第百二十九話改 砂漠の山猫 その3
『この弾速に追いつくか!それでこそ強者!』
【フォルティス・モルス】とリュンクスは距離を保ったまま次々と【弾丸】を撃ってくる辺り恐らく【セプテントリオーネスシーカ】による【インファンディビュラム】の弱点と相性の悪さを見抜いてるんだろうな……。
【弾丸】は正直使い捨てだから途中で魔力での操作が途切れた所で真っ直ぐ飛んでいくだけだし失った所で困る事は無い。
だけど【セプテントリオーネスシーカ】は使い捨てでは無いからこそ、遠くまで動かしてしまうとベクトルも何も働いていない状態で無理矢理魔力で繋いで動かしている。
だからこそ魔力の繋がりが途絶えれば落下するだけになる。
私の周囲に飛ばしている分にはすぐに【リーコネクト】すれば済むけど距離があると【リーコネクト】が出来なくなる、細く糸状にした魔力はついた状態では伸ばせるけど新たに伸ばすとなるとそう長く伸ばし飛ばす事が出来ないからだ。
だけど同時に相手の欠点にも繋がる、一式魔導銃全般は【弾丸】が有限である事だ、それも魔導鎧は大体10メートル級で人型形状。
身長が人の6倍程度と解釈して面積は6×6=36倍で体積は6×6×6=216倍になる、通常弾丸を10グラムとしても【弾丸】1つが2キロちょっと位にまで膨れ上がる事になる。
そんなものを大量に魔導鎧に搭載させていたら重さで動けなくなるのだから、そう多くは持ち歩いていない筈で暫く凌げば攻撃は自然と近接物理か近接魔法の2択になる。
なら次に出てくるのは恐らく【大鎌】!
そう思っている中、ついに魔導拳銃を収納し、出してきたのは組立型の【大鎌】だ。
一気に距離を詰め、振るってくる中私は最大限【雷電】の力を発揮して躱し、2本の【ゲミニー・グラディウス】を振いつつ7+1本の【セプテントリオーネスシーカ】を飛ばしまくる。
『良い!実に良いが経験がまだまだ足りていないようだな女ぁ!』
『その経験の足りない女に当たらないようじゃまだまだだね!』
魔導鎧そのものの操縦経験は足りないだろうけどこれでもロボット系のゲームは飽きる事も無くやり続けてきたんだからね!そう簡単に押される訳にはいかないんだよ!!
『避け、捌き、凌いでばかり!攻撃はその短い剣で碌に届かない! それで私に勝てるとでも思っているのか!!その新たな魔導鎧の本質を隠したままで勝てる程に私は甘くは無い!当然、負けるつもりなど微塵も無いがな!!前よりかは多少魔導鎧も柔さが消えたものの、やはりこうして打ち合うのは不得手のようではないか!どうせ本質は遠距離攻撃なのだろう!?』
『そうやって情報を引き出そうとか、焦りの証拠だよ!魔導拳銃は通用しない!持ち出した大鎌は当たらない!何一つ通用していないのはあんたも変わりないだろう!!』
『そう言いつつ、まだ私が見せていない手を引き出そうという腹だろう?』
どちらも有効打が全く出ていない状況なのには変わりがない、それも私が奥の手である【雷電】を使ってこれなのだからリュンクスとやらの経験則から来る魔導鎧の操縦技術の高さが伺えるといっても過言ではない。
そして私も少なくとも対策をしたに過ぎず、ただ凌いでいるだけでしかない。
それにリュンクスの読みは合っている、【フォルティス・アストルム】はやはり機動力を重視しているから近接、特に物理が不得手である事に変わりは無く得手は中長距離、そして魔法だ。
それに対して【フォルティス・モルス】はバランスが良い、【ステルラ】に近い細身でありながらも中長距離を魔導拳銃で支え、近距離は大鎌を振るう。
それも純粋な力でいえば捌いている際の衝撃から【モルス】の方が上だ。
『だけど私にはこれがある!【鉄輪】!!』
弁財天様の八武器が1つ、これを宙に出し【モルス】が中に入るように落としてからの――。
『縮小―――――チッ……。』
巨大な鉄輪の中に入れ、そのまま小さくして一気に潰そうとしたけどしっかりと逃げられた、それも【雷電】状態だからしっかりと見えた。
落下直前に私から遠ざかって逃げていて、落下した鉄輪の中には既に居なかった……第三世代機なんだろうけど反応が早い……これが経験の差かな。
『ははは!どういう武器かすら解らなかったがここまで奇怪な攻撃方法は初めて見たぞ!』
『見たければいくらでも見せてあげるよ!【鉄輪】!!』
周囲一帯に数多の巨大【鉄輪】を降らせた、これにぶつかればそのまま潰れる!それも隙間なんて作るつもりは毛頭ない!砂の上という上に【鉄輪】を敷き詰めるように落とす!
