第百三十一話改 二期目の始まり
まだ雪解けも終わっていない頃、フォルティッシムス王国の北に位置するテッラ・レグヌム駐屯地では現在10回に分けて各騎士達が希望する隊への入隊の為の筆記・実技試験などが行われている真っ最中。
各国境警備も維持しつつなので試験内容は基本一律となり、その成績を以てしての書類審査、面接の後に各隊で実技試験等を行う場合は行い、夏前には決定となるのだとか。
「で、なんでディジトの総隊長が勢揃いしている上に私まで呼ばれた挙句に実技試験に参加する事になってるのかな?」
何かゼッケンのようなものを渡された番号は0でディジトの総隊長が1~9……10からは試験を受ける受験者用らしいので私が0。
「参考記録を取る為にゃす。」
「そして何故王剣隊がここに居るんですかね?」
「記録係にゃす。」
と、言う事らしい。
ディジトと第一〇一騎士隊は何でも参考記録を取る必要性があるとか、よく解らない理由なんだけど、ようは全力で実技試験に参加する必要があると……呼ばれたのだけどまぁこれがまた酷い……。
「身体にこんな負荷かけて参加するとか異常じゃない?」
参加者は全員魔導軽鎧を着ているのだけど私達は身体に負荷をかける為の魔導具であるアンクルをつけての参加。
それも受験者は魔導軽鎧から魔石を抜いて参加なので全身にかかる負荷は凡そ100キロ程。
それに対して私達に課せられたのが2000キロ、つまり2トン。
当然【身体強化】全開で持たせている訳でこれが切れたら間違いなく全身の肉や骨が大変な事になる、というか間違いなく死ぬと思うんだけど……瞬間的であればまだしも常時2トンは正気の沙汰とは思えない。
「筈なのに皆、楽々準備運動しているのが怖いわぁ……。」
ちなみにこの参考記録、というのはディジトとデュプレの現行騎士の中でも実力差があまりにもあり過ぎる事から受験者の平均値、で割り出してしまうとあまりに低くなる事が予想されている為、大体この位のハンデがあれば「お前らこれだけハンデがあって総隊長の記録にすら届かないとかおかしくね?」と篩にかける為のものなのだというのだけど……。
「20倍って絶対おかしくない?」
と、思ったのだけど大体10倍くらいは普段から負荷をかけているそうで概ね2倍程度、という解釈で20倍なのだとディジトの総隊長基準なのが解せない。
「それでは最初は1000メートル走にゃす!」
1000メートル走、地球でいえば200メートル走くらい。
何しろこの世界では魔法がある上【身体強化】は初歩の魔法なので、まぁ騎士に限らず冒険者と呼ばれる魔物の討伐などを生業とする人達ですら扱える為、魔力量に左右はされるものの、大凡マラソンランナー並に走る事は出来て当然、騎士等だと平均時速50~60キロ位。
短時間ともなれば時速80キロ以上出す事も鍛える事で可能で一応私も1、2分程度であれば時速100キロ以上で走る事が出来る。
時速100キロで100メートル走ると僅か3.6秒で通過する為にこの世界の短距離走は400メートル走と1000メートル走の2つなのです。
ちなみにゴールの計測は地球のように2000分の1までカメラ撮影、なんて事は無く魔導具での計測をするのだけど精度は0.1秒単位が限界なのも400メートル走と1000メートル走の2つになったと所説の1つとして最も有名な説だったりします。
しかもここは駐屯地とかなり広い場所なので1キロ直線コース、ただゴールの計測は身体に取り付けた魔導具でもあるアンクルで計測なので、どちらかというと自転車競技のパーソナルタイマーでの計測に近い感じ。
ゴールで胸を突き出すのなら【乳袋】の出番だけど残念な事に右腕に巻いたアンクルを前に突き出す仕様。
それを10人同時に走る、ちなみに受験者は100人単位だそうです。
「いっやぁ……絶対ビリっぽい……。」
皆、恵体というか何と言うか……勝てそうなのは非常に恰幅の良い第七騎士隊のサイヌス総隊長。
私と似た身の丈なのが第九騎士隊のアクィラ総隊長。
あとは皆手足の長さが有利そうな感じがするというか先程から少々殺気が飛び交っている気がするのは気のせいでしょうかね??
「っていうかさっきから全員バチバチに目から火花飛ばしてません!?これ参考記録取る為なんだよね!?!?」
「何を言っておる。我等ディジトの総隊長が揃い、そしてここに競う舞台がある、折角の機会なのだからここで我等がディジトの枠そのものを競ってもなんらおかしくはないのではないか?」
「はい?」
「カリブルヌスが言いてぇのはここで1番になった奴が第一騎士隊総隊長、最も負けた奴が第九騎士隊総隊長って訳か?」
「そういう事だな、何しろ我等が競う場がそもそも無いのだから入れ替え自体が行われないでは無いか。我は第三騎士隊だが当然狙うのは第一騎士隊の座よ。」
「待ちなさい、カリブルヌス。」
「どうしたアーラ。」
「ここには10人居るのだぞ?」
いや、それもしかして私も数に数えていませんか??
「そういえばそうだな……なら最下位が第一〇一……それだと捻りが無いな。」
いや、捻らなくて良いのでさっさと始めませんかね??
「そうだの、ならば一番になった奴が第0騎士隊総隊長でよかろう!」
「何か巡り巡った結果が第0騎士隊!?」
「むしろ一番ヤバかった奴が第10でいいんじゃねぇでヤンス?」
「アクィラ総隊長、それもうディジトじゃなくてデュプレ!」
「そんな事を言ったら第一〇一なんてトレスでヤンス。」
「第一〇〇騎士隊が無いのに第一〇一騎士隊があるのも変よね?」
「何か話の方向性が逸れ始めてきた……。」
「良いのではないか?第0騎士隊が衛兵の隠語等と後ろ向きなものでは無く、実際にディジトの筆頭にしてしまえば良いのではないか?」
「しかし1ではなく0が筆頭というのはおかしくありませんか?」
「あのー……私を数に数えなければ良いのでは?ディジトの皆様だけで行われれば良いかと……。」
「あ?それはおかしな話だろう。俺達は【フォルティスI】の改良をして貰ったが、ありゃ正直その辺の騎士に乗りこなせるようなもんじゃなかったぜ?特に空飛ぶ機構なんざピーキー過ぎて使いこなすのに時間が掛かった程だ。あれが乗りこなせるだけでも十分過ぎる位だ、ってかてめぇ自己評価が低すぎだろ。」
「えー、あー……。」
まぁツインスティック型のハンドレバーとかロボゲーには必須な訳で、やりまくってたからなんだけど……。
「ならこの10人で0から9までをここで決める、で構わねぇな?」
「え?いや、ちょっ……。」
「意義は無い。」
「わたくしもありませんわ。」
「我も異論ない。」
「良いと思うぞ?」
「俺ぁどうでも良いぜ?上ぇ目指せるんならよ……。」
「俺も構わんでごわす。」
「私もそれで構わぬ。」
「なら決まりでヤンスね。」
「エー……。」
チラっとニャンコさんに目線を送るも「にゃすは関与しないにゃす」とでも言っているかもしれないと思った位の見事な視線逸らしをいただき……誰も止めてくれない謎の競争が今ここに始まるのだった。