第百三十九話改 肉体で語る男 その1
「納得いきません!」
「納得いこうがいくまいがそもそもこれは模範試合にゃす。受験者1人1人が舞台から落ちる度に納得いかないと言われてそれに対応している時間なんて無いにゃす。それより2人して壊してビショビショに濡らした舞台をさっさと元に戻すにゃす、後がつかえているにゃす。」
まぁ私達の試合自体は前座であっメーンイベントではない以上、時間を取らせるのもまずいと思ったのかニャンコさんに諭され舞台を直した後に降りていったアルビオン大佐に変わり上がってきたのは第三騎士隊のカリブルヌス大佐だった。
『続きまして第二試合第三騎士団総隊長カリブルヌス大佐と 第一〇一騎士隊総隊長カナオ伍長の試合となります!』
「ふぁっ!?」
「何を驚いているにゃすか……こういう事にゃすよ?」
模範試合開始前のポイントが第一が33ポイント、第二が12ポイント、第三が27ポイント、第四が35ポイント、第五が33ポイント、第六が30ポイント、第七が28ポイント、第八が29ポイント、第九が37ポイント、そして私が27ポイント。
最下位が指名する制度なので第二のアルビオン大佐が私を指名し勝負は私が勝った為、2ポイント移動して第二が10ポイント、私が29ポイントに増えた事になる。
この時点での最下位が第三になった事で指名権がカリブルヌス大佐に移り、その指名相手が私……。
「休憩なしで行くとかおかしくない!?」
「時間的な余裕が無いにゃす、人気者の定めとして諦めるにゃす。」
「さぁ!我と先程の力で存分に戦おうぞ!」
「やだよ……あれ見た目が正直好きじゃないし……。」
まだ鼠の獣人の姿は鼠の耳と尻尾以外人族だし思い入れがあるけど流石にオーガの姿は好きじゃない。
角は生えるし、体色は赤くなるし、牙は生えるし爪も長くなるし、何より顔が怖くなる……。
「勿体ない!」
「女性としてはなりたいとは思わない姿だからね、男性には解り得ないかもしれないものだよ……。」
「だが我のこの筋肉の前にそう言っていられるかな?」
この脳筋大佐め……筋肉だけが全てでは無いというのに……。
『時間がないにゃすからさっさと開始位置に立つにゃす。』
『さぁ、いよいよ始まります!力こそが我!我こそが力!揚重機型魔導鎧【フォルティスI・グルス】を扱う第三騎士隊総隊長カリブルヌス大佐!それと真逆な素早さ最重視!逃げ足差し足忍び足と足「だけ」には自信が多分ありそうなカナオ伍長の試合がついに始まります!』
『悪意満載な紹介有り難う、チルタフ。次の年給査定、覚悟しておきなさい。』
『やった!ありがとうございます!!』
『……………。』
司会も司会で変な人達……。
『それでは模範試合第二試合!第三騎士隊総隊長カリブルヌス大佐対第一〇一騎士隊総隊長カナオ伍長の試合……始めるにゃす!!』
『【身体強化】!【精神強化】!【八臂】!【速疾鬼】!【独鈷杵】からのぉ【金剛拳】!』
お互いが一気に距離を詰めての真っ向からの叩き合い!カリブルヌス大佐が【金剛拳】を上から大きな左右の手で私を掴みに来たところで右拳を止め、逆の左拳を繰り出すように身体を捻って避けようとした。
素早さで言えばお互い距離を詰める所からして少々ドタドタした走りだったカリブルヌス大佐の手から余裕で逃げられる、と思っていたのだけど……。
『なっ!?』
急に手の動きが速くなり、そのまま私は開いた身体を掴まれそうになるも左拳を切り換えし、手の甲を殴り身体の動きを殺さないよう、大佐の背中側へと逃げた。
『ぬぅ……これではまだ追いつかぬか……。』
『これはこれは……大層な肉襦袢体形かと思えば瞬間的にそこまで速くなるとはね。』
カリブルヌス大佐は筋肉隆々なだけに見た目が重そうな感じがしていたけど今ので訂正だ、私ほどでは無いものの思った以上に速度も出せる……。
『逃げてばかりでは我には勝てぬぞ!』
『だからといって捕まるつもりは毛頭ないよ!』
出来れば力勝負はしたくないとヒットアンドアウェイで隙を作り攻撃を叩きこもう、そんな考えをしていた私の想像を大佐は超えてきた。
『ならばこれでどうだ!!』
突如大佐の魔導軽鎧の外側全てが炎に包まると共にさらに速度を上げ、私を掴みに来た。
それも移動速度、掴みに来る手とその全てがこれまでよりもさらに速い!
