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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第十三話改 衛兵さん、冒険者の尻拭いをする。 後編

 逃げている5人組……見た目からして冒険者。

 いや、間違いなく冒険者だ。


 そりゃ衛兵3か月もやってれば顔の1つや2つ覚える事もある訳で。


 ありゃ【希望の幸運(スぺス・フォルトゥナ)】とかいう冒険者のPTだね。

 確か冒険者ランクはCだった筈。


 中の上で手を出すにはちょっと早いね。


 最低でもB、出来ればAランク以上じゃないとそいつは硬くて歯が立たないけど益獣だから冒険者ギルドがつけるのランドタートルの魔物とランクもCと低い。


 俺達ならやれる!とか意気って挑んで砕けた感じかな?どうやら卵も持って無さそうだし……。


「【羅索けんじゃく】!」

 まだ私からは距離が遠いけど、5人がどこに居るかが解れば問題ない。

 【羅索】で全部を縛りつけるのは難しいけど足1本程度なら、きつく縛って足止めの1つ位は出来る!と縄を放ち投げると、そのまま羅索は左の前足へと絡みつき一気に絞り上げるように絡みついた事で足並みが上手く揃わずランドタートルがバランスを崩し、前のめりに倒れ込んだ。


「【身体強化エンハンスドボディ】!」


 王都の図書館で学べた数少ない魔法の中から私が最も最大限引き出せる魔法はこれ。


 筋力だけでなく、脚力も引き上げて迅速に彼等への距離を詰めていく中、私の予想が外れた。


 【羅索】で左前脚が上手く動かない事で倒れ込んだランドタートルになんと冒険者達が攻撃を始めたのだ。


「逃げてたくせに、優勢になったと勘違いして反撃!?こりゃ性質が悪いね!」


 ランドタートルは甲羅だけでは無く、皮膚も硬い。

 自主的に襲ってこないからランクが低いだけでCランクの力で何とか出来るのであれば苦労はしないってのに……。


「左手に【独鈷杵どっこしょ】!右手に【五鈷杵ごこしょ】!」


 私に力をくれた弁才天様が持つ8武器の1つ、長杵こと【金剛杵こんごうしょ】と呼ばれる握りである柄の左右に短い刃が付いた武器で刃の本数が1枚の物を【独鈷杵どっこしょ】と呼び、3枚の物を【三鈷杵さんこしょ】、5枚のものを【五鈷杵ごこしょ】と呼ぶのです。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 地下足袋を履いて袋の力を借り【身体強化エンハンスドボディ】で自らを強化した私の足でやっと5人とランドタートルに割り込むように入る事が出来た。


「誰だ!」

「【金剛拳】!」


 【金剛杵】は【金剛杵ヴァジュラ】とも呼び、本来は悪魔の首領を倒す為の武器で硬い鉱物、ダイヤモンドを意味するもので握った拳を硬化させる能力が付されている。

 私はその拳で走ってきた勢いそのままにランドタートルを殴り決して足が滑らない地下足袋の力を借りて、ランドタートル1匹分くらいを5人から引き離す事に成功した。


 他にもう1つ使い道があるのだけど冒険者達が近すぎて邪魔過ぎる……。


「こんな領都の近くまで魔物を引っ張ってきておいて多少転んだ程度で反撃!?邪魔だからさっさと街に逃げてなさい!」


「ふっ、ふざけんな!てめぇ衛兵だろ!国軍が俺達の獲物を横取りしやがるのか!」


「何が獲物だ!あんた達冒険者の金の為にランドタートルに手を出して、都合が悪くなれば街へと逃げてきて!住民を怖がらせておいて獲物もへってくりもあるか!すぐに領軍の魔導鎧マギ・アルミスが出てくるからさっさと下がりなさい!下手すれば搭載武器でまとめて吹き飛ばされるよ!!」


「領軍だと!?」

「当たり前だ!ランドタートル舐めてるとっ……。」


 まずった、私の意識が少し冒険者側に寄った事で僅かに反応が遅れたけどランドタートルには警戒しないといけない事柄が1つある。

 こいつは地属性の魔物だけど、火属性をも持っている。

 そして器官の1つに火袋という部位がありそこから炎を吐き出す事が出来る。

 火と土は意外と相性が悪くないからこそ併せ持つ上にその炎もそう遠くまでは飛ばないけど……ここには届く!


