第十四話改 衛兵さんの閑話 その1
ランドタートルを冒険者が連れてきた事件から1週間。
領都カウウスにあるカデーレ伯爵の屋敷では事件の全容が見えた事で領主であるカデーレ伯爵にその報告が私兵である領軍から為されていた。
「あれほど冒険者ギルドにはランドタートルの扱いには注意しろと言っておいたというのに……。」
「はい、今回ランドタートルを領都カウウスへと連れてきた冒険者達はCランク冒険者であった為2ランク降格、Eランク冒険者からのやり直しと1か月間の未成年冒険者用の領内依頼。主にドブ掃除等の清掃等の無償従事が罰として与えられたそうです。」
「ふん、冒険者に課す罰としては軽いな。」
「しかし冒険者ギルドからしてみれば領都カウウスに実害が無かった事を理由に、これでも重くしたと……。」
「それは衛兵の手柄であって冒険者ギルドが為した事では無いだろうが。」
「それでも実害が無い以上、あったかもしれないというだけではこれ以上は難しいと……。」
「身内に甘いだけの冒険者共め……それで件の衛兵の様子はどうだ?」
「魔導鎧隊が即座に保護。そのまま領軍の療養所へと運び、1日間意識が戻らず身体は様々な筋肉が断裂、主に拳が粉砕骨折し全身様々な箇所が骨折し、全身から血が噴き出していてかなりの重症でした。」
「なら未だ療養所に居るか。」
「いえ、それが……。」
その頃の南門では。
「はい、次の方ー!」
カナオは既に復帰し、衛兵としての普段の仕事に就いていた。
但しカナオのやる気は少々削がれていた。
衛兵としてはマニュアルに沿った行動の後、単独でランドタートルへと挑んだ行動は街を守るべく衛兵としては問題であったとされた事でカナオは減給処分を受け、年給の1割がカット。
そして意識を手放した1日間は無断欠勤をしたとしてさらに年給の1割がカットされ収入が2割も減っていた。
そして相変わらずの7勤状態で南門で今まで以上の仕事をさせられていたのだった。
「現場に復帰済だと……?重症では無かったのか!?」
「それが意識が戻り、暫くして療養班が診たのですが……全ての怪我が完治しており、そのまま翌日には現場復帰を為されました。しかし……。」
「怒れるランドタートルを仕留め、領都カウウスを救った結果が減給処分だと?」
「はい、領軍としても諭したのですがこれが国軍としての問題であり、無断欠勤及び本来衛兵が行う対応を逸脱した事は処分対象であるとの事でで申請され、昨日王都からその決定が伝えられたそうです。流石に国軍に対して我等、領軍が口を挟むのは難しく……。」
「ならその分を領から出してやれ。」
「それも駄目です……軍属は軍内以外からの物品等を一切受け取ってはならない上、褒章の類もあくまで国として出すもの以外を受け取った場合、賄賂と看做されると……。言っている事はふざけた内容ではあるのですがこれは軍規として決まっているものでした。」
「ならこのカナオ二等兵に対し我等が出来る事は何も無く、領都を救ってくれた礼1つ衛兵だからという理由で出来ないと?」
「はい、それこそ呼び出しての御礼だけであれば不可能ではないでしょうが、そこに例えば晩餐が含まれると賄賂と取られかねません。さらに問題が1つありまして……。彼女、カナオ二等兵はどうやら休日が存在していないようでして、伯爵様の御礼すら受ける余裕が無いようです。」
「休日が無いだと?」
「はい、領都カウウスの勤務形態は総隊長と副隊長そして各部隊の部隊長と部隊長補佐がそれぞれ決定するもので、総隊長からは彼女が所属する南門部隊は第一から第三の巡回組が2勤2休、第四南門部隊が6勤1休で門番を行っている上、彼女に関して言えば新人でありかつ問題行動が多い為、部隊長が7勤としているようです。」
「あれか、現場の状況に合わせた勤務日程の変更軍規を悪用したやつだな?」
「はい……それも軍規である以上、領軍として口出し出来るものでは無いのと……。」
「解っておる、正しくその軍規を利用している者達にまで迷惑が掛かるというのだろう?」
「はい……我等としては大変心苦しいのですが……。」
その後もカナオに関する調べられた事項がカデーレ伯爵に伝えられる度に伯爵は溜息と共に、頭を抱えていた。
カナオがどういう扱いを受けているのか。
領都でどう見られているのか等全てを知った上で、どの対応もあくまで領として口出し出来ない、というジレンマも含め溜息を漏らす以外出来なかった。
「どうされますか、伯爵……。」
「軍が腐っているとは思ってはいたがここまでか……カナオ二等兵を領軍に引き抜けないか?」
「非常に難しいです、国軍の力を削ぐべくと看做されればそれを問われかねません。」
「なら八方塞がり、領都を救った一衛兵に対し何も領として出来ぬのか……。」
国軍の軍属である衛兵は国に仕える身であり領軍は領主に仕える私兵。
何かしようとしても国・国軍といったものを無視出来ない以上、カナオに対して出来る事は無く伯爵はますます頭を抱えるしかなかった。