『ふわははは!まさかこの身体でここまで動けるとは思っても居なかったか!?随分と舐められたものだが果たして避け切れるや否や!!』
大分厳しい。
速度的なものではなく恐らく経験則から来るものなのかもしれない、私の手の先の先まで読んだかのように手や足を出してくるから私の動きが次第に抑え込まれるようになってきた。
大佐が燃えてから10数秒、ついに私は足を掴まれた……。
『捕まえたぞ?鼠の如くチョロチョロと逃げ回るもこれで仕舞いだ!』
足に魔導軽鎧を超えるような熱さを感じる中、そのまま持ち上げられ、舞台へと一気に叩きつけられる!
『がぁっ!?』
『先程の姿になるには魔導軽鎧を脱がねばならないようだがこれでは脱ぐ事すら能わないであろう!!』
頭から舞台に叩きつけられたかと思えばそのまま大佐は決して手を離さない。
次々と私は舞台に叩きつけられる中、徐々にその戦い方のえげつなさを体感していった。
しっかりと足は掴みながら全身に纏った魔法の火でジリジリと魔導軽鎧の中を焼きつつ叩きつけ方にも胴が据わっている、何しろ叩きつけた際にしっかりともう片方の肘を振り下ろし、追撃をきっちり入れてくるだけでなく私が振りあげようとした手や足を封じるように落としてくる。
それもほぼ先読みに近い、私の動きを見てから動けば私の方が速いのだから止められない筈……だけど見えた姿は私の動き出しとほぼ同時位には動いていて、それを折り込んだ上で動こうとすると先回りされるような感覚が延々と続いたからだ。
『ならこれなら読めまい!【鉄輪】!同時に【パルウス】!』
大佐の身体の周囲に【鉄輪】を出すと共にそのまま小さくして身体を締め付けにいった、危険を察知したのか私を瞬時に手放し、そのまま【鉄輪】を内側から両手で掴むように堪えた。
『良い能力を持っているでは無いか!だが我にこれが通用すると本気で思っているか!?』
『それは破壊は出来ないよ!』
『それこそ吉左右!この金属のような輪は大きさこそ変わりはしても、決して歪みはしないのだろう?ならばこうして内より耐えている以上小さくはなりはしないだろう!!』
いっやぁ……そこまでは正直解らない、少なくとも【鉄輪】は大佐を殺してしまわないように、ある程度の小ささになるように指定しているし多分、腕は折れるだろうけどそのまま潰される事にはならない。
しかしどうみても【鉄輪】は大佐が腕で止めた状態から小さくなっていかない以上、【鉄輪】の縮む力よりも大佐の耐える力の方が強く、大佐の言う通りの状態で維持されている……そして大佐はそのまま掴んでいる【鉄輪】を身体から外すように持ち上げていく中、私はその隙を突くように【金剛拳】を素早く叩き込んでいった。
それは十分に威力がある、と私は判断していた、何しろ魔導軽鎧に罅が入り始めていたからだ。
『笑止!蚊にも劣りしその拳など妨害にすらなりはせぬ!!』
そのまま大佐は【鉄輪】を真上へと放り投げるように脱した所で【鉄輪】は小さくなった、それを目で追ってしまった私も悪かった……。
カウンターのように私の身体に大佐の拳が1つ入っただけで魔導軽鎧が軽く内側に大きく拉げると共に私は鎧に圧迫された事で苦しくなり、脱ぐしかなくなった……。




