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フクロノネズミ ―魔導騎士物語―  作者: ボブ
第六章 デシデリウム帝国編
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第百十八話改 もう1つの 一人は皆のために

「はん……もうデシデリウムは終わりだしフォルティッシムスは吸い尽くした。そして私達はあれだけの魔導鎧を差し出しても、この小型の魔導爆弾を売りつけて大儲け。本当、笑いが止まらないね……。」


 丁度【フォルティスI】シリーズがデシデリウムへと反撃を開始した直後、アビス武器商会会頭のアビスは独自の情報網からフォルティッシムス王国の動向を掴み多くの第三世代機よりも遥かに性能の高い魔導鎧が投入された事を知り、デシデリウムがこのまま負けるだろうと判断。


 専用の中型魔導回転翼艇【ヘリコ・プター】でフォルティッシムス王国、デシデリウム帝国のある

 ペルグランデ大陸から逃げ、海の上を飛んでいたのは間もなく日が昇ろうとしている頃だった。


 【ヘリコ・プター】の中にはこれまでにインテル王国及びフォルティッシムス王国で作った【永久魔力機関】の失敗品である小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】の数々。


 アビスはここまで帝国へと多くの魔導鎧に魔導軽鎧、そして魔導飛空艇等を売りつけてきたものの本命はこの小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】の入手だった。


 何しろインテル王国の王都が消滅するだけでなくその周囲までをも地面ごと消滅させる戦争の切札中の切札、それを作る為にデシデリウムにフォルティッシムスを利用し製造させ、そしてそれを持ち去り他国へと売りつける。


 何しろランタン程度の大きさで王都を消滅させられる、そこに必要なのは1人の暴走させる為の人員だけで一度発動させれば最早止める事も叶わない。


 それも純粋な魔力爆発が起きるだけで消滅させた場所には精々暫くの間、濃い魔力が漂うだけでこの世界には存在しないものの、原子爆弾に比べてもクリーンであり、その後に国を奪い取るには非常に都合が良い。


 それもこの世界では魔法薬の最高傑作、とも言えるあらゆる欠損を瞬時に治し、病をも治してしまう神薬とも呼ばれる【ハーフエリクシール】1つですら日本円にして数千億円の高値をつける程でそれが年に4・5本、地下迷宮から産出される。


 しかしこの小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】であればこれ1つで国1つが手に入る可能性すらある、そして使う側にとってはメリットの方が圧倒的に多い。


 デシデリウムに渡した魔導鎧等を先行投資、と出来る財力あっての事ではあるもののこれで更なる財を成し、そしてまた投資出来る。


 まさに武器商人、死の商人と呼ばれるだけの手際と引き際の良さからこれまでこうして生き延び、そして儲けてきた彼女ですら笑いが止まらなかった。


 ただ彼女にとって不運だったのはこの小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】を既に知る者が他に居て、それを調査していた者が居た事。

 そしてその者達はたとえこの場でこれが暴走したとしてもそれを何とかするだけの対策を打ってきた事だ。


「さ!戻ったら忙しくなるよ!これだけの量だけど当然、高値を付けた国に売りつけるか……いや、両方に売りつけるってのもありっちゃありだね。何しろこんなものを使う場所なんて王都が一番効果的だ。一緒に宝物庫だの国庫だのまで消滅されたら私等が手に入れる金が減るってもんだからね!」


  『残念なお知らせだけど、それを持ち帰らせる訳にはいかないんだよね。』


 突如、中型魔導回転翼艇【ヘリコ・プター】の広域魔導無線に音声が入ると、機内の緊張が一気に高まった。


 そしてすぐに機の外に目を向けるも操縦している者の目にも、アビスの目にも魔導無線の発信源が入る事は無く、かなり遠方から飛ばされてきたものだと推測してしまった。


「一体どこから!?すぐに魔導無線の発信源を辿りな!」

「っ!?会頭……大変です。」

「あ?何が大変だってのさ!!」

「発信源は……この【ヘリコ・プター】の中です……。」

「はぁっ!?お前達!すぐに中を調べな!!」


 アビスの指示に同乗している人々が動くも決して発信源のようなものは見つからない……。


  『無駄だね、いくら探そうと見つかる事は無いよ?』


 アビスはその少し幼さの残る様な女性の声に思い至った……。


「あんた……フォルティッシムスの……。」


  『はて、私はあんたに名乗った覚えは無いよ?勝手な思い違いをするとか迷惑この上ないね。』


「いいや……、あんた。あのフォルティッシムスの第一〇一騎士隊、総隊長とやらだね。調べ位ついてるんだよ?」


  『なんだぁ、どこぞの将官から情報でも握ってたのかな?ま、どうでも良い事だけどね。』


「どうでも良い?」


  『今からあんた達はこの海の藻屑……いや、この世から消滅するんだからね。』


「はっ!まさかこの大量の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】ごと攻撃しようだなんて考えちゃいないだろうね!?これだけあれば大陸1つは消える代物だよ!下手すればあんたも巻き込まれて死にかねないんだよ!新しい魔導鎧をどうせ作ってきたんだろうけど【マギ・ピュロボルス(爆弾)】は何とか出来る訳が無いのさ!それでも殺ろうってのかい!?」


  『当然、そんなものこの世界には必要ないからね。たった一人の犠牲程度で簡単に多くの人々が殺せる兵器?そんなものが出回る様になればいくらお金になった所であんた達の思い通りの世界になる訳が無いんだからね。』


「思い通りの世界?」


  『たとえいくらお金があった所で、食べるものは誰かが作らなければ勝手に出来る訳じゃない、あんた達が飲む酒だってそうさ。それをする人が居て、初めて成り立つ訳であって人を犠牲にした上で出来たお金なんて使い処が無くなればただの鉱物の塊でしかないんだよ。』


