第百三十五話改 騎士の嗜み その2
次の競技者は第二アルビオン大佐、しゃなりしゃなりと歩きながら開始位置につくも持っているのは投げ槍では無くご自身の杖……。
槍じゃないし何より投げても居ない、何しろ魔力を籠めた杖を水平に飛ばして一直線に的を貫通させ映像ではミスリィルまで貫通している所が映っていた。
『えー、百歩譲って杖を槍として扱ったとするにゃす……穂先が無いのでどこまで貫通したのか判断出来ない為、0ポイントとして扱うにゃす。』
それでも命中しなかった扱いにならないだけマシなのかな?柄の木や穂先の鉄等はそもそも魔力の伝導率が良くない為、恐らく同じ事をした所で刺さったかどうかが怪しい。
なにしろアルビオン大佐自体かなりの細身でボンキュボンなお方、力と言うよりは魔法全振りって感じだし?ただそれでも観客状態になっている受験者の男性共の湧きあがりっぷりに満更でもないご様子。
「ここは我の得手とする所!」
そして次が第三カリブルヌス大佐、まぁ筋骨隆々、アルビオン大佐とは真逆で力全振りって感じだから期待値は高いものの周囲から全く声が上がらない辺りが少々可哀想に思える。
「ふんっ!」
「おおおおお!」
投げた槍はほぼ水平、とんでもない速度で的に刺さった結果……魔木は疎か、ミスリィルまでしっかり貫通、流石にオリハルコンには魔力が通らないからかガッチリと止められ合計12ポイント。
しかしこれは魔力も決して侮れない量があり槍に纏わせたという事と【身体強化】も最大限効果を発揮させたと考えたとしても……普通のウェルトゥムでミスリィルを貫くとか規格外すぎ、流石元ディジトの総隊長補佐として支えてきたのは伊達では無い、って所かなぁ……。
しかしその後もそれは続いた、第四フルカ大佐はこれは魔法なのか解らなかったけど腕の関節がまるで無いかのように腕を撓らせながらの投擲、さらに第五アーラ大佐も助走を長めにとっての投擲であと少しでミスリィルを貫き通すだろう所で穂先が止まり共に10ポイント。
第六インサニア大佐と第七サイヌス大佐は魔力の籠めが恐らく足りなかったのだろう、魔木を貫ききれずに8ポイント、第八アルゼンタム大佐は魔木をしっかり貫き10ポイント、第九アクィラ大佐は黄銅を貫ききれず6ポイントで終わった所で私の投擲順番がやってきた。
ここで私はウェルトゥムではなくピルムパタの方を選択した。
ダーツの原型とも呼ばれ、元々は軍属が遊びで酒樽に矢を当てていたものの酒樽が決して安くない為、代わりに木を切って年輪に向けて矢を射り、それが手でも投げやすい形に改良されたものである事から当然、穂先が小さく短い分刺さり難い事になる。
しかし普通に刺すならの話だ、私はこのピルムパタにとにかく濃密な魔力を籠めた上でさらにその周囲にも濃密な魔力を纏わせ、とにかく威力を高める事で、穂先処かピルムパタ全体をそのまま強度を上げる事にした。
「おいおい、そんなもんで貫通する訳ねぇだろ。重量が足りな過ぎて無理だろ。」
まぁ、そう言われれば確かに、貫通力。
物体を貫く力を示すのに弾丸重量/弾径がある、銃弾で言えば弾の大きさで威力を上げて先端を鋭く尖らせる事で貫通力が高まる。
ウェルトゥムとピルムパタなら形状的にはピルムパタの方がより尖っているので貫通力そのものは増す、魔力をいくら籠めても物質の重量が軽い分は補えない。
なら出来る事は2つある、1つはピルムパタをそのまま投げずに捻じるように投げる。
弾丸が銃身を通る際、中にあるライフリングによって銃身内で加速させる銃弾に旋回運動を与えてジャイロ効果によって弾軸の安定を図ると共に直進性を高める事が出来る。