『ぬぅっ!!ここまでするか!だが所詮はただの金属が落下してくるだけの事!素早く避ければどうという事は無い!!』
リュンクスは素早く【鉄輪】の内側に入ると共に素早く上へと跳び上がり、【鉄輪】の上へと跳び乗った。
『む……。』
しかしリュンクスの視界に見えるのは数多の【鉄輪】が砂の上へと落ち、それによって舞い上がった砂埃、それと数多の【鉄輪】だけでカナオの【アストルム】そのものを見失ってしまった。
『どこにいった……この期に及んでまさか逃げ……いや、隠れているか?感じるぞ、女……貴様が滾らせている殺気を……。』
砂埃が舞い上がり続ける中、リュンクスはカナオの殺気は感じるものの、どこから来るのかが解らず最大限の警戒と共に、どこから攻撃が来ても対応出来るよう魔導鎧の姿勢を整えるように構えた。
『さぁ、どこだ……。』
そして両手で持っていた大鎌を片手で持ち、もう片手に魔導拳銃を構える……………そして数秒、いくつかの【鉄輪】から新たな砂埃が舞い上がった。
『1、2、3、4、5、6、7!』
リュンクスはその全てが【シーカ】だと推測、そして本命はこの2つ後に舞い上がる砂埃の場所とまで考えた。
リュンクスは【セプテントリオーネスシーカ】をずっと7つ、と言ってきたが実際は7+1であり、1つだけが異常に小さい。
【シーカ】1つ1つには実際名前がついておりドゥーベ、メラク、フェクダ、メグレズ、アリオト、ミザール、アルカイドという7本の短剣と、ミザールの沿え星であるアルコルという死兆星の名がつけられており、アルコルだけ異常なまでに小さく作られている。
これをリュンクスはしっかりと把握していて、さらにこのアルコルの用途を関節などの細かい部分に刺し込む為のものだろうとまで考えており、それは正解だった。
それを7本しか見えていなかった、とし8本目であるアルコルを飛ばした所の真逆の位置からカナオが飛び出してくる、とまで推測した。
そして飛んでくる7本の短剣を大鎌で捌き、さらに大鎌に魔力を通し、その魔力の繋がりを断ったと同時に8本目の砂埃が舞った方向へ大鎌を片手で構えつつ真逆、そこに魔導拳銃を向けるとリュンクスの思い描いた通りに9本目の砂埃と共にもう1ヶ所、10本目の砂埃が舞い上がった事でリュンクスは一瞬戸惑うも、すぐに考えを修正した。
「そうか、あの2本の【グラディウス】も同じように操れるのだな?」
さらに2本の【グラディウス】を飛ばせば10の砂煙が立てられる、ならば11本目がある!本命はこの次だとばかりに【アルコルシーカ】を弾き、さらに真逆の方向から向かってくるであろう2本の【グラディウス】に大鎌と魔導拳銃の銃口を向け、まずは魔導拳銃で1本を撃ち、さらにもう1発。
魔力の繋がりを切るように撃ち、大鎌と魔導拳銃のどちらでもカナオに対応出来るように備えた。
そして最後の1本が姿を見せた瞬間リュンクスは周囲に気を張った、どこからカナオが出てきても対応出来るように……。
しかし飛んできた【グラディウス】を捌いただけでカナオが出てくる事は無かった。
「……………まさか、あの女……武器を捨てて逃げたか!!」
そもそもリュンクスが挑んでいるのであってカナオにとってはそれに馬鹿正直に答える必要性自体が無い、ここで逃げを選択する可能性も考えてはいたものの殺気が感じられた事で隠れていると推測した。
しかし7+1本の短剣と2本の剣が既に飛んできて捌かれたのだからこれ以上何かをするとすれば……。
「いや、あの魔導鎧は中長距離からの魔法が最大の得手だ。」