「はっ!そんなもの知った事じゃ無いね!」


  『その【マギ・ピュロボルス(爆弾)】って代物は加減という重要な事が出来ないんだよ。そして人を素材として【マギ・ピュロボルス(爆弾)】を作り、作った【マギ・ピュロボルス(爆弾)】で人を殺す。武器商人を名乗りながら、戦争を早期終結へと導いて価値そのものに目を奪われた結果の先にあんた達が望むような世界なんて出来やしないのさ。ただ世界の終わりが加速して、亡びるだけ。それともあんた、1から農業でもするつもりかい?』


「なんだか見てきたような口を利くじゃないか!成人したての小娘が達観でもしたかい!?」


  『知ってるよ、世界がどうなるかくらい。その【マギ・ピュロボルス(爆弾)】なんてものはただの【永久魔力機関】の出来損ないだろう?それに作り方自体が間違っているんだ。人を犠牲にして作ってる以上、永遠に完成なんてしない。まぁ、あんたが作り方を編み出した訳じゃ無いんだから?どうだって良い話だよね。』


「……………あんた何故その【永久魔力機関(ことば)】を知ってるんだい?」


  『だから知ってるっていったでしょ?この世界はその【永久魔力機関】が完成してその暴走によって滅びるんだよ……それもあんた達が今乗っているその魔導回転翼艇とでも言うのかね。詰んでいる分で精々大陸1つを消滅させるのが限度だろうけどさ……本物は3つあればこの世界を支えている大地が消え失せるだけの代物なんだよ。』


「何故そんな事が言えるのさ!」


  『言えるよ、だって私が乗っているこの【フォルティス・アストルム()】には実際に私が作った【永久魔力機関】を搭載しているんだからね。』


「は?何を言ってるんだい……。」


  『もう一度言うよ、この魔導鎧には本物の【永久魔力機関】が搭載されてるんだよ。そして【永久魔力機関】に必要な素材は人では無いんだよ。何から手がかりを見つけたのか知らないけど人の命をいくら奪った所で完成はしないよ。だって人の魔力は有限で容量が決まっているんだよ?なんでそこから永久に魔力が湧くと思ったのかね?』


「待ちなさい……何故それを私達に……。」


  『あんた達じゃないよ、これを盗み聞きしている奴に言ってるんだよ。聞いてるだろう?そこの武器商人共に魔導鎧などを供給し【永久魔力機関】を作る実験をさせた張本人がさ。失敗作が【マギ・ピュロボルス(爆弾)】?そりゃ人の魔力は有限なんだから【マギ・ピュロボルス(爆弾)】にしかなる訳無いよね、それでも魔石の魔力を爆発させる【マギ・ピュロボルス(爆弾)】に比べれば魔力量が大きいのは波長の違う魔力が入り混じった結果で、魔石は基本波長は1つしかない。それが結果として魔力爆発の威力に影響しているだけで本物の【永久魔力機関】は波長はたった1つなんだよ。恐らく魔物の魔石でも実験位したんだろう?』


「あ……あんたはさっきから何を言ってるのさ!!」


  『あんた達、簡単に【マギ・ピュロボルス(爆弾)】の作り方を教えてくれるような奴が居ると思ってるの?そいつの目的はあんた達が作る事でただ検証数を稼ぎたかっただけで利用されていただけだってまだ気が付いてないの?まぁそれでももし【永久魔力機関】が完成したら高値で買い取る、とでも言われてた程度と見てるよ。それにあんた達にそれを伝えた人物は早々に亡くなってるよ。あんた達に辿り着くのはかなり早かったけどそこから先は非常に厄介だったって聞いててね。途中で追えなくなったらしいよ?』


「だから何を言ってるんだっていってんだよ!!」


  『あんた達に小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】の作り方を教えたヴィータって人物は製作者本人じゃないよ。黒幕は自らの手で実験するにはあまりに大変だからあんた達を利用しただけ、その為にはまぁ盗聴から何から監視する必要だけはあるって事。その魔導回転翼艇を含めた、全ての提供品にはその為の盗聴機構が備わっている、これは既に確認済だよ。中継機を探したけど、見つかったのはあの馬鹿でかい魔導飛空艇。そこから先は乗り込まないと解らないんだけどさ……恐らく対策位はしているんだろう?そうじゃなければ向こうから話しかけてくるだろうけどそうすると尻尾を掴まれるから喋らない。流石、地球にしかない回転翼なんてものを持ちこんだだけはあるよね?』


「私の話を聞けぇ!お前は先程から何を言っていると聞いているだろう!!」


  『あー、私もこれを考えた奴ももうあんた等に用事は無いし興味もないよ。ただねぇ……多くのフォルティッシムス王国民を犠牲にしたその罪、きっちりあんた達の命で支払ってもらうよ!何しろ「皆は1人のために」ってみんな殺してきたんだからさ。今度は「一人は皆のために」って犠牲にならないと駄目だよね?』


「まっ、待て!今私達を殺したら―――――。」


  『大丈夫、対策位してるから。ほんのちょっと近場に高波が行く位で済むから安心して逝って良いよ。行先は地獄だけどね!』


 カナオのその言葉と共に、アビス達が乗る中型魔導回転翼艇【ヘリコ・プター】が光に飲み込まれ小型の【マギ・ピュロボルス(爆弾)】と共にこの世界から消滅したのだった。





  『……………わん……。』

・作戦名【ウヌス・プロ・オムニブス】について。


 ラテン語で【ウヌス・プロ・オムニブス、オムネス・プロ・ウノ】という

 成句であり「一人は皆のために、皆は一人のために」という言葉から。

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