第百三十話改 たりないもの
あれから。
私の意識が飛んだのはほんの10数秒だったらしいけど、そのまま【アストルム】が墜落。
砂漠という敷砂が緩衝材となったものの、部分的な破損から逃れる事は出来ずにワンコさんの【FV・ウーヌス】を分離させた後、拘束型へと改良してまずはハルキナの地を目指した。
デシデリウムも後方からやってくるとは思っていなかったようで交戦も已む無しかと思ったところをドルー准将とアシュリンさんの【フォルティス・アーラ】に助けられ、ハルキナ集積所まで辿り着く事が出来た。
「さっすがカナオちゃん!私の【AM・ペルソナ】取り返してきてくれたんだ!」
「いや、超偶然です……あと点検しないと乗れないよ?何が仕掛けられてるか解らないからさ……。」
すぐに【AM・ペルソナ】と【S・リベロ】の総点検を行った後にそれぞれの【フォルティス・アーラ】とドッキングさせ、ドルー准将は【フォルティス・S・リベロアーラ】、アシュリンさんは【フォルティス・AM・ペルソナアーラ】として人工魔石正副吸収供給機構【マギ・アーティフィカル】搭載機化が終わり国境地帯の防備強化が為される事となった。
そのまま【アストルム】の修理を行い、王都へと戻ると共に次は軍の大型倉庫の1つを近衛の名義で貸し切りワンコさんの【フォルティスV】が第一世代機のままなので第三世代機化させる事に時間を費やした。
任務に関してはここからは軍では無く文官たる外交官の仕事なのであくまで情報を渡して終了。
少なくともあれ以降、ワスティタース王国が動いたという話は無く、【フォルティスV】の改修作業が終わった頃……私は足りないものを補うべく、自己鍛錬に励んだ。
「自己鍛錬は解ったにゃすけど、何してるにゃす?」
「座禅による精神を落ち着けつつのイメージトレーニングだから出来れば話しかけたりしないで欲しいんだけど……。」
反射神経を鍛えるとなると感覚と動作のイメージを擦り合わせる反復行動、という事になる。
しかし私には圧倒的に経験が足りないので座禅をして頭の中でのイメージトレーニングに努める。
それ以外ではディジトやデュプレに限らず王都の衛兵さんの訓練に混ざったりしてでもとにかく戦う経験を積まなければならないと思い実践していくも、やはり思う程には上手くいかなかった。
そんな中、デシデリウム帝国に動きがあった。
インテル王国の火災が全て収まったタイミングで防衛ラインを押し上げ、そのまま帝国領としたのだった。
そして問題はここからだ……ここでデシデリウム帝国はフォルティッシムス王国との停戦協定を結びに来たのだ。
その土産が僅か10歳の皇帝であるデシデリウム二十七世の母、先代皇后マイヤラー・インペラートル・デシデリウムの首であり此度の戦争はこのマイヤラーの企てであるとした上でデシデリウム帝国皇帝バー・ロー・インペラートル・デシデリウム二十七世はフォルティッシムス王国と事を構えるつもりはない、とニャンコさんが鼻で笑いながら教えてくれた。
「こんなもの10歳の皇帝が言う訳無いにゃす。美容に固執していた先代皇后が企てたとか腹で茶が沸くにゃす。」
フォルティッシムス王国もこれには応じず戦線維持を決定、春以降デシデリウム帝国の国土を削り少なくともインテル王国の国土は奪い返す予定で決まっているとかでデシデリウムとの戦争はこのまま継続状態になる。
但しフォルティッシムス王国はインテル王国の国土を奪ったとしても歴史的に考え、元々はインテル・イントラ・ワスティタース王国が実は1つの国だった事を鑑み、どちらかに渡す事も考えたもので決してフォルティッシムス王国の国土を増やす等の事でも無く、当然フォルティッシムス王国は2割が一度はデシデリウムの手に落ちた、その弔い合戦をもいずれ行う為の戦線維持となった。
それでも春を迎えれば……まずは春には軍部の立て直しがある、これを終わらせなければフォルティッシムス王国としても軍がまず正常な状態に戻っていない以上はデシデリウムとやりあうのは得策ではない、と判断した事で、まず私達は春先の全ての騎士隊に対し大幅な昇格と降格人事を乗り越える所から始めなければならない。