まずそれを手からリリースした後、纏った魔力を吹き出させて旋回運動を与えてやる事と同じに【ストーンスキン】を発動させる、ヨボ爺が使っていた事から習得したこの魔法は表面だけが石のように硬くなるだけでなく重量そのものが増すからだ。
石はそもそも鉱物質の塊なので何も岩石鉱石に限らず鉱物そのものに変えても良い事になるけど、その分必要な魔力量が格段に増える。
【ストーンスキン】を【アイアンスキン】にすると魔力消費量が3倍に跳ね上がる、これは比重・密度に比例する為なので最も比重の高いのはイリジウムかオスミウムだ。
これは同位体によって比重が変わる為なのだけど同位体については「中性子数が異なる原子核の関係」なんだけど細かく話すと長くなるので省略。
高校生くらいであれば、東日本大震災の後に解りやすく教えるようになったらしいので多分その位には知る事に……。
「出来れば魔法数の鉱物の方が魔力とは相性が良いんだけど……贅沢は言ってられないか、オスミウムでいこう。」
そして私は魔力を精一杯圧縮して濃度を限界まで上げ、そのままピルムパタへと籠め、一気に的に向かって投げる!
「はぁぁぁぁ!!」
そのまま魔力の線で繋いだ状態で纏わせた魔力を細かく旋回運動を起こすように放出!そして……。
「【オスミウムスキン!】」
と、同時にピルムパタが爆発した!!
「あっ!」
すぐに爆発したピルムパタの周囲を簡単な結界で覆い【ゴミ袋】を出して全体を袋に入れてから解除、そのまま縛って消滅させた事で事なきを得たもののついつい失念していた事があった。
金属であるオスミウム自体は無害だけど実は自然発火する可能性がある……一度火が付くと薄い魔力ならいざ知らず、濃い魔力だと火が呼び水となって火属性魔法に発展、それによってたった今魔力爆発を起こしてしまったのです。
さらには毒性が強い為に即時【ゴミ袋】に閉じ込め処分、濃い魔力と言えど、ピルムパタが小さい為【マギ・ピュロボルス】に比べれば可愛い爆発だけど吸い込んでしまうと肺や皮膚、目をやってしまう事までをも失念していた……。
『的に当たらなかったのでマイナス5ポイント。』
「で、ですよねぇ……。」
イリジウムは天然ものなら良いのだけど人工的に作ったイリジウムは放射線を出す為、危険だと判断、だからこそオスミウムにしたのだけど失敗した……超硬合金辺りで妥協しておけば良かった。
『以上で第二競技の終了、現在の順位は……第七、第八、第九が16ポイントで同率1位。 第四、第五が15ポイントで同率4位。第六が13ポイントで6位、第三が12ポイントで7位。第一が10ポイントで8位、第二が7ポイントで9位。そして第一〇一が5ポイントで10位です……。』
「のぉぉぉぉぉ!トップから一気に最下位転落!」
愕然とする私の肩にアクィラ大佐がポンと手を置いた。
「第九騎士隊はあんたのもんでヤンス、デュプレに追われる気分だけでも十分に味わってくるでヤンスよ?」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!間に挟まれるより端っこの第一〇一の方がまだマシぃぃぃ!!」
『それではここで御高齢となられた現槍投げ世界王者であられるセネクス・オブ・フォルティッシムス大元帥による模範投擲を行います。』
「はい?」
「元帥でヤンスと!?」
世界王者?……現役??あんなヨボヨボしてるのに???
そして普通のウェルトゥムをよろけながら持ちつつ投擲もまぁ届かないであろうと思われる程にヘロヘロした投げ方だったにも係わらず……ヘロヘロのまま的まで届いた挙句にオリハルコンまで貫き見ていた全員の度肝を抜いたもののどうやって貫いたのか誰にも解らなかった為、模範になったのかと言われるとならなかったと言わざるを得ない……っていうかヨボ爺凄っ!