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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第二章 衛兵さんの成り上がり編
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第十二話改 衛兵さん、冒険者の尻拭いをする。 前編

「はい、次の方ー。」


 領都カウウス 第四南門部隊所属 カナオ二等兵。


 本日のお日柄も良く、あれから苦言や集団暴行等は無くなったものの、嫌がらせだけは減らないし何より3か月は既に7勤を勤め上げたものの休みなど微塵も無いという事位だろうか。


 但し街の雰囲気は悪くなかった、というか良くなった。

 かの禁制品を持ち込もうとした商会は元々かなり評判は宜しくない商会だったそうで商業ギルドから個人的に御礼は言われたもののこちとら軍属であり、仕事である以上は御礼の言葉だけは受け取れても、それ以外は受け取れない。


 例え微々たるものだとしても、それが街の人達のどんな善意であっても、受け取れないのが軍属の正しい姿である。

 但し生活はどんどんと厳しくなっている。


 独身の衛兵には衛兵専用の宿舎が必ず全ての街に存在する。

 村であれば慎ましいながらも実は家が貸して貰えると意外と福利厚生には力が入っている。


 但し衛兵専用の宿舎、というのは衛兵しか立ち入らないのだから何かあれば衛兵がやった、という事になる。

 私が厳重に鍵を増設したのをいない間に破壊し、部屋が荒らされ備え付けの家具は破壊されて、絶賛その弁済を迫られ一応弁済は済み、私の部屋は扉が無い、窓が無い寒空状態で家具の1つも置いていない場所になっていた。


 ああ、苦情は来たよ?お前の部屋に窓も扉も無いせいで宿舎の中が寒いと……。しかしどの部隊も事件として取り上げもしないし私は弁済はしたけど、再設置には拒否した。


 もし再設置したとしても壊れた場合、拒否したのだから破損した場合、街の衛兵としてまとまって渡されている軍備費から捻出するように、と断ったからでやっとつい先日、最早扉では無くただの板が打ち付けられ出入りすら難儀するような部屋へと変わり私は宿舎に宿泊しないようにしていた。


 つまり今の私は無宿状態!なら寝る場所など1か所しかない。

 衛兵の詰所である。

 但し危機察知能力は異常なまでに高いので誰かがやってくればすぐに起きる為、嫌がらせ目的で寝かせないように、なんて事が横行。


 結果、私は街中の毎日ランダムな場所で頭陀袋から生み出した寝袋に包まって寝ている。

 まだこの方が寝られる、というかまぁ正直に言えば、街中の街路樹の枝葉の中とか?


 【羅索けんじゃく】で寝袋を固定しているので少々夜に顔だけがうすら寒いのさえ我慢すればなんとかなっていた。

 と、いうかこれがまかり通る位に国軍の上層部は何を考えているのかと思いたい位だ。

 だけどこちとら孤児を15年もやってきたんだ。


 孤児の寝床を知っているかな?ただの板の間の上で寝るんだよ……雨風凌げるだけでそれはもう幸せな空間な訳で上掛け1枚ある訳も無くただ雑魚寝する世界……。


 それに比べればまだ今はまともな方で頭陀袋から出てきた寝袋の快適さがある分マシである。

 そして日も暮れ始めた最中、事件が起きたのです。


 門番で最も警戒しなければならない人物がやってきたのです。

 強面?全裸?いやいや……走ってくる連中です!


 大抵走り込んでこようなんて連中は何かに追われている場合かそれを装っているケースが多い。

 特に何かに追われている、はそれが国軍の騎士なら犯罪者かその類なのだけど、そうではない場合が多い。

 あと追ってくるもの、と言えば……魔物だね。


 それも本来であれば街の外壁上に居る衛兵が鐘を鳴らして一番先に知らせるものなのだけどそれすらされていないのは、まぁ多分サボってるか余所見しているか、寝ているかかな……。


 だけど何よりマズいのは日が落ち始めている中、閉門までに入ろうと並んでいる人達が居る事。

 特に冒険者等が帰ってくる時間帯だったり商人の人達が仕入れなどで帰ってくる事も多い為日の出・日の入りの時間は特に混むのです。


 その列すら伸びたままで走ってくるほんの微かな音を私の鼠耳が感知したのです。

 走ってきているのは……5人。

 そしてその後ろが………歩幅が大きいのと多分四つ足……魔物だね。


「接敵!囲柵の展開後列者を収容!それと同時に跳ね橋上げ!」


 ちなみに本来いるべき指揮官にあたる部隊長や部隊長補佐がこの場に居た事等無い。

 そうすると全員が二等兵なので上官も糞もない上緊急事態だと、私はそのままその場を放棄して列者、つまり並んでいる人達の最後尾側についた。


 他の衛兵達は何を言ってるんだか、とか漏らしているのまで聞こえているけど私の大き目の声に城壁の物見役が気が付いたのかすぐに鐘が鳴り出すと、腐っても衛兵だった。


 すぐに囲い柵と呼ばれる策を門の周りに設置展開。

 これは門の外に居る人を一旦中に入れて検閲等が終わっているか居ないかを区分けする為の柵。


 それが設置されれば全員一旦中に入れて安全を優先する。

 終われば門は閉めないで、そのまま跳ね橋を上げるというのが基本的な魔物接近、つまり接敵の際の対応で適宜、最後に門を閉める。


 これは逃げてくる人が居る為、最悪素早く跳ね橋を下ろして救助する目的がある為、門はすぐには閉めないのです。


 そして私の後ろから、同じ第四南門部隊の衛兵が本来ならやってきて、跳ね橋を渡り切った所で一旦陣取る筈なのだけど……来ないね。


 跳ね橋の先端には実は金属製の部品がついていて最悪、そこに捕まって収納されていく跳ね橋と共に水濠上を街側に向けて移動して逃げるという手段があり跳ね橋も完全に閉め切らなければ一応中に入る為の隙間がある為、身体を捻じ込んで街に避難、という方法がとれる、というのがこの街の防衛マニュアル的な対応。


