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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第七章 序列入替戦編 二期目
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第百三十七話改 美魔女の賢者 その2

  『さぁっ!観客!もとい受験者達の大きな声援に舞台が包まれる中、いよいよ模範試合の開始です!』


「まぁ言うまでも無いにゃすがやり過ぎないようにするにゃす、ただでされ戦争の影響で今年は税収が落ち込んで思った程の予算が取れないにゃす。やり過ぎた場合の補修費用は各隊の予算から取るにゃす。」


「むぅ……近衛法務騎士隊に借金がある手前これ以上予算減らされたらやってけなくなる……。」


「あら、手加減なさって勝てるとでも思われているのかしら。」

「アルビオン大佐、悪いにゃすけど軍の維持費は臣民の血税から捻出されているにゃす……そうやって煽るのは止めてもらえないにゃすかね?今日は御父上であられる『セネクス大元帥』も観戦しているにゃすよ?」

「あらあら、父上が観戦しているのなら尚の事。頑張るものではありませんか?」


 まぁ年齢に触れてはいけないという理由はもうお分かりだろうか。

 ヨボ爺の娘さん、現王セネガル元帥のお姉さんです……。


 しかし見た目はまだ20代、と言われれば余裕でいける若々しい肌とその美貌に観戦者たる受験者からはまぁ大声援が飛んできているけど正体を知ったらどれだけ驚くんだろうね……。


 なんでも社交界にすら出る事無く幼い頃からヨボ爺の背中を見て育ち、軍属を志した事で元王族だと知る人は殆ど居ないのだとか。

 まぁ元王族として扱われるのも嫌なのだそうで、それこそ「知る人ぞ知る」という事になる。


 なら何故私が知るかって?そりゃあねぇ……。


「ふふ……カナオにはシャンプーなんかを売ってもらうようになってから髪がこの通りサラサラで指が引っ掛かる事も無くなったのよ?」


 ええ、美魔女の賢者だからです、はい。


「だけどそれはそれ、これはこれ、ここで序列の殿を引くとか私には堪えられないわ。だからカナオ、ここで負けてもらうわよ?」


「全勝しても第四か第五じゃないですかー、第二には戻れませんよ?」


「ふふ……全勝すれば誰よりも強いって事になるわね?」

「そう言われて『はい、そうですか』とは言えないんでね……こちらにも負けられない理由(予算)というものがあるんで。」


 順位的に上を取れればその分、予算が取れる。

 そうニャンコさんに言われた事から今の私はやる気満々だ。


「そう簡単にはいかないわよ?」

「ええ……。」


「はいはい、睨み合いはその位にしておくにゃす。開始戦に戻るにゃす……。」


 舞台の真ん中でバイザーを上げて睨み合う私達をニャンコさんが引き離し、私達は開始戦でバイザーを下げ開始を待った。


  『それでは模範試合第一試合!第二騎士隊総隊長アルビオン大佐対第一〇一騎士隊総隊長カナオ伍長の試合……始めるにゃす!!』


『【身体強化エンハンスドボディ】!【精神強化エンハンスドメンタル】!【八臂はっぴ】!【独鈷杵どっこしょ】!さらに【速疾鬼そくしつき】!』


 【雷電】を除く強化を掛け、距離を保つ。

 魔法を得手とする相手に飛び込むのは早計、距離を取って……。


『あら、賢者相手に距離を取るのは悪手よ?』


 アルビオン大佐が舐めるように水平に杖をゆっくりと振るうと無数の水の球が現れると同時に全てが不規則に飛び、私に襲い掛かり始めた。


『一番嫌な攻め方してくるねっ!!』


 魔導軽鎧の最も相性の悪い属性は水属性だ。

 気密性が高すぎると呼吸が出来なくなる為、ある程度は顔の辺り等に隙間もあったりする。


 ただ水が飛んでくるだけ、と考えられるなら良いのだけど水属性魔法の嫌な所はその派生として氷魔法に発展出来る事だ。


 顔などに当てても水圧による痛みは当然あるけどそのまま当てると共に氷属性に発展させると凍らせる事が出来る為に相性が悪いとされている。


『相手が嫌がる事をするのが戦いの基本でしょ?』

『至言過ぎて反論のしようが無いね!!』


 本当の事なのだからそうしか言いようがない。

 そして当然、私だって当てられるのだって嫌だけど凍らされるとかもっと嫌だ。


『なんて思ってたらさらにパワーアップしてきたぁぁぁぁぁ!!』


 水の球は不規則に飛ぶだけでなく追いかけてくるし、さらに氷柱のようなものまで飛んでくる始末。


『絶対殺しにかかってるとしか思えない!!』

『あら、ちゃんと臓器と頭だけは避けているわよ?』

『安心できる材料に聞こえない!?』


 これは逃げていても埒があかない、と私は逃げから反転、構えを取った。


『【金剛拳】!からの【勇魚いさな】!!』


 飛んできた水球へと【独鈷杵どっこしょ】を握った拳で殴る瞬間【勇魚いさな】を発動させ飛んできた水球を鯨の形へと変え、アルビオン大佐へと返していく!一応水があれば作れるからね!


