでなく実際には本体とは別の部品として作ってあり、この部分が壊れたとしてもすぐに取り換えられるようになっている。
ま、当面首無し馬で乗ってもらう事になる訳だけど【プリムスラブリュス】の中では最も脆い部分になっているし何よりこの頭と首は噛むかある程度撓るように動かす以外の機構は用意していない。
『この部分に荷重を加えてやれば本体のある程度の無事は確保出来るからね!』
そして地上近くになった時、そのまま私だけが斜めに飛ぶ。
【プリムスラブリュス】を振り子の重りとなるように地面スレスレを通るようにしつつ、ボーリングの球を投げるように【羅索】を使って今度は遠心力をも加えていく。
馬の頭と首が限界に達したのか……【プリムスラブリュス】は【羅索】の拘束から脱し、そのまま地上を転がるように……何度となくバウンドし、駐屯地のかなり端にある木にぶつかった事でやっと【プリムスラブリュス】は土埃が舞い上がる中、停止した。
『あー、生きてる?……返事が無い。ただの屍のようなものになり果てたか……。』
『い……生きてるわっ!!』
『チッ……。』
『きっ、貴様!今舌打ちをしたな!!』
『そりゃそうだよ、何で上に向かって飛ばなかったのさ…… 同じ首がもげるなら自分から上に飛んで引っ張り合えば地面を転がる事も、そうして木にぶつかる事も無かったのにさ!これでも空を飛ぶ事に関してだけはあんたより経験は上なんだよ?同じ土俵で勝負しようったってそりゃ些か無理があるってもんだよ。』
『ぐっ!?う……足が動かぬだと!!』
『あー、悪いけどちょっとだけ壊させてもらったよ?』
『いっ……今ので故障だと!?』
『いや、今の衝撃位で壊れるような軟な魔導鎧じゃないよ。なら何で壊れたのかなぁ……。』
『きっ、貴様!何をしたのだ!!』
『さぁね。折角【テッラ・レグヌム・ノウェム】の9人から色々と教わったんだからさ、後でどこが壊されたのかちゃんと自分の目で確かめるんだね。』
私がした事と言えば、振り子のように【羅索】を使って弧を描くように遠心力を加えている最中。
【セプテントリオーネスシーカ】の1つで非常に小さい1本である【アルコル】を股関節の内側の部分に勢いよく差し込んであげたのだ。
この部分は下半身へと魔力を伝える重要な魔力導線でここを断ち切られると足が動かなくなる。
但し股関節の内側を撃ち抜いたりは普通狙える位置に無い為に多くの魔導鎧はこの部分に下半身用の魔力導線を通す事になり横倒しになったまま、足でも広げない限りは狙う事など出来ない。
【セプテントリオーネスシーカ】の1つだけ非常に小さく作られているのはそういった場所を狙う為なのだから……。
『足が動かないなら……当然、何て言うか解ってるよね?これ以上壊さない為にも?』
『ぬぐっ……ぬぐぅぅぅぅぅぅ!!だが腕は動く!これだけ動けば――』
『ア・ラ・カ・ン・ド・しょーさ?』
ああ、アシュリンさんの声だ……それもかなり怒ってる感じだね、まぁ負けず嫌いは結構だけどこういった模擬戦での負けず嫌いってのは前もそうだけど中々に厄介なものだ。
だけどアシュリンさんだからこそなんだろうかね。
程なくしてアラカンド少佐は自ら敗北を認め、勝負は決したのだった……。