「だーれも出てこないでやんの……。」

 そんなに命が惜しいか、とでも言いたい所だけどまだ列者の収納が終わっていない以上私もこの場を離れる訳にはいかない。


 最悪走ってきている連中を見捨ててでも街の住人を守るのが衛兵の最優先事項、だからね……。


 ただ、外壁上からの声が不味かった。

 どの衛兵かは声で解ったけど、それを叫ぶのは悪手だ。


  「ランドタートルだ!」


 それが聞こえた途端、列者が一気に街へと雪崩れ込んでいくパニック状態になった。


 ただ鐘が鳴っただけで、私が対応を叫んだ事もあり列者が落ち着いていてくれた中、一気に何がやってきたかを叫んでしまうと、こういう事になる……。


 ランドタートル、亀型の魔物でそのサイズは10メートル級と本来であれば魔導鎧マギ・アルミスで対応するような魔物である。


 ここは領都なので領軍が居る。

 そして領主の私兵である領軍は数少ない魔導鎧マギ・アルミスを所有する事を許されている人達である。


 直に北門から発進してくるだろうし北門も久しぶりの仕事に、多分慌てまくるだろう。


 だけどそれを並んでいるだけの列者に言うのは馬鹿だ……。

 後ろの物音を聞く限り、恐らく囲い柵が間に合っていない。

 多分そのまま街中まで馬車などが通り抜けてしまった可能性すらある。


 ま、責任を取るのは部隊長と部隊長補佐の仕事だから?私は気にしないし、パニック状態の対応は動きの悪い同僚共に任せるさ……。


「しかしランドタートルかぁ……。」


 ランドタートルは基本草食魔物だから人を襲う事は無い。

 こういう魔物を益獣とも呼び、手出しさえしなければ問題が無い、と実際は強さも低く見積もっているのが冒険者達を有する冒険者ギルドだ。


 だけどランドタートルは2つの事をすればどこまでも追ってくる。

 1つ、ランドタートルの卵を盗みそれが見つかった場合。

 もう1つがランドタートルは良質な素材が採れる。

 その最も有用とされるのが背中の甲羅だ。


 ハニカム状に分離出来る集積型の硬質素材で主に盾や鎧、一部の武器にすら使われる。

 そして冒険者はランドタートルが弱い、と勘違いし襲い掛かる事が良くある。


 何しろ普段は足が遅くのっそりのっそり歩くけど実は非常に速く走る事が出来る。

 ランド、陸の名を冠しているけどこれを付けたのも冒険者ギルドなのだけど、実はランドタートルは半水棲。


 陸地に居る時間が長いだけで、海だろうと川だろうとどこでも泳ぐ事が出来るのです。

 そして半水棲の亀というのは足が速いと決まっている。

 地球ですら秒速で1メートルに及ばない位の速度で陸地を走る亀だって居る位で半水棲亀は足が意外と速いのを知らない人が多い。


 そんな亀が10メートルサイズ、となれば人を追いかける事だって無理な話では無い。


 そして見えてきた、走って逃げてくる5人とその後ろのランドタートル……。


「こりゃ領軍の魔導鎧マギ・アルミスは間に合わないかなぁ……。」


 それに私の後ろは恐らく部隊長か部隊長補佐がついたのかもしれない。

 まだ跳ね橋を半分少し渡った位の列を為していた人達と馬車が居ないと判断したからか、跳ね橋を上げ始めたからだ。


 これは対応としては間違っていない。馬車さえ居なければ折れ曲がる跳ね橋の半分を超えた段階で橋を上げ始めて良い事になっている。

 私から見ても、良い判断だと感じている。


 逃げてくる彼等とランドタートルを引き離す事も出来ないであろう、と判断した。

 そして私は対応的に上がる跳ね橋に捕まればそのまま回収対象になるから、見捨てた事にはならないのでマニュアルとしてはまぁ模範解答での丸なら貰えるのだろう。


「ちょっと、最近鬱憤が滞積してるからさ……。絶滅危惧種ですら無い魔物だから、狩らせてもらおうか!」


 少なくとも私はこの後、超怒られるであろう。

 衛兵は戦う軍人では無いからだ。

 街を守り、籠り、そして騎士や領軍へとそのバトンを渡す守りが最優先の軍属だから、私の行動はここからは本来の衛兵としての行動から逸れる事になる。


「あれを見限って、この上がっていく跳ね橋に捕まれれば……。そんな性格だったらどんなに楽か……。それと模範解答が正解じゃ無いからね!」


 私が目指すべきは騎士、魔導騎士マギ・エクエスだ。

 なら目の前の出来る限り救える命があるのならば今の立場が衛兵だろうと、それに立ち向かうのが私の目指す魔導騎士マギ・エクエスだからだ!

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