第百二十八話改 砂漠の山猫 その2
リュンクスの乗る【フォルティス・モルス】と私の乗る【フォルティス・アストルム】がぶつかった際【モルス】が手に持っていたのは、あの遭遇時に見た魔導拳銃・改【アディクウィト】。
それに対する私は二対一組のショートソード、【ゲミニー・グラディウス】だ。
交差させるように受けたもののたった一丁の魔導拳銃に押されるのでは、と思う位にリュンクスの一撃は重く感じた。
『武器を持ったか。だがそれで私の攻撃が凌げるかな!?』
しかもそこからまさかの6連射、回転式拳銃ならではの沿え手でハンマーを起こしての連射、通称ファニングショット。
連射性重視、命中率は経験値次第とも言われる西部劇風の射撃も密着状態かつ銃口が私に向いていない所からの連射なのだけど、この拳銃は確か【弾丸】を魔力爆発で撃ち出す一式魔導銃……銃口から噴き出す魔力残差に紛れて、魔力を繋いだままの操作する為の、か細い線を誤魔化す為にも有用なのだろう。
【弾丸】がいくら魔力爆発で火薬の変わりに発射されても魔力を繋いだままでいれば操作する事が出来る。なら狙いは曲射!!魔力を散布して、銃口と【弾丸】を繋いでいる魔力を阻害すればその操作も断てるだろうけど、既に【弾丸】の進行方向が私に向いていたら阻害しても飛んでくる事に変わりは無い。
『なら弾く!【インファンディビュラム】!!』
7+1本の短剣【セプテントリオーネスシーカ】を【アストルム】から射出!リュンクスの【弾丸】と同じように魔力の線で繋いで動かす、いわば某ファンネルのような攻撃が【インファンディビュラム】。
某ビットでは無いのは非常に小さな人工魔石を搭載しているけど【アストルム】に戻した際に魔力を補充する仕様で某ビットのように短剣自体に多くの魔力を溜めておけない為だ。
またこの【セプテントリオーネスシーカ】は比重と強度の高い魔法金属で作ってあり、人工魔石を搭載した事で、か細い魔力線で繋いでも短剣に蓄積された魔力で動かせる為、これまで難しかった重量物の分離操作が簡単に出来るようになったのです。
『【サルトーレ】!!』
7+1の短剣が【アストルム】の周囲を旋回、そのまま刃先で【弾丸】を次々と弾いていく。
ただ1発目を弾いたと共にリュンクスは距離を取り、回転式の一式魔導銃拳銃の薬莢を排出しての弾込め。
二式魔導銃は一式に比べれば弾の心配がそう必要ないけど物理的な実弾が撃てるのが一式魔導銃の特徴で1発しか入らない火縄銃式かショットガン式が殆ど。
回転式は実はこの世界では非常に効率が良い魔導銃になる。
二丁持つのも手だけど、一丁しか持っていないのも恐らく弾込の為と先程の連射、ファニングショットの為で私の【ゲミニー・グラディウス】を1丁だけで止めた辺り、やはりこいつは強い……。
ただ前回との違いがある、弾速がまだまだ遅い事だ。
前回はそれこそ反応出来ない程の速度だったものが今回は余裕で捉えられている辺り、まだまだ余裕だとでも言っているのだろうか。
『前回よりかはやるようになったか?7本の【シーカ】の刃で角度をつけて弾いたのは見事だが……余所見をしていて大丈夫か?』
『大丈夫だね!1回射出した【弾丸】に魔力が繋がったままである限り、ずっと使い続けられるとでも言いたそうだけど、それこそその繋がった魔力を私の魔力で切ってしまえば良いだけの事!』
銃口から繋がる魔力さえ切れれば遠隔操作等の類は糸が切れたように止まる。
だからこそ短剣の魔力量を少々増やしてそのまま断ち切ってやる!
『だがそれは私も同じだ!その空飛ぶ【シーカ】!魔力を断ち切られてしまえばそれまでだ!【カーバチュァーグロブス】!!』
再度魔導拳銃からカーブを描くような弾丸が6発、複雑な動きを見せて【アストルム】と短剣を繋ぐ7つの魔力の繋がりを切りにきた、それもここぞとばかりに弾速を一気に上げて切った勢いそのままに【アストルム】へと弾丸を向けてきた。
『これで仕舞いだ!』
『そんな欠点を遺す程、私は甘くないよ!【リーコネクト】!【リーサルトーレ】!』
短剣に埋め込んだ人工魔石には私の魔力が籠められている。
たとえ一度切られようと、短剣に埋め込んだ人工魔石の魔力を目指して再接続させる事が出来る。
7+1本のうちの1本にでも再接続が出来れば、そこから残ったどの短剣へも繋ぎ直せる。
これが【セプテントリオーネスシーカ】であり、たとえ全ての繋がりを断たれても即、繋ぎ直す事で【インファンディビュラム】として維持が出来る。
『だが私の最速には追い付けない!』
最初に会った時のあの弾速、目で追う事の出来なかったあの【弾丸】、だけど今なら見える筈。
その為に搭載したのが3つの永久魔力機関である【トレース・デウスエクスマキナ】だ。
本来、第三世代魔導鎧までは全てが正魔力を操縦者が魔導鎧に供給した上で補助である副魔力を魔石から魔導鎧に供給、正魔力の供給量を増やす事で副魔力の供給量も増えていく。
だけどこの【アストルム】は3つの永久魔力機関【エクスデウスマキナ】が正副両方を支えている為に私の消費魔力はほんの僅か、微々たる量だけで済む。
その分、私自身が魔力を使えるのがこれまでの第三世代機と比較した時に強力なアドバンテージになる。
『それを決めるのはあんたじゃない!【身体強化】!【精神強化】!【八臂】!毘沙門の名の下、左手に持ちし銀の鼠に羅刹なる鬼神を纏わす!【速疾鬼】!そして限界を超える為の【雷電】!!』
生身で使う事しか考えていない【雷電】を魔導鎧で使う為にどうしても魔力の消費を極限まで抑えたかった為の切札!この状態で【弾丸】が追えない可能性はあった。
賭けだけど、再戦の可能性を考えていなかった訳では無いからこそ今、最速とリュンクスが言う【弾丸】がしっかり見えている!
『【サルトーレ】!!』
乱れ舞い飛ぶ【セプテントリオーネスシーカ】達が全ての弾丸を弾き、そして全ての魔力を断ち切る。
これが出来た事で、私は過去倒せなかったリュンクスにまずは並ぶ事が出来た。
あくまで並ぶ事が出来た、であり超えていない。
超えるのはこれからだ、と気を抜かずに【雷電】の維持に努めるのだった……。