ディジトであろうとデュプレであろうと公平公正に行い、自らの家族は最後に支援する、これを破れば来季初春この国軍には居場所は無くなる、その評価が今現在行われていて、春には大改革が為される。
デュプレからディジトへの移動や大幅な階級変更、その例に第一〇一騎士隊も漏れず希望者に対する面接と実技試験の準備もしなければならず、意外と私は総隊長としてやる事が多い割に私以外は未だ国境戦線の維持に出たまま、という多忙な日々を送り続けていた……。
それ以外にも春を前に新造された第三世代魔導鎧の点検等、国立研究所関連の仕事もあったりと【雷電】を使いこなす為の自己鍛錬は思った程時間が避けなかったものの発想の転換から【アストルム】の強化へと舵を取った。
ヒントとしたのはワンコ少将の【フォルティスV】だ、足りない部分を【フォルティスV】のように接続して補わせよう、と合間を見てその為の装備等を作っていく中、一番心配したのはアラカンド少尉以下第二大隊21名の事だ。
彼等はこの春、第一〇一騎士隊への再所属の為に試験を受けに来る事になっていて、それで不合格だった場合は第0騎士隊、つまり衛兵にまで落ちる事が決まっている。
騎士と衛兵では警察で言う交番・駐在所勤務と所轄署勤務位違いデュプレとディジトが所轄と都道府県の警察本部勤務位の違いがある感じだろうか。
元々第五騎士隊の彼等が衛兵落ちはまた上がってくる機会はこれからも設けられるようにはなっていくだろうけど戻ってくるまで最短でも一年、同じ立場にまでともなれば数年は余裕で掛かる気がする。
それと第一〇一騎士隊に戻ってくるつもりであるならば、恐らくもう二度と機会は無いだろう。
「何しろもう目の前に山積みなんだからね……。」
私の机の上には第一〇一騎士隊への入隊希望者の資料が山に積まれている。
それもデュプレから来るのは当然ながらディジトからだけではなく、上級学校の本年度卒業予定者からすら来ているのだ。
「まぁ……第三世代機に乗れるからね……。」
第一〇一騎士隊の魔導鎧と魔導軽鎧は第三世代しか無い、ディジトも春までには多くが第三世代化され、ほぼほぼ揃う予定になっているのだけどディジトは競争率が高い。
しかも希望出来るのは1カ所だけなのだから唯一のトレスが穴場と思われたのかは解らないけど、まぁ希望されている方が多いのなんの。
いや、多分ディジトの方がもっと多い筈。
だってフォルティッシムス王国の軍属は騎士だけでも3万人以上居て、ここにあるだけで恐らく1割程度、むしろこれでデュプレを希望する方がおかしい訳でそうなれば9割がディジト希望だろうから少ないと言えば少ない筈だ……。
「何言ってるにゃすか?ディジトは9つしか騎士隊が無いにゃすから第一〇一騎士隊を入れたら丁度一割づつにゃすよ?」
「そう言われるとそうなのかな……。」
「そりゃそうにゃす、何しろ大元帥の管轄隊はここだけにゃす。それとディジトも希望を出すにゃすからここを目指してくる人も居る筈にゃすよ?」
「ほっほぅ、その真意は?」
「第三世代魔導鎧に乗れるからじゃないにゃすかね?」
「やっぱそれなんだ……。」
「だけどチャンスはチャンスにゃす、これまで少なかった連隊規模である騎士隊の人数が一気に増やせる機会にゃすよ?」
「そうだね……。」
必ずしも連隊枠344人分を埋めなければならない、とは決まっていないのだけど、少なくとも希望の願書類から1割はこの第一〇一騎士隊の隊員となる人達が出る可能性がある。
連隊規模ともなれば、行動の幅も広がれば任務内容も変わってくる。
「一緒に管理も大変になるにゃす、それと魔導鎧と魔導軽鎧。今の量じゃ全く足りない筈にゃす、頑張るにゃすよ?」
「え?」
そう言われて気が付いた。
この春、300人近くもし増えた場合その分の魔導鎧と魔導軽鎧を増やさなければならない……。
「……予算は?」
「春の予算割り当てが来るまである訳無いにゃす……。」
「……マジデッ!?」
予算の決定も春、だそうで少なくともこれまでの認められていなかった分も予算割り当てが来るらしいけどそれまでは動きようがない上に、近衛法務騎士隊からの借款分も考えると、頭が痛くなってきたのだった……。