『なら全てを氷にしてしまえばいかがかしら?』


 水球が全て凍り付き、氷柱と氷球が乱れ飛んでくる!『水が凍っているなら岩を使えば良いだけの事!【勇魚いさな岩】!!』


 今度は舞台そのものが石である事を利用して鯨の形に変え、飛んでくる氷柱と氷球を受ける壁にする!


 ただチラっと審判役のニャンコさんの顔を見たけど絶対後で修理費請求する、って顔してるなぁ……っていうかアルビオン大佐に直してもらえば良い気がするんだけど……。


『あはははは!これは楽しいわね!』

『防戦一方の私に楽しい所なんて微塵もないよ!?』


 流石若くして軍属入りを決めたデビュタントすらしなかっただけあるのか……戦闘狂臭というのか、それともS属性あたりでも持っていそうな位に嬉しそうに、楽しそうに次々と魔法を放ってくる!!


 だけどこちらも負けるつもりはない!危機察知能力が【勇魚いさな岩】の前鰭まえびれと身体の隙間に限らずうねの間などから次々と小さな水球が回り込むように飛んでくるのすら察知し、次々と躱してはとにかく水球や氷柱、氷球についているアルビオン大佐の魔力の糸を切っていく。


 追尾型の魔法の正体は放った際に細くした魔力の糸を繋いだままにする事で操作するものだから、こうする事で操作が出来なくなり、脅威では無くなる。


 ただ完全な後手に回されているのが否めない上にやはり賢者の名を冠するだけあって魔力量に絶対的な自信があるのだろう、とにかく飛んでくる数が多い!!


『こりゃ参ったね……。』


 接近は許さない中長距離からの魔法、そして数で押してこられると魔導鎧以外は近接戦闘が主体の私には中々に不利だ。


『能力を隠している場合じゃなさそうだね!【乱れ勇魚いさな】!!』


 飛んでくる小さな水球全ての拳を叩き込み今度は鯨では無くイルカにジンベエザメの形へと変えてそのままアルビオン大佐へとお返ししていく!


 勇魚いさなは主に鯨を指す言葉ではあるもののイルカやジンベイザメも勇魚いさなとも呼び、さらには「えびす」とも呼ぶ。

 私の持つ七神、七福神が一柱である恵比寿様の力だ!


  『おおっと!ここまでアルビオン大佐の一方的な攻撃から今度は舞台の上を飛び跳ねる水で出来た魔物のようなものがアルビオン大佐へと襲い掛かり始めた!』


『さらに【打ち出の小槌】!』


 こちらも七福神が一柱、大黒天様の持つ槌だけど実際は私が持つには少々大きく、軽く肩に担ぐ程度の大きさがある。


『私が求めるは水!【乱れ勇魚いさな】!!』


 当然名前からして【打ち出の小槌】なのだから欲しいものなどの願い事を唱えて振ると願いどおりの物が現れる効果を持つ、求めたのは水!そして水を全てイルカにジンベエザメへと変えて撃ち込まれている水球等よりもこちらの手数の方を増やしていく!


 但し欠点は当然あるけど気が付く事は無い筈、【打ち出の小槌】は望んだものを心のままに出す事が出来る、とされているけどまぁ出せないものもそれなりにある。


 ガングロ駄神!とか叫びながら振っても出てはくれない、あとは既に亡くなった人とか人そのものとかも無理だけど牛!とか馬!とか叫べば出てくる変わりに鐘の音が聞こえるとその全てが消え失せる、世の中そう甘くは無いという事ではあるけど、それに気が付いたら奇跡でしかない。


『【乱れ勇魚いさな】!』


 ここまで来ると最早ただの水の撃ち合いだ、片や水球、氷球、氷柱を放ち、私は水のイルカにジンベエザメを出す。


 イルカは飛び跳ね、アルビオン大佐に襲い掛かりジンベエザメは巨大な口を開け、水球、氷球、氷柱を飲み込んでいく、魔力の糸さえ切れれば良いのだからこれで十分だ!


  『そこまでにゃす!一旦止めるにゃす!!』


『……え?』

『……何故ここで止めるのですか?』


 ほぼ互角の打ち合い、いや。

 少し私が押しに掛かりだした所で止められてしまった。


  『二人共周りを見るにゃす……どこから水を出しているか知らないにゃすが舞台の上も下もびしょ濡れで排水が間に合わないにゃす……。』


『あ……。』


 水属性魔法の場合は大気中の水分を集め、作り出すから最終的には大気に戻っていく事になる。

 だけど【打ち出の小槌】の水は何も無い所から出てくる……。


 それも私達の攻撃が観戦者に向かわないように結界が張られている為、舞台の下に水が流れ溜まった結果、プールのようになっていた……。


 イルカにジンベエザメとしてアルビオン大佐に襲い掛かった【勇魚いさな】達が攻撃を防がれたりして水に戻った事で出来たものだ……。


『良い案だと思ったんだけどなぁ……。』


 悲しくもここで私は【収納袋】から鐘を取り出し自ら水を消す事で排水すると共に【勇魚いさな】達の欠点を自ら露呈させる羽目になったのだった……。

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