「【御守袋】!」


 【五鈷杵ごこしょ】を仕舞い、右手をランドタートルに向けた直後、口がバカっと開いて火を噴いてきた。

 そして右手は今布袋様の【頭陀袋】から生み出した【御守袋】を持っている。


 【御守袋】は名前通り、【御守袋】としての効果がある。

 だけど問題はこれが使い切りである事で連撃などを耐えきる程の効果は持ち合わせていない。


 だからこの後来るであろう攻撃を避ける事は出来なくとも5人に炎が行かないように出来れば、という気持ちで使ったものの、やはり甘くは無かった。


「全員、防御姿勢!っ!?」


 ランドタートルは土属性持ちで土魔法も使ってくる。

 そして来たのは目の前の地面が起伏し、私達を下から突き上げる【土鈍突ソイルブラント】という土魔法だ。


 冒険者達も炎に驚いたのと共に、恐らく腕などで目を覆っていた。

 炎を吐いて、視界を奪った所から威力の高い【土鈍突ソイルブラント】を叩き込んでくるのはランドタートルお得意の連撃、とこういう時にあのガングロ駄神の知識が役立っている割に私も防御が間に合わず、一緒に吹き飛ばされた。


「っつぅ……やってくれるね!」


 しかし状況がかなり不味い。

 炎は防げたけど、全員【土鈍突ソイルブラント】を直撃で食らっていて私以外、全員地面に倒れ込んでいる……。


「私が目指す魔導鎧ロボット乗りはね!人を見捨てたりはしないんだよ!右手左手に【鬼面金剛杵きめんこんごうしょ】!」


 私が新たに出したのは【金剛杵】の柄に鬼面が掘られている片1枚刃の【独鈷杵どっこしょ】で短いナイフのようなものだ。


「今の私にこの場で出来る事はランドタートル(お前)をこの場に足止めし、少しでも時間を持たせる事だ!【精神強化エンハンスドメンタル】!」


 肉体強化と共に、私の精神強化を行う。そしてこれが私が今できる最大の戦い方!


「【雷電】!」


 【金剛杵】は硬い鉱物、ダイヤモンドを意味するけどもう1つ【雷電】と呼ばれる雷を精査に操る力がある。

 と、言うか駄目だね……。

 細かい原理まで全て話すような余裕が無いや……。


 カナオが行っているのは【精神強化エンハンスドメンタル】で頭の回転を上げた上で、電気信号を強制的に運動神経の非常に筋繊維に近い部分から精緻に流し、筋繊維を素早く動かす、といったものだ。


 当然、意識自体が無ければならないもののそれに本来であれば身体がついてこない部分を無理矢理追いつかせる分、これが終わった後カナオの筋繊維は壊れてしまう為、倒れ込むだろう。


 そしてこれは彼女が、かの入学試験で最後の最後。

 時間が無い中、奥の手として使った結果あと5センチ足りなかった上、救護室に運び込まれたという本当の奥の手の1つだった。


 カナオの中にはこの場を退く考えが一切無かった。

 ただただ昔から見ていたロボットヒーロー達の多くが正義の味方であり、それを見てきた彼女がこの異世界でロボット乗りを目指している。


 ならば自らが憧れたその姿を自らが穢す事を許せなかった。

 その動きは流石に街からではそれなりの遠さに細かく見る事は出来ないものの、凄まじい速度でカナオは拳を繰り出し続けた。


 【鬼面金剛杵】による硬化させた拳はランドタートルの表皮を。

 そして甲羅をも次々と痛め、罅割らせていった。


 【金剛杵】は本来鈍器が源流とされていて、インドラ神が持っていた他にいくつかの神が持っていたともされていて雷を精緻に操れる武器であり、この使い方は間違っていない。


 ただ彼女の身体が本来の使い方に追いついていなかった。

 彼女が12歳で国軍科騎士クラスに合格していたら。

 彼女は既に使いこなせるだけの技量があったかもしれない。


 使いこなせない事なんて知っていた。

 だから入学試験の最後の最後に使っていた……。


 あれから3年。

 彼女はまだ使いこなせていなかった。

 だから身体が悲鳴をあげていた。

 だけど今、彼女が止まる事は無かった。

 意識を手放せば、彼等5人が殺されてしまう可能性が高い。


 だからといって、彼等を見捨てるつもりもない。

 運ぶだけの力も無い。

 なら目の前のランドタートルを倒してしまうか領軍が来るまで耐えるだけ……。


 だけどここに衛兵としての悪習が響いた。

 北門の開閉に手間取った北門部隊の衛兵達によって領軍の魔導鎧マギ・アルミスの出動が遅れに遅れ到着した時、ランドタートルは沈黙していた事に領軍は驚いた……。


 ランドタートル、冒険者ギルドの魔物ランクの格付はCランク。

 しかし一度暴れれば生半な冒険者の手では決して倒せない堅牢と火を噴き、土属性魔法を操る厄介な魔物。


 それが沈黙し、その前に膝をついたまま身動き1つしないたった1人の衛兵と、倒れたままの5人の冒険者という姿を見て彼等は思わず手が止まり、唖然としたのだった。


 たった1人の、それも若い女の衛兵が。

 全身から血を拭き出して跪いている姿に誰もが命を賭したとさえ思っていた。


 だが彼女はただの筋断裂で動けないだけだとは暫く誰も気が付く事は無かった事だけがカナオにとって悲しい現実であり、心の中では「さっさと助けろボケ」と悪態をついていたのだった。

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