第百三十二話改 魔法の世界の短距離走
『さぁ!いよいよ始まろうとしています! 史上初!ディジトのトップである【テッラ・レグヌム・ノウェム】と 近年新設された唯一のトレスたる第一〇一騎士隊のトップである合計10人で行われるディジトヌメルスを賭けた世紀の戦いが今ここに始まろうとしております!司会はこの私!フォルティッシムス王国ルスキニア歌唱隊の副隊長、チルタフと!』
『おっす!オラ、チルタフ!』
『……………チウロイ隊長でお送りします……っていうかいい加減ふざけるの止めてもらえませんか!?いくら隊長だからってやって良い事と悪い事位解らないのですか!?』
『私、隊長。貴方、副隊長。それも人気投票で隊長は決まるの。私、人気。貴方、人気無い。アゲアゲ?』
『なんで隊長にそこまで言われないといけないのですか!!え?音声が流れっぱなし?………失礼しました!!それでは第一競技、1000メートル走についてご説明します!』
『誤魔化せていないのだけど?』
『さぁ!無視して進めましょう!短距離走と言えば未成年は100メートル走!成人は400メートル走が最も有名ですが軍や冒険者の間では1000メートル走の方が一般的とされています!
その駆ける速度は馬よりも速く1分と掛からず決着が付くのみならず短時間の魔力消費量の競い合いと言う騎士にとってはまさに花形競技!それでは参加選手の紹介にまいりましょう!』
『みんな知ってるよね?』
『知らない人も居るかもしれないじゃないですか!まずディジトの頂点、9人の総隊長からなる【テッラ・レグヌム・9】の方々からです!最初は第一騎士隊総隊長、イケメン、細マッチョ、高身長と女性が見惚れぬ要因一切無し!手空拳を極めたイーオン大佐!』
『これ競争に必要な紹介?』
『……次は白い肌、その荘厳なる姿は世の男性達が見惚れる事間違いなし!数多の魔法を使いこなす賢人、第二騎士隊総隊長、アルビオン大佐!』
『これ1000メートル走だよね?使うのって【身体強化】だけじゃない?』
『……次は筋骨隆々、力では【テッラ・レグヌム・9】ナンバー1!第三騎士隊総隊長、カリブルヌス大佐!』
『女性は見惚れないの?』
『……次は死の騎士隊とも恐れられる第四騎士隊総隊長!細身から繰り出される鎌から逃れる術は果たしてあるのだろうか!フルカ大佐です!』
『1000メートル走に鎌は流石に邪魔では?』
『……次は天使の翼を持つとされる槍の突撃姫!騎士団内ではファンも多い第五騎士隊総隊長、アーラ大佐!』
『やり投げ?』
『……次は狂気の先を狙い撃つ魔導拳銃の使い手!第六騎士隊総隊長、インサニア大佐!』
『何か悪意を感じる紹介……。』
『……俺と書いて「おい」「おいどん」と呼称し「ごわす」で締める人間砲塔!第七騎士隊総隊長、サイヌス大佐!』
『あんこ型ですが動ける〇ブです!』
『……次は女性騎士の憧れ!その軽やかな肢体から繰り出される【弾丸】は男性のハートを狙い撃ち!第八騎士隊総隊長、アルゼンタム大佐!』
『それ狙い撃ったら駄目な奴、もうちょっとマシなコメントなかったの?』
『……次は小柄でもそれを活かした素早さで相手に貼りつき全てを爆破するピュロボルスの神!第九騎士隊総隊長、アクィラ大佐!』
『悪魔の間違いじゃない?』
『……そして最後!何故彼女はここに居るのか!テッラ・レグヌム騎士団初のトレス総隊長!さらには下士官最底辺たる伍長がここに並ぶなど誰が許したのか!第一〇一騎士隊総隊長!カナオ伍長!』
『チルタフ、この紹介文全部貴方だけの主観よね?』
『以上10名で競われる1000メートル走!果たして勝つのは9名のうち誰になるのか!それでは下馬評を見てみましょう!!中々票が割れているようですがいかがでしょう、チルロイ隊長。』
『下馬評?なんでそんなものがあるの?これは入隊の実技試験の1つであり参考記録を取る為のものでディジトヌメルスを賭けたのは「たまたま」だよね?なんで下馬評なんてものが既にあるの?』
『え?それはその……えーっと……いよいよ出走です!!』
一部の内容に悪意があるのもそうだけどここまで来て誤魔化してる……。
っていうかもしかしてこれ予定調和の突発風イベントなんじゃ……。
ふと見るとヨボ爺がニコニコしながら見ている辺りとか超犯人臭い、というかその位の権限が無いと出来ないよね??特に将官はここ2か月くらいの間に大体淘汰されたらしく全体の7割近くは入れ替わった、とも聞いている。
「また何かの材料として使われてるんだ……。」
「ディジトヌメルスがいくら変わろうとやる事に変わりは無い、そうであろう?カナオ伍長。それにディジトかデュプレかトレスだなど、ただの数字であって国を守る事に変わりなど無いのだからな。」
「そうは言うがイーオン、天辺にいるてめぇが言う事じゃねぇだろ。どうでも良いなら黙って第九騎士隊になっとけよ。」
「ははは!たとえ遊びであっても手は抜かない。それが第一のトップたる俺がする、不変の事実だ。」
「ならここで引き摺り下ろしてやるよ……何しろ序列の入れ替えなんざ久しぶりの事だ。これまでは将官に握られていたがこれで入れ替わる。遊びとしちゃ最高だろうが!」
フルカ大佐?それはもう遊びではない気が……。
「いや、遊びであろう?ここには人の命が懸かっていないのだ。なら全てが遊びだ。遊びで無いのは人の命が失われようとしている戦場だけでそれ以外は全てが児戯だ。だが、その児戯を本気でやるか否かは別問題だ。遊びに本気になれぬ者がどうして本番で力を発揮出来ようものか。」
「確かに軍属としては遊びでヤンス、ここに懸かってるのはただの俺等の面子だけでさぁ。」
「そう言われるとそうなのかな……?」
練習と本番を遊びと戦争に置き換えるのは違うと思いつつも確かに人の命が懸かっている訳でも無いこの状況を遊び、と言われればそんな気がしてきた。
何しろ任務と違い、失敗した所で何か問題があるかと言われると多少序列とされるディジトヌメルスが変わるだけ、と言ってしまえばそれだけだ。
「ま、ヨボ爺が何考えてるかは知らないけどさ……ならほぼ全力でやらせてもらおうかね。」
「なんだ、全力じゃねぇのかよ……。」
「全力でやったら気絶するからね!?」
流石に【雷電】を使うつもりはない。
しかしこの時、遊びの中の本気がどれほどなのかをまだまだ私は知る由もなかった……。