逃げたのであれば【フォルティスV】がそのまま残り、リュンクスからもハッチが開いたまま、そこに2人残っているのが操縦席から見えた事で可能性が非常に低いと考えた後。
むしろリュンクスがここから動くタイミングで狙い撃ってくる可能性。
それ以外にも、もう1つ。
そもそもカナオの【ステルラ】自体が広く魔力放出出来た過去がある、つまり今叩き落とし捌いた【シーカ】や【グラディウス】を再度動かす可能性すらある……様々な――。
リュンクスの最大の敗因は考えを巡らせすぎた事かもしれない。
直後、リュンクスの乗る【モルス】が落ちてきた光の束へと飲み込まれていったのだった……。
『おや、あれから逃げるとは素早いというかしつこいというか……あんた他に29人位兄弟いたりしないよね?』
空に留まるように立つ【アストルム】から見える眼下に広がる光景はリュンクスの乗る【モルス】が辛うじて落ちてきた光の束から逃れ魔導鎧の左半分だけが残った姿が見えていた。
『よくあの状態から逃げて魔導鎧の半分が消し飛ぶだけで済ませるとか本来なら褒めるべきなんだろうね。魔石の搭載口もしっかり避けてるから魔力爆発もしなかったようだし。』
但しリュンクスそのものはそれ所ではなかった、何しろ【モルス】の右半分が消し飛んだのだ。
リュンクス自体も危険を察知したからなのかは解らない。
しかし右腕と右足が犠牲になった事で声をあげて苦しんでいた。
『がぁっ!?……うごぉっ!!』
それでも腰につけた小さめの革袋からポーションを取り出し腕と足にかけた事で、止血だけは出来たものの、その痛みは恐らく想像を絶するものである事は見て解る程に操縦席が血に塗れていた。
それはゆっくりと降下してきた【アストルム】の手に握られている非常に巨大な連結式三式魔導砲によるものであった。
連結した2つの魔導銃から相反する属性魔法を融合させ放てば範囲内のものを全て消滅させる事が可能である一方、必要な魔力が膨大過ぎる為にこれを放つだけで【永久魔力機関】を丸々1つ必要とするだけでなく、融合させる為の時間が必要でカナオはその時間稼ぎを【鉄輪】によって砂埃を起こして一気に空へと跳び上がり、地上に残した【シーカ】と【グラディウス】、【鉄輪】によって作り出していた。
アビスの時は球体状に展開し、今回は柱状に展開した事でそれぞれ違う形で消滅させる事が出来たものであり、リュンクスの乗る【モルス】の右側の砂は穴が開くように消失しており徐々に周囲の砂がそこに流れ込み始めていた。
『戦死者の館には行きたくないんでしょ?ならあとはあんたが自分で何とかするんだね。』
その銃口が再度リュンクスに向けられる事は無く【フォルティスV】とワンコとニャンコを回収し、そのまま飛び去っていく中……【モルス】が砂の中へと徐々に飲み込まれていくのであった。
『なんて恐ろしいものを作ったにゃすか……。』
『そうだね、だけどこれは【永久魔力機関】とこれを成す為の魔法学の知識が必要だから撃てるのは今この世界には私だけだよ。』
『世界を滅ぼすつもりにゃすか?』
『どっちかというと逆だよ!』
範囲内の全てを消滅させられる。
これはある種、【永久魔力機関】の暴走対策のものであって本来は人に向けるものでは無かった。
ただ【雷電】を使った程のカナオにとっては思った程の時間的余裕は無かった。
『とりあえずそろそろ限界かな……【雷電】使っちゃうほどにはヤバいと思った相手だったからね……アビスの時は【マギ・ピュロボルス】を消す為に使ったし……出来れば使いたく……ないね……。』
『カナオ?……………にゃ?にゃにゃにゃすぅぅぅぅぅぅ!?』
暫く飛ぶとカナオの意識は途切れ、【アストルム】は砂漠へと墜落していったのだった……。