第百二十六話改 疑惑の王国 その7
「わん。」
『見つかったようにゃすね、カナオ。キチンと座席の固定具をつけるにゃす。ここからは激しく動くにゃすよ?』
『ん?既につけてるけど?』
『それだけじゃなくかなり揺れるにゃすよ?』
『大抵の魔導鎧は揺れるもんだけど……。』
『ふふ……隊長の【フォルティスV】は恐らく想像以上にに揺れ動くにゃすよ?』
何故か揺れるとか激しく動くとか強調してくるのだけど……そもそもこの【FV・ドゥオ】とやら……移動速度がやけに遅い。
無限軌道である履帯なので雪上でも走れるのだろうけど、とかく遅い。
まぁ馬車位には進んでいるから時速にして10数キロという所?自転車漕いでるんじゃないんだから、と言いたくなるもここからがそうやら真価だったらしい。
この【FV・ドゥオ】が見つかり、空からバラバラと【ヘリ・コプター】が近づいてくる音がすると周囲に魔導銃か魔導砲の攻撃と思われる着弾がいくつも見え、雪がはじけ飛ぶ姿が見られた。
さらにそのうちのいくつかが機体に着弾、確かに揺れが凄い!っていうか……。
『これ大丈夫なんですか!?』
『問題ないにゃす、この程度で壊れるような軟じゃないにゃす。それよりここからが本番にゃす。』
『本番?』
何やら攻撃を受けているのとは別の揺れが次々と激しくなってくる中「シャアアアアア」と激しい音がし出し、そしてその音の正体が見えた。
『なんか超かっけぇぇぇぇぇ!!』
『【FV・トレース】、魔導列車にゃす。雪の上でもレールも無しで走れる専用魔導列車にゃす。』
『え?あれ魔導列車なの??』
この世界にある魔導列車、と言えば蒸気機関車に近いフォルムで見てすぐに解るものなんだけどやってきたのはどちらかと言えば新幹線に近いフォルム……。
『さらに来たにゃす。』
そして空が五月蠅くなってきたかと思えば【ヘリ・コプター】が次々と墜落してくる。
空を見上げると、大きな魔導飛空艇?それと小型の魔導飛空艇?どれも形は船では無く戦闘機や飛行船に近い形で現代的なフォルムばかり……フォルティッシムス王国で作られた魔導鎧や魔導飛空艇とは似ても似つかない姿だった。
「わん。」
『【FV・ウーヌス】と【FV・クァットゥオル】が来たにゃす!ここから超揺れるにゃすよ!!』
正直この世界の魔導技術を舐めていた、【FV・トレース】なる魔導列車が真ん中から2つに折れ【FV・クァットゥオル】と呼ばれる魔導飛空艇?が地上に降りてきて接続、さらに【FV・ウーヌス】と呼ばれる小型魔導飛空艇?も接続された後、乗っている【FV・ドゥオ】が2つに分離した後、【FV・クァットゥオル】へと接続すると突如乗っている座席が90度後ろへと倒れ込むのに合わせて機体が起き上がる事で視界が水平に保たれたままどんどんと高さが上がっていく……。
『これはまさか……!?』
そして今度は座席が後ろに吸い込まれるように動き出し狭い通路のような場所をどんどんと上へと進むと最後にまた4つの座席が1ヶ所に集まった時、これが何なのかようやく理解した。
左右に見える腕、通常の魔導鎧よりさらに高い位置からの視界。
『まさかの合体魔導鎧!?』
『これが小型魔導飛空艇!大型魔導飛空艇!魔導列車!そして魔導重戦車の4機が接続された巨大魔導鎧【フォルティスV】にゃす!!』
『超、外から見たいんだけど!?』
『これから逃げるのに何で外に出るにゃすか……。』
『デスヨネー……。』
ただ私の期待値が爆上がりしたのはここまでだった。
ズシンズシンと歩くか、履帯を回して走るのが精一杯らしくまぁ歩くのとそう変わらない位の速度……。
特に武器等も無いらしく、空飛ぶ【ヘリ・コプター】からの攻撃に耐えつつ、蠅や蚊でも追い払うかのように腕を振り回して物理的に対処するだけの魔導鎧で巨大なのと合体する、という以外特にこれといって特徴は無いと言うか……普通の魔導鎧より酷い……。
『なんだろう……私の期待を返して欲しいのと、これ合体とかに力入れ過ぎて機動性を完全に犠牲にしている気がする……。』
『でも攻撃には堪えられるにゃす、これで逃げるのが一番安全にゃす。』
『っていうかこれ魔導陣と魔法陣どうなってるのさ……。』
恐らくこの辺りにあるだろう、という位置を探すとまぁ大分シンプルと言うか何と言うか多層基板のようなものではなく、1枚1枚魔導陣と魔法陣が彫られた手金属板が並んでいる基幹部分を発見。
『魔導陣や魔法陣は法律上秘匿事項だから見えないようにはなってるけどこれ……殆ど直列で繋いでいるだけでパワーを得ているだけで機動力が無いのがよく解るわ……。』
「わん。」
『弄っちゃ駄目にゃすよ?』
『その位解るよ!起動中に魔導陣や魔法陣に触れるとか壊れる要因だよ!けど悪くない作り方はしてあるんだね。これマギコンかぁ……これで合体を維持してるんだね。』
マギコン、正式名称は魔導接触器。
魔導具等の魔導具の起動停止の為に魔導回路を開閉するもので魔導制御に使うもので魔導鎧には通常搭載する事は少なく、本来は魔導飛空艇に搭載するか第三世代機以降に搭載するものである。
『これが搭載されている構造なら第三魔導鎧化出来るね。あれ?ワンコ隊長ってそういえば白い装束着てるから……。』
そうだ、新式の第二世代であるなら魔導軽鎧を着ていないと操縦出来ない筈がよく見るとハンドレバーだけでを使って操縦している気がする。
『これまさか第一世代!?』
『そうにゃす。』
完全な手動操縦型……それでも中には魔力で磁力を生み出す機構が見つかったり魔導無線の帯域を利用した遠隔操作機構が見つかったりと新旧があまりにも入り混じった、中途半端なものだった。
『これ操縦物凄い大変だと思うんだけどさ……恐らくだけどワンコ隊長専用機、っていうよりワンコ隊長以外誰も操縦出来なかったから押し付けられたんじゃないの?接続分離の合体機構とかかなり珍しいけど、こんなの全部手動でやってたらハンドレバーもフットレバーもいくつあっても足りない気がするよ?』
『まぁ……そうとも言うにゃす、何しろ操縦しているワンコ隊長があれにゃすから。』
ニャンコ准将のお手々が指す先には音もたてずに無数のハンドレバーとフットレバーを巧みに操る、まるで音ゲーでもしているのではないかと思う程に素早く動くように操縦しているワンコ隊長が居たのだった